荒屋( 4 )
そう分かると、今すぐにでも里に駆けつけたい気持ちにかられたが、あいにく体の調子がまだ完全とは言えなかった。守り手になると負荷がかかるということが、改めて身に沁みるようでもあった。
神力に近いものを人が負うためには、それに見合う代償が必要なのだ。桜子の様子を見越して優は言った。
「少し横になれば動けるようになる。君の母も、疲れるとそうしていた」
桜子は、遠のきそうになる意識をなんとか留めようと唇を噛みしめた。
「優さんは、どうして私を助けようとするの」
ほかにも聞きたいことはたくさんあったが、口をついたのはその言葉だった。
優は目を細めて薄く微笑んだ。
「守り手の力を解けば、剣に関する妄執も断ち切れる。そんなものに固執して生きられなくなるなど、あってはならないことだ。里に雷が貫き、焼け野原になれば、さぞかし清々と快いだろう」
声に不穏なものを感じて、桜子は反論しようと口を開けた。
——が、視界が揺れて、何も言葉にならない。
優はふたたび、恍惚とつぶやいた。
「桜子は、すべてを無に帰する力を今持っている。剣の力とは、本来そういうものだ。存分に心ゆくまで振るえばいい。撫子を犠牲にした里の者たちへ」
——ちがう。そんなことが、したいわけじゃない。
桜子は、心のなかでそう叫んだ。
一方で、優がずっと重く抱えていたものの正体を垣間見たような気がした。
——優さんがお母さんの影を追ったのは、あの里を出て行ったのは、それだけの理由があることだったんだ。
それに気づかない自分も迂闊だった。
あえて見ないようにしていたのかもしれない。
——優さんがお母さんに惹かれていたとしたら。
おじいちゃんが優さんを危険視したのは、そういう意味合いを込めてのことだったんだ。
それ以上、意識を保つことはできなかった。
桜子は暗闇に投げだされるように、気づくとその場に崩れ落ちていた。




