3 死んでいる大量の動物
二人は霊長類エリアに来た。ここにはニホンザルやオランウータン、チンパンジーなどがいたようだ。檻同士がくっついて円を描くように設置されている。そして、どの檻も熊の檻のように赤いペンキで血を演出している。
近くにはまた掲示板があり、「猿たちが不審死」と記事が貼り付けられている。
記事の内容はこうだ。檻の中の猿が全滅していて飼育員が慌てて檻に入った。すると、扉を開けた瞬間猿が一匹脱走した。逃げた猿は捕まっていない。
「猿が逃げ出したことってそこまで重要?」
「ここまで匂わせてるんだから、その逃げ出した猿が実は新種の動物だった、ってオチだろどうせ」
「やっぱそうだよね」
先ほどと同じように遥は猿の檻の中へと入った。何か手がかりがないか明かりを照らしながら探していると、しゃがみ込んで何かをつまみ上げる。
「これ、人間の髪の毛じゃない?」
遥が見つけたのは動物の毛とは違う、明らかに人間の髪の毛と思われる毛の束だった。
「抜け落ちたとかじゃなくて、見つけてくれって言わんばかりに束が落ちてる。これ重要なヒントなんだと思う」
鈴木もその毛をまじまじと観察した。黒髪で太く子供の毛ではなさそうだ。
なぜ檻の中に人間の毛がわざとらしく落ちているのか。ここまでくれば今回の新種の生物がどんなものだったと言いたいのかがなんとなくわかってきた。
「新種の生物は人間だって言いたいのか」
「オカルト的な設定なんだろうね。普段は赤茶色の毛をした猿の見た目をしてる。人間そっくりの見た目をしてるとか、もしかしたら人間に化けることができるとか。ここまできたらもうやることは残り少ないよ。私たち以外の人間を園の中で探すくらいでしょ」
あっさりと手がかりから答えを導き出してしまった遥は、つまらなそうにそう言った。もう少し難しい謎解きかと思っていたからだ。
「後は裏をかいて実は田畑さんとかな」
「あ、それもあるか。入り口に戻ってあなたでしょって言えば終わるかな」
残っている謎はいくつかあるが、とりあえずクリア条件である新種の動物を見つけるというのはほぼ終わったようなものだ。これが園内の中にスタッフが隠れていてかくれんぼをするように見つけなければならないということになったら少々面倒くさいが。
「熊の飼育員が死んだのが何でか、ってのが残ってるけど、まあいいかクリアには関係ないし」
鈴木は大きく伸びをしながらそう言った。面倒くさいからさっさと終わらせたいというのは嘘ではなさそうだ。
「とりあえず園内に私たち以外の人が居るかどうか探そう。効率重視でバラバラに探す?」
「まあそうだな。いやちょっと待て、俺たちスマホ持ってないじゃん。見つけたらどうやって連絡するんだよ、時間わからないから待ち合わせもできねえじゃん」
「叫べば聞こえるんじゃない。ああでも、一応他の人も探してるんだっけ。そうするとみんなに答えを教えることになっちゃうか」
それはイベントとしては興ざめもいいところだ。何のために二人一組に分かれているのか、と他のメンバーから不満が来る可能性はある。
「じゃあ二人で探すか。ちゃちゃっと終わらせたいから走るけど」
平気か、と暗に言われていると気づき遥は軽く準備運動した。
「やだ、疲れちゃう、あたしサンダルだよぉ、なんて言うキャラだと思ってんの? 余裕余裕」
今からランニングでもできそうな位準備万端なスポーティーな格好に鈴木が小さく笑った。Tシャツにデニム、靴はスニーカーだ。
「だよな。んじゃ行くか」
鈴木の言葉を合図に二人は軽く走り始める。正体が人間なら人が隠れられそうなところだが、まさか檻の中に隠れているなどとベタなことをしないだろう。まだ見ていないエリアを中心に探すためまずは今いる霊長類エリアの中を探す。しかしすぐに異常なことに気づき二人は足を止めた。
「なんでこんなに動物がいっぱい死んでるの」
顔を顰めて遥が足元を見つめながら言った。霊長類エリアには先ほどタヌキやカラスが死んでいた時とは比べ物にならないほどの大量の小動物が死んでいた。腐敗しているものから白骨化しているもの、目新しいものまで様々だ。
そして死んでいる小動物の中にはネズミやカラスといった野生のものではない、明らかにペットと思われる動物も数多くいた。うさぎ、シマリス、イタチ、名前はわからないがペットショップなどで見かけたことのある動物。どれも頭や足などははっきりと残っている。残っていないのは内蔵だけだ。
「ねぇ、これ偽物じゃないよね」
「明らかにな」
それらが本物だと言うのは腐臭からもわかる。いつまでも居たく無いので足早に動物の死骸から離れた。思わず二人は顔を見合わせる。
「やっぱ変だって」
「だよね、絶対おかしい」
このイベントを楽しみたい汐里や東馬だったらそんなことないんじゃないか、と言うようなことを言っていたかもしれない。しかし冷静でリアリストの二人は異常さに不信感を抱き始めていた。




