表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バニシングセブン  作者: カサ
9/12

地獄に落ちようとも

SBスピード 社長室

「しかし、会長がここまでの指示を出すとはよっぽど恨みでもあるんですかね須賀社長」

応接用の椅子に笑いながら喋るモーターストリート編集長 島田

「さあな、なんでも全てを奪われたとか言ってたからな、私も詳しくは知らんよ。ただ指示は一つ事故らせろということだ。」

須賀の顔が緩む、ライバルの車や伝説を潰して名を売る。手馴れたものだろう、この男は

「さて、須賀社長。どんな方法でやるつもりで?影山は協力しないかと」

「シャドー号と例のFD、こちらのWRXを出す。後ろからカメラで撮る名目でいけるだろ。そして後ろからFDを・・・」

「なるほど・・・ククク、FDのオーナーは災難というべきか・・・まあ事故なら仕方ない。」



神田橋JCT~江戸橋JCT 環状外回り PM10:30

FD3S 水温60℃―4速 2000rpm前後維持

「回さないと、本当大人しいわねロータリーは」

きららは様々なRE車両を乗ったことがある、共通する部分は回さないと面白みが薄いという点がある、回してホントの真髄を見れるそれがロータリーエンジンであり、チューンドなるほど難しくなる持病でもあった。

そんなこと結花は知らない、このFDぐらいしか基準がないからだ・・・だが本質的に気づいてはいた

「正直、こうして合わせて流す方が少し神経使うかな・・・抑えるというか、踏んだほうが楽。」

FD3S 水温70℃ 宝町~銀座

R32車内

「いいねぇ、FD・・・ロータリーマシンをああいう感じで走らせるって、走らせ方をわかってるな。クロ、お前が教えたのか?」

「ある程度は・・・でも、走り方というのは車自身が教えるもんだ。操作とルールとかは教習所、技術は人からか乗り続ければ付く。でも走り方は車それぞれだから。どうすればいい走り方をすれば活きるのか教える車と人間が噛み合ってな、ただ良くも悪くもな。」

「車が教えるか・・・そういう考え、今じゃあんまり思いつかないよなクロ」

「人の運転技量が、車の技術の方が上。どの乗用車もそう感じるな」

自動運転、自動ブレーキ、駆動制御。乗りやすい機能、アシストが進歩した2010年代、技術進歩による技量の均等、平等化。誰が乗っても乗りやすい、事故を起こしにくい、少なからず日本の乗用車両はそういう進化をしてきた・・・それが車として、人の道具ツールとして正しい

「人の道具ツールとして正しい進化をしてきたと思う、この車のアシスト、スタビリティの技術は、だけど正しいだけが人を惹きつけるわけじゃない、目の前に走るFDそして、山岡さんのこのR32。歪な姿をこそ、魅力的なものがあるし、車から乗り手に訴えかけてくるよな。乗り方、扱い方をな・・・」

FD3S 水温80℃ ―

「新屋の奴、死んだだよな・・・確かガンだっけな。おれはつい最近知ったよ」

「おれはあのFDが俺のところに来てからだ。そういえば、同じだよな新屋と始めて会った時・・・いや遭遇した時と、山岡さんがこのR32を運転して、俺がナビシートで環状線で探してて・・・全ての始まりだったよな」

感傷に浸かる二人・・・彼らにとっては新屋の存在があってこそ今日がある・・・

「新屋が残した最後で、最高の傑作・・・いま目の前に最高の乗り手と共に走ってるんだ。見せてやりたいぜ、この光景を・・・」

FD3S 水温90℃ ―

「FDの音色が変わった・・・来るぜ、山岡さん!」

FDのリトラクタブルを閉じ、FDのパネルについた自作のツマミを調整しフォグランプの光量を変えた

トンネルを抜け 汐留JCT FD3S三速からフルスロットル 後続のR32もフルスロットル

汐留S字コーナー、左車線から抜けるFD・・・続くR32

「これがあのFDの音・・・!なんだよこれ!俺のRB26の音が聞こえねぇ・・・聞こえねぇよクロ!」

「ああ、あれが新屋の最後の作品・・・!」

浜崎JCT C1外回り方面 右コーナー 手前で速度を落として侵入する・・・そして車体を出口に向け再加速・・・高回転領域まで回すことで響くロータリーサウンド。見るものが一度は振り返るその存在感・・・

