あ
ペチン
突然頬に痛みが走って、おれは目を覚ました。
「ふぐぐ…」
視界がぼやけ、周りの様子は良く分からなかった。ただ一つ、おれの第六感が
(ヤバイ!!)
と告げている。
「お目覚め?」
ふいに、上のほうから声がした。女の声。その声を聞いて、おれは先ほどの出来事を思い出した。
そうだ、部活から帰ってきてドアを開けようとして…そして、朝の女に気絶させられたんだ。
「ふがが…」
何なんだ!と言おうとしたのだが、口にガムテープが貼られていて喋れない。どうやら手足も縛られているようだ。やっと目も慣れてきて、部屋の様子も確認することが出来た。
殺風景な部屋。
何もおかれておらず、ただ埃をかぶったフローリングが目の前に広がっている。窓にカーテンもかかっていなかった。
そして、今朝の鼻をつく嫌な臭いが部屋中に立ち込めていた。
縛られて芋虫のように転がっているおれの前に、キレイな足がすっと現れた。
しゃがんで見えたのは、今朝と少しも変わらない、恐ろしい顔。
その顔で、ニタリと微笑んでいるのだから恐ろしさに磨きが掛っている。
「拓哉くんよね?拓人さんの息子の」
ねっとりした、からみつくような声。おれは冷や汗をかいていた。
「私、拓人さんが好きなの。だから、勇気を出してね、告白したのよ。でも…」
女は俯き、顔をあげたときには先ほどのニタニタした笑顔は消えて狂気が浮かんでいた。
トいいたいけど、おれには狂気がなんなのか分からない。
ただ、恐怖だけが忍び寄ってきた。
「ふられたの。」
「理由を聞いたらね、息子がいるからですって」
「ありえない」
「それがなんなの?」
「こんなにこんなに好きなのに!」
「悔しくて、暴れてやった」
「そしたら会社をクビになった」
「家に帰っていっぱい泣いたわ」
「弟にまで馬鹿にされちゃった」
「だからね、決めたの」
「復讐してやるって」
女はおれの頬をつねり、けたたましい笑い声をたてた。
そしておもむろにガムテープをひきはがすと(かなり痛かった)、ケータイを差し出しこういった。
「あなたのお父さんの電話番号、教えなさい。」
「やだよ」
誰が自分からおとーさんを危険な目にあわすものか。
「は?」
女は突然ぐいっと顔を近づけてきた。強烈な臭いに思わず顔をそむける。
「ふざけんな」
女は絶叫し、おれの首に手をかけた。徐々に力がこめられていく。
「言え、今すぐ。さもなきゃお前の首絞めるぞ」
耳元でささやかれ、おれは吐き気を催した。
「だれが…教えるもんかっ」
「じゃ、絞めてやる」
女はおれの上に馬乗りになり、ぎゅ~っと首を絞めてきた。首を振って抵抗するものの、まったく効かない。どんだけ強いの!?
「早く…言いな」
女は恐ろしいことに、ニヤニヤと悪魔じみた笑顔のまま。その間にも、どんどん苦しくなっていく。
おとーさん!
頼りなげな下がった眉毛、大きな瞳、癖っ毛の髪。