第1話 旅の始まり
こんにちは、ヤサイローリングです。
今作は十二支陰陽録と全く逆のジャンルに挑戦してみようと思います。
登場人物の温かい会話に注目して読んでいただけるとありがたいです。
それではどうぞ。
〈ピンポーン ピンポーン〉
軽快なインターホンの音が部屋に鳴り響いた。
「はーい」
私は玄関へと向かった。
ガチャ。
「おばあちゃん!」
2人の小さな子供が私の脚に抱きついてきた。
「ちょっと蓮くん玲ちゃん!おばあちゃんが倒れたらどうするのよ!」
「しらなーい」
蓮と玲は話のほとんどを右から左へ流しているようだ。
私の娘、音梨は呆れた顔をして私を見た。
「ごめんね、お母さん。うるさいだろうけど...」
「いいの、いいの。だって音梨がちっちゃかった頃もこれぐらいうるさかったわよ、さ、上がって上がって。」
「わぁー!おばあちゃんちだー!」
蓮と玲はものすごい勢いで靴を脱ぎ、部屋の奥へ駆けていった。
すると、
「失礼します」
と言って、さっきまで影武者のように気配を消していた若い男が玄関に入ってきた。
「あら、音梨の旦那さんね、えっと、お名前は...」
「玄太です」
「あぁ、玄太さんね。すいませんねぇ、最近物忘れがひどいものでして。さ、お二人さんも上がって。お茶を出すから」
◇
音梨と玄太はテーブルに座って、お茶が出されるのを待っていた。
蓮と玲は銀天堂スイッチ3でエルフカート8をしている。
コトン。お茶の入ったトレーをテーブルに置き、私は一人ずつコップに注いでいった。
「どうぞ」
音梨と玄太はコップを手にとって飲み始めた。
一息ついてから、音梨が口を開いた。
「やっと、お母さんの夢が叶うね」
「そうね」
「でも、お母さんのために働いて働いて働いて働いて働いた私たちにちゃんと感謝してよね」
「分かってますよ。」
私は呆れて言った。音梨は小さい頃からずっと心配性だ。反抗期の頃も、それはもう大変だった。
「そもそも、なんで韓国にずっと行きたい、という夢を持っていたんですか」
玄太が尋ねた。
「確かに。お母さんが韓国に行きたい、というのは知っていたけれど、理由は聞いたことないわ。」
音梨が言った。
「そうねぇ...全てを話すのにはかなり時間がかかるわよ」
「うわ、いつもの言い訳。」
音梨がツッコんだ。
「あ、それで旅行の準備はさすがにできたよね?」
音梨は言った。
「もう、私を子ども扱いしないでちょうだい。」
「もしお母さんが忘れてたらどうするのよ」
「私はまだピンピンしてますよ!」
まぁまぁ、と玄太は私たちをなだめた。
「飛行機が出るまでまだ4時間ありますが、早めにここを出て損はありません。そろそろ出発しましょう。」
「そうね」
音梨も同意した。
音梨は立ち上がって、蓮と玲に言った。
「蓮くん、玲ちゃん、そろそろ出発するよ」
「え〜、まだ2レース目なのに?」
玲が言った。
「韓国でもできるからやめなさい」
「え〜、やだ〜。今やりたい〜」
蓮が言った。
「おばあちゃんに迷惑かけてもいいの?」
「ん〜」
蓮と玲が揃って言った。
「よし、やめなさい」
音梨は蓮のゲームコントローラーを取り上げて、セーブ操作をしてからテレビの電源を切った。
玄太は、音梨と子どもたちが言葉の格闘をしている間にもう準備を終えていた。
私もスーツケースに夢が叶うという興奮を閉じ込めて、玄関へ向かった。
しばらくして、音梨と子どもたちも玄関にやってきた。
「それでは行きましょう」
玄太はドアを開けた。
◇
<駐車券をお取り下さい>
「ねえ、ここどこ?」
蓮が興味津々で聞いた。
「空港の駐車場」
玄太が簡潔に答えた。
「空港ってなぁに」
玲が聞いた。
「飛行機が出発したり着陸したりするところよ。あ、あれが飛行機よ」
音梨は前方を指差した。
ちょうど飛行機が飛び立つところだった。
「うわぁ、おっきい」
「あれにこれから乗るんだよ」
私はそう言った。
◇
空港に入った。
スーツケースの車輪が床を滑る音。
頭上から流れてくる案内放送。
玄太は電光掲示板を見上げた。