「・・・上手いというわけではないな、あの子・・・だけどこういう時の走り方をわかってるな!こいつは!よく踏み込んでいってる!」

一方FDのナビシートに乗ってるきらら、右車線よりに・・・目の前の一般車が追いつくと一旦ブレーキを踏み、観察し抜いていく・・・

はっきり、自分が運転したほうがこのFDの性能を引き出せる、もっと早く走ることができる。速度を落とさず抜けれる自信がある・・・ただ、このFDの音に煽られる高揚感、これに負けていた・・・それ以上踏む込むこと、全開で環状を半周もできなかった・・・このFDに飲まれてしまう感覚に完全に負けていた。

一ツ橋JCT、合流がある地点・・・右車線によることでトラブルを避けるように走る。R32は一定の距離を保ちながらついてくる。

谷町JCTを通りコーナーを抜ける・・・そして迫る、霞ストレート、一般車なにクリアな状況一気に加速する二台

だが結花は、どうしてここまで踏む込めるか・・・隣に乗ってる自分もどうにかなりそうなぐらい気分が高まるのになぜ飲まれない・・・と思った瞬間下り坂手前でかなり早めのブレーキング、減速をするFD

「ええ!?ここで落としちゃう!?」

はっきりもう少し前でも全然いける・・・と思ったら、下った先に2車線塞がるように一般車が二台走る。

「わかってたの?先に車がいるのが」

「いや、全然ただ視界に映らない場所だったんでもしかしたら?って、嫌な気もしたから落としただけです。いつもそうですよ私」

左車線に移り、一般車の後ろに付く・・・退かさず、煽る意思を出さず、霞トンネルを走る

後ろのR32

「優しいねぇ、結花ちゃんは・・・俺ならさっさと行けよって思っちまうよ」

「観察してるんだよ・・・周りの動き、そして自分の気持ち・・・嫌な気がするなら流れを止めるか降りる、行ける時は踏み切る、そういう観察眼がいいんだよ。」

「しかし、あの音・・・こっちは踏みたくなる衝動に駆られるのにあの子はそれに負けてない。すごいな・・・我慢強いのか」

「結花ちゃんは飲まれないからな、あのFD・・・良くも悪くも我が強いのか、冷静というか・・・俺が知っている走り屋や乗り手にないタイプなんだよな、父親、七海さんもそうだったな・・・」

霞ヶ関トンネルを抜け、三宅坂JCT前2台のうち、1台新宿線へ。

空いた車線からFD、後ろからR32が再フルスロットル 千代田トンネルを2台がかける・・・ブレーキングポイントも合わせながらついていくR32、いやFDに引っ張られて走ってるというのが正しい見方かもしれない

きららは隣に乗って結花の走り方、ここの走り方の特性に気づく、アウト・アウト・・・・死角を作らない走らせ方をしている。速く走るならアウトインで攻めていけばいい・・・だが首都高、一般車が入り乱れるこの道ではそれはどうだろうか・・・スプリントなら私が速い、サバイバルなら結花の方が間違いなく走りきれる。

千代田トンネルから短い代官町トンネル抜け・・・竹橋JCT

「ねえ、こういう走り方は自分で身につけたの?」

きららが結花に尋ねる、神田橋のコーナーを抜けながら

「こういう・・・やっぱ他の人から見たら結構変わった走らせ方ですか?」

「そうね・・・もっと速く、効率よくない走らせ方だなーって思ってね」

「確かに、遠回りな走り方って黒川さんも言われますね・・・ただ、そういう走らせ方をするとリスキー、ただでさえルール破りな走りをしてるのにそれを押し退ける走り方はどうも・・・はた迷惑な行為をしてるのに変な矛盾ですよね」

呉服橋合流手前 左コーナー R32が動きを見せた

右車線についたFDに対し、R32は左車線イン側に付きオーバーテイクをかける、並ぶ二台R32のブレーキが鳴り響く

「うおい!?ここでヤルかぁ!?」

強張る黒川、そして笑いながら勝負をかける山岡

「さあてR32、FD。立ち上がり勝負と行こうか!」

立ち上がり、オールクリア・・・2台がフルスロットル。FDが前に頭が出る、R32もブーストが効き始めるが・・・既に遅し、FDが主導権を取りR32が引く・・・江戸橋JCT C1外回り・・・右コーナーを抜け合流へ

