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よし、勇者殺そう


「ねぇ君、可愛いね。彼氏とか居るの?」


「はい?とっても素敵な婚約者が居ますけど?」


 よし、勇者殺そう。


 魔王討伐パーティーの顔合わせが行われた王城のとある一室。

 僕のミリアを僕の目の前で口説き始めたクソ勇者が居た。僕は勇者を殺すべく右手に魔力を集中させ、ずん、と一歩を踏み出す。


 が、途端に肩を掴まれた。

 振り向くとそこには教皇(ついさっき知った。結構偉い人だったらしい)が頭を横にブンブン振って立っていた。


「教皇聖下、止めないで下さい。奴を殺せません」


「駄目ですお願いします殺さないで下さい」


「いくら聖下のお願いとあってもそれは無理です。殺します」


「やめて」


 いくら聖下のお願いとあっても、震える声でお願いされても無理なものは無理である。ミリアに手を出した男は勇者であってもなくても一様に半殺しの刑だ。

 顔を青くした教皇聖下に右手をスッと上げて見せると大人しくなったので勇者の元へと進んでいく。


「へぇ、でも僕の方がきっと君の事を幸せに出来るよ。君、田舎の農村出身なんでしょ?相手も農民なんだってね。婚約だって口約束程度の軽いものでしょ?僕は魔王を倒した後にそれなりの地位も約束されてるし、きっと今の婚約者と結婚するよりもずっと贅沢な暮らしが出来るよ」


「私、贅沢な暮らしとか興味ないので。婚約についてもちゃんと教会に報告してますし。あとこの場に彼、居ますよ?」


「あぁ、もしかしてあの『聖戦士』とか言う一番弱そうな"ッッ!?」

「その弱そうな聖戦士のアイルだけど?僕の婚約者を僕の目の前で口説こうなんていい度胸だね」


 背後からスッと勇者の肩に左手を乗せて、彼の背中あたりに魔力を集中させた右手を添えると勇者の顔はみるみるうちに青くなっていった。

 後ろで固まっている教皇聖下のお顔も青を通り越して白くなっている。


「き、きき、君は?」


「だから、聖戦士の、アイル、だよ。わかったら二度と変な気を起こすな、いいね?」


 勇者の耳元で言い聞かせるようにそう言うと勇者はがくがくと壊れたオモチャのように頭を縦に振った。

 まぁ、今のところは許しておいてやろう。この野郎、大人しそうな黒髪眼鏡の癖して性欲は猿並みだな。


「勇者殿…………自業自得ですね」


「只の馬鹿とも言う」


 教会から参加した『聖女』のアリシアと子爵家の長男だという『剣聖』のセドリックが勇者に向けて悲しそうな目を向けてぽつりと呟いた。

 僕だって悲しい。人類の希望であるはずの勇者が、たいして強くもない下半身野郎だったのだから大いに失望した。


 僕は勇者の首根っこを掴んで適当に床に放るとミリアに駆け寄った。


「ミリア、大丈夫?汚ならしい野猿に触れられて、寄生虫が沸いてたら大変だ、直ぐに綺麗にしなきゃ『セイクリッド』」


「アイル、そんな最上級の状態異常回復魔法なんて使わなくて良いのに。彼に触れられてなんていないわ。とっても迷惑だったけど」


「これからはミリアの迷惑にならないように処理するから、僕の側を離れないでね」


「もちろん、大好きだよアイル」


「僕も、愛してるよミリア」


 そして床に転がった勇者に見せつけるように互いに顔を寄せあいねっとりと蕩けるようなキスをする。

 勇者は口を半開きにしてポカーンとした表情をしていた。


「………あっちはあっちで馬鹿ですよね」


「そういうことを言うな。殺されるぞ」


「大丈夫です、たった今勇者の悪口言ってれば殺されないと主が私に神託を授けられましたので」


「おお…………神よ………」


「勇者様きもーい、チャラ男ぶっててダサーい(棒)」


 頭を押さえるセドリック。興味ないとでも言うように置いてあったお菓子を『美味しいです、美味しいです』と言いながら食べ始めたアリシア。

 床に転がったまま動けなくなっている勇者に、勇者が殺されなかったことにほっと胸を撫で下ろす教皇。


――――ガチャリ


 扉が開く。


「皆様、会食の準備が整いましたのでホールまで………………皆様?」


 王城勤めの使用人が入ってきたが、あまりにもカオスなこの空間に絶句し、言葉が続かなくなった。

 王国は今、色んな意味でピンチに陥っていた。

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