表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と至る道
180/184

③ それはこちらを歓迎する

 特異な光り方を始めた光石。

 それはいったい何を意味しているのかについては、光石を機関室からメインブリッジへと運んでいる間に知れる事になった。

「ああ、確かにこれは……特定の方向に光が流れている……と、表現するべきなのか?」

 ブラックテイルⅡメインブリッジ。今なお正面に空を見据えて飛び続けているその光景の只中、ディンスレイは手に持った光石をしげしげと眺めていた。

 隣には光石を持って来たゴーツ整備班長に、テグロアン副長。そうして主任観測士の観測対象もまた、今はディンスレイの手の上にあった。

「いったいどういう仕組みでこうなっているのでしょうか? 光石自体が明確な座標を持っているという事になりますが、その様な機能が、どうして高性能な浮遊石に備わっているのか」

 テグロアン副長がこの様に好奇心からの言葉を発するのは珍しい。彼もまた、この不可思議な物体に心を惹かれているのか。

「エラヴ特有の技術……というより、光石が高純度の浮遊石という部分に鍵があるんでしょうね。言ってみれば、高純度高密度のエネルギーの塊みたいな代物で、そのエネルギーへの指向をエネルギーそのものに行わせて、ある種のシステムを内部に作り出す技術……みたいな? 異常なくらいにエネルギーそのものを無駄にする行為ですが、無駄にしたところで喪失しないだけのものがここにあるんだと考えてます」

 ゴーツ整備班長も、何時もの三倍饒舌である。何かの自己啓発本を読んだ影響では無さそうだが、無いからこそ問題だろう。素でテンションが上がっている。

「僕としては、そんな謎ですごい力を秘めたものがメインブリッジにあって、突然爆発しやしないかが気になりますけど、実際どうです、艦長? 熱くなって来てたりしません?」

「熱くなって来ていたらすぐに捨てるし、爆発するなら艦のどこにあってもその時点で艦は終わりだ。考えたって仕方あるまい。これ自体の性能や機能についてもだ。研究は時間が掛かるものだから……目の前の現実のみに目を向けなければな」

 そんな手の平に収まっている目の前の現実は、以前とは違う形で輝きを放っていた。

 はっきりとした光では無い。ただ、くっきりとした光ではあるだろう。幾つかの光線が光石の表面を流れたかと思えば、それは瞬時に表面の一点へと収束する。

 その一連の光の流れは一瞬だ。しかし、まるで脈動するかの如く、何度も何度もその事象を発生させていた。

 ゴーツ整備班長曰く、ブラックテイルⅡがエラヴの基地近くの空域へと入ってからの事らしい。

「艦長は目の前の現実として……この光石をどう見ているのですか?」

「見れば分かるだろう副長。この方向へ進めと示している。この光は、ただそれだけの現象だよ」

 線が走り、一点へ集まる。その方向だ。

 光石の位置を変えれば、線の動きも変わる、集まる一点についても変わる。それらはあくまでも光石の表面上での現象だ。

 それよりもっと視野を広げてみれば、集まる点は、常に一方向を指し示している。

「恐らく……これを仕込んだのは、例のエラヴの飛空船だ。我々にここへ行けと、返却してきた光石を用いて示していて、尚且つ、現空域に入って攻撃を受けぬのも、この光石が許可証の様なものになっている……と、考えられる」

「つまりは機械的な判断に寄るものと」

 副長も状況を理解し始めて来たらしい。今の状況を起こしている技術は計り知れぬものであるが、起こっている事は、酷く単純で、どこにでもありそうなものなのだ。

「我々がエラヴとの対話を望んだから、機械がそのための場所に行けと案内図を渡して来て、我々はそれに従っていたら、当たり前に扉が開いた。そんなところだろうな。今のところ、人間の意思が、我々以外に介在していないのが癪だがね」