「山岡さん、このR32、ボディヘタリ気味だな・・・トラクションがかかってなかったぞ」

黒川がR32の状態に気づく

「もう、30年ぐらい前の車だしな・・・俺もここまでハードな勝負するのは久々だったがここまでとはな・・・結花ちゃんとあのFD・・・もうスゴさがわかったよ」

宝町 R32に失速・・・日常の速度に戻る、前に走ってたFDもR32の失速に気づき速度を落とす・・・

山岡がふぅーっと息を整える・・・

「やべぇ・・・汗だくだ・・・もう若い頃のように走れないぜ」

「山岡さん、やっぱかなり腕が落ちたな・・・なんつうか、走り方がオッサンだぞ」

「うるせぇよ、俺だって認めたくねーけど歳には勝てねーわ」

「いや、それだけじゃない・・・車も全然たいしたことがないというか・・・」

そう指摘する黒川に、山岡が苦笑い気味に答える

「おれは、20年経営者としての道を歩んだ結果だろう。対しクロ、お前は海外に渡り、20年職人として道を歩んだ、今のお前ならもっと良くこのR32を仕上げられるだろ?そういうことさ」

汐留JCTから浜崎橋JCT、羽田方面へ芝浦JCTから横羽線へ

「黒川さん、このまま店の方でいいんですね?」

マイクイヤホンを装着しながら、スマホで黒川に電話する結花

「ああ、このまま安全運転でな。横のオジさんがヘトヘトなんでな」

「オイオイだれがヘトヘトだってだ、クロ!」

電話の先で揉めているR32オジさん組の会話を切る結花。

「なんか楽しそうですね、オジ様達は。こっちはガールズトークでもしますかね?」

「そうね、ガールズトークという訳じゃないけど、いくつか聞いていいかしら?このFDはどういう経緯で結花ちゃんが乗ってるかしら」

そういう結花に、きららが聞く

「元々亡くなった父が遺した車だったんですが、私が乗りたいって言ってワガママ言っただけですよ。特に面白みのない理由ですよ・・・うんまあ、これが曰く付きの車なんて全然しりませんでしたけどね。」

リトラクタブルを上げ、フォグを元の光量に戻していき一般車に紛れていくFD

「バニシングロータリー・・・これに乗ったドライバーは次々と事故を起こし再起不能に堕ちいた者もいたらしく、そう呼ばれたマシンは消息絶った災いを呼ぶチューンドロータリー・・・怖いとかそう感じない?」

きららは、このFDの危険性を感じていた・・・人の感情を煽るエキゾースト・・・もしこれに飲まれて踏み続けたとしたら?次々と事故を起こすという噂も現実的なものになる

ホントに三日だけでよかった、それ以上このFDのハンドルを握っていたらどうなっていたか・・・

「・・・例え、災いを呼ぶ車であっても・・・これが私を不幸に陥れる物であっても、それでも構いません」

決意を感じられる結花の表情、そして声・・・

「他の人から見れば、変わり者だろうし、理解はされないでしょうね・・・でも、車を選ぶことに理解や正しさなんてあるんですかね?少なとも私は正しさなんて求めてはいません、求めるのはこのFDとの首都高ここでの走り・・・」

正しさ・・・当たり前のことなのにチューニングカー、改造車は正しくない、歪な形態だということを・・・どこかそれを正当化しようとしていた、いろんな車を知るうちに忘れていた・・・

「もし、何かあった場合この世の地獄に落ちるだけです・・・非常識な事をしてるからそれ相応の事は覚悟しておかないと・・・これは黒川さんの教えですね・・・どんな時でも覚悟を忘れてはいけない」

言葉が出ない、ただ結花の言葉に頷くか無言で聞くだけだ・・・

このFDは凄い車だ・・・だけど、それ以上に凄いのは結花ちゃんだ・・・たかが19歳の娘、いや若いからこそ気づけたかもしれない・・・この子は覚悟を決めていた。

「私は命を乗せて走ってる訳じゃない、この命を賭けて走ってるんです。」


狂人では飲まれ我を見失い、臆病では扱いきれない・・・覚悟がある人間でなければ、このバニシングロータリーは扱いきれない。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