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水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
剣の巫女
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葦原( 2 )


 優は静かに、桜子に頷いた。


「それに気づくのに、ずいぶんかかったよ。撫子が『水神の剣』の守り手になった時、すめらぎは彼女を欲した。それが叶わなかったのは、瑞彦がそう差配したからだ。

 俺は、剣の力を解かなければいけないと考えた。どんなことがあってもそうするべきだと」


「それは、お母さんを——守るため?」


 風がむぐらの葉を揺らしてゆく。

 優はそれに何も言わなかった。だが言外にも読み取れるものがあり、そうであることはもう明白だった。優は、先の言葉には触れなかった。


「撫子もそれを望んでいたんだよ。力を解くことを。だがそれを、宮ですることはできない。あそこは古くから神霊を呼び寄せる場所として、特別な磁場をはなつ場所なんだ。力を放つのは、宮の外でなければいけない」


 そこで優はいったん口をつぐみ、改めて桜子を見た。


「守り手が背負うものを、瑞彦は少しもわきまえていなかった。もっと前に手を打っておけば、撫子は長く生きられたはずなんだ。それと同じ過ちを、瑞彦はまた繰り返そうとしている」


 声に引き込まれるように、桜子も優の方を見返した。そうして静かに語っている様子は、薫の面差しに似ていなくもない。祖父のことを語る口調には、まったく感情が込められていなかった。



 一陣の風が吹く。

 優はふたたび言った。



「もし桜子が少しでも恨みに思うなら、ここで『水神の剣』を呼べばいい。これは俺の私怨しえんでしかないが、今まで家族に何ひとつ知らされず、過去には母を見殺しにされたことに、憤りがないわけじゃないだろう?」



 母を見殺しに——



 その言葉の響きに、桜子は胸をかれた。

 今まで、そんな風に考えたことはなかった。


 でもそれが事実なのだとしたら、家族や祖父は責められるべきかもしれない。『水神の剣』のことも、守り手の力のことも、ひいては自分がその血を受け継いでいることも、まったく知らされずに育ったのだ。それに怒りを覚えたこともある。でも——



 祖父も父も、桜子のことを顧みないでいたわけではないのだ。婿がね探しに躍起になっていたのは、そうする必要があると、頑なにそう信じたからだった。

 祖父はただ、安寧を求めたのだ。撫子が早逝したとがに、苦しまないでいたとは思えない。桜子は唇をひき結んで、まっすぐ優を見上げた。



「私がこの力を解こうと思うのは、それが自然だと言った薫の言葉を一度信じたからなの。里の人を傷つけることはできない」



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