「えーっと、私たちが乗る便は、14:02発ソウル行きですね、搭乗券を発行しに行きましょう」
私たちはスーツケースを転がして、チェックインに向かった。
◇
保安検査や出国手続きを済ませ、ラウンジで搭乗開始を待った。
「ねぇ、あそこのハンバーグ食べたい!」
蓮が言った。
「あそこは高いからだめよ」
音梨が厳しく言った。
「私が出すから、行きましょう」
私はそう言った。
「お母さん、あそこはすごく高いんだよ。払えるの?」
「私のためにみんなを付き合わせてるんだし、これぐらい大丈夫よ」
「やったー!」
蓮は飛び跳ねた。
◇
注文した料理がやってきた。
「うわぁ、すご」
玄太が珍しく心の声を漏らした。
まるまると大きなハンバーグから、食欲を刺激するソースの香りが漂ってくる。
思わずナイフとフォークを握る手に力が入る。
「いただきます」
ナイフを入れると、肉汁が溢れ出した。
食べやすいサイズに切って、口に入れた。
肉汁が口の中いっぱいに広がり、溶けていくようだ。
正面の窓から、飛行機が飛び立っていくのが見えた。
空港で、出発の前に、夢が叶う前に、特別な料理を、こうして口にしている。
夢の序章として素晴らしい始まりだと思った。
◇
レストランを出て、私は放送に耳を傾けていた。
<○○便、○○行きをご利用のお客様にご案内いたします。搭乗口が○番から○番へ変更となりました。お客様はお間違えのないようご注意ください。>
私の乗る便はまだか、とわくわくしながら待っていた。
すると。
<ピーンポーンパーンポーン>
<14時02分発、ソウル行きの便をご利用のお客様へご案内いたします>
<ただいま、こちらの便につきまして、出発時刻が変更となりました>
<新しい出発時刻は、19時30分を予定しております>
<詳細につきましては、空港係員までお問い合わせください>
「え?」
音梨が固まった。
「今何時?玄太」
玄太は急いで腕時計を見た。
「13:35だ...」
「つまりどれぐらい待てばいいの?」
「5時間...55分待てばいいのだが...」
「そんな!そんな待てないわよ!どうする、玄太!」
「俺にはどうしようもできないって」
「どうしたの、ママ、パパ」
玲が不安げに聞いてきた。
「...飛行機の出発、遅れちゃうの」
「どれぐらい?」
「いつも夜ご飯食べ終わるぐらいの時間まで」
玲の目が潤んできた。
「うわぁぁぁん」
泣きはじめてしまった。
「玲ちゃん!」
音梨は立ち上がって、玲を抱っこした。
「ちょっと、トイレで泣き止ませてくる」
そう私たちに言い残し、音梨はトイレへと向かった。
◇
20分ほどすると、音梨が帰ってきた。
「寝ちゃったみたい」
音梨はささやくような声で言った。
見てみると、見事に玲は熟睡している。
玄太の近くで走り回っていた蓮も、今や玄太の膝の上で寝ている。
しばらくして、玄太がこういった。
「暇ですね」
「そうね」
私は言った。
「あ、そうだ。いいこと思いついた」
嫌な予感がする。
私は知っている。音梨がなにか思いついた、というときは絶対になにかがある。
「お母さん、あの話してよ」
う。やはり。嫌な予感は的中した。とりあえず流す作戦で行こう。
「あの話って何よ」
「どうしてお母さんは韓国に行きたいのか、っていう話」
一瞬しか効果がなかったか...無念。
「あの話はすごく長くなるから無理よ」
「でもあと5時間40分あるよ?」
ううううう。観念しました。
「そうね、話しましょう」
「やったー」
音梨が万歳した。
「私の夢は、あまり思い出したくない気もするけど、すごく大切なある思い出が関係してるの」
「2020年代の頃、まだ私が成人して数年しか経ってなかった時のことよ」
20XX年の出来事だった。
こんにちは。
『現代日本でモテないので〜(以下省略)』第1話はいかがだったでしょうか。
次回からは「私」の過去の回想が始まります。
「私」はどんな過去を持っていたのか。
ぜひお楽しみに。
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それではまた次回。