 だが文句は言うまい。現状、エラヴという種族はいないのだ。ハルエラヴとオルグという二つの種族に変化し、基地そのものは放棄されてしまった。

(ふん? 放棄? 今にしてみれば、それはそれでおかしい気も――――

「ちょっとー、話が盛り上がってるところ悪いんだけどー」

 思考を中断させるミニセルの声。操舵士として、無用に緊張と圧を与えられていたであろう彼女は、未だブラックテイルⅡの操舵桿を握っていた。

「何かな、ミニセル君。まだ油断ならぬ状況ではあるだろうから、君に休憩されると困るのだが」

「だったら、その光ってるっていう光石を寄越しなさい。どこかに向かえって指示がそこにあるなら、あたしが見なきゃいけないんでしょうが」

「……そう言えばそうだった」

 操舵に集中するため、余所見も出来ない彼女は、艦長席に振り向くという事も出来ていない。

 語気に若干、苛立ちも混じっている様子だったので、ディンスレイは素早く艦長席から立って、自ら操舵席の隣へと進んだ。

「あのね、忘れるはずも無い事よ? そういうのは」

「悪い悪い。話が盛り上がってしまった。光石は……ここくらいの位置で良いか?」

 操舵席の正面では無く、左斜め前方。それくらいの位置が邪魔にならないと判断した。

「んー……位置としてはこれで良いけど、ちょっと意見良い?」

「なんだ? 艦長への文句なら、出来れば後にしてくれると嬉しいが……」

 こういう時、むしろスパッと意思を決めてしまうのがミニセルという操舵士なのであるが、どうにも戸惑っている……というか首を傾げていた。

 いったい何を考えているのか。その点に関しては、尋ねるより前に、当人が答えて来る。

「これ、すぐ近くを示してない?」

「うん?」

 光石に流れる光の筋が、一点へと集う。何度も何度も何度も、今や大きく方向を変え、すぐ下側に。

「ミニセル操舵士!」

「分かんないなりに了解!」

 ディンスレイの指示が分からない……というわけではあるまい。これから何が起こるか分からない。分からないけれど対応する。そういう返事だ。

 何が起こるか? それについても、すぐに現象として発生した。本音で言えば、まだ猶予が欲しいところだったが。

「なんだ? 視界が揺れている……?」

 最初、それがどういう現象が分からなかった。メインブリッジから映る景色が揺れている様に見えた……のであるが、艦は揺れていないし、景色全体が揺れているわけでも無かった。

 空は揺れていない。揺れているのは……大地だけだ。

「地震……なのかしら?」

「いや、これは……地割れだ!」

 そうディンスレイが言葉にした瞬間、空の上からでも分かる規模で大地が割れ、その勢いは大気を伝わり、ブラックテイルⅡをも揺らした。

 ただし、あくまでほんの少しだけ。

「こ、これは……」

 ディンスレイはそれでも絶句した。ブラックテイルⅡが少し揺れたせいでは無い。

 大地の地割れだ。大地が割れ、そこから姿を現したものに、ディンスレイはただ驚いていたのだ。

「これが……ここにあるエラヴの基地の全容という事か」

 前回は、あくまでその一部に侵入したに過ぎなかった。その一部を破壊したに過ぎなかったのだろう。

 大地は割れ、さらに罅が広がり、そうしてその基地は芽吹く様に、ディンスレイ達へと姿を現して来た。

 白く輝く三角錐。一見すれば、エラヴの飛空船を思わせる意匠の建造物。それが幾つも大地より眼を出し、さらに根本には金色の線が伸びていた。

 こちらに高度があるせいで、その線は細く見えるものの、人が複数横に並んで歩いても、まだ余裕のありそうな構造物に見える。恐らく、それは通路だ。

 白い三角錐が基地としての機能を集約した施設であり、それを金の通路で繋いでいる。

 それこそが、この大地に隠されていたエラヴの施設の姿であり、その姿を見たディンスレイが抱く感想は一つ。

「まるで、蜘蛛の巣の様だな」

「禍々しい表現は止めてちょうだい」

「だが、そう思えてしまう。ここからもやはり慎重にな」

「それも分かってるけれど……歓迎はされてるみたいよ? 艦長、どうする?」

 幾つもの三角錐のうちの一つ。ブラックテイルⅡ下方にあり、ぎりぎりメインブリッジから見える場所にあるそれの頂点が光っている。

 降りて来いとの合図。ディンスレイにはそう見えたし、ミニセルもそう受け止めたのだろう。

 ならば出せる答えは一つだけだ。

「ブラックテイルⅡを着陸させよう。我々を誘っている、エラヴの基地のすぐ傍にな」

 今、ここまで来て、ディンスレイに反論する者はいなかった。

 多分それは、雰囲気に飲まれているだけだぞ。

 そんな風にも思ったものの、わざわざディンスレイが指摘する必要もなかった。




「私は既に幾らか、エラヴの文字や言葉についての理解が進んでいる。エラヴの飛空船へ向かった時もそうだったが、探索には私という人間が必要不可欠のはずだ。なので今回の探索については私が行くぞ」

「その通りかもしれないけれど、あえて言わせて貰うわね。まーた始まったわよ」

 ブラックテイルⅡが大地へと着陸した後のメインブリッジ。

 そこで、ディンスレイはさっそく、今後についてを宣言したのであるが、ミニセルから呆れた様な声と表情を向けられてしまった。

「確かにミニセル操舵士の言う通りでしょう。艦長の意見は一定、理がありますが、それはそれとして、私もこの手の話には既視感を覚え始めています」

 テグロアン副長も辛辣である。ここに関しては自分のこれまでが悪いと飲み込んで置こう。

 ただし、探索役として自分自身が向かうという言葉は覆すつもりは無かった。

「ここから何が起こるか分からんというのも、まあ既視感ではあるだろうさ。が、だからこそ、分かる事からやるべき事を決めなければな」

「分かる事って、僕達はまだ、このエラヴの基地を眺め始めたばかりですよ?」

 確かに。テリアン主任観測士も、自分がこれから何をどう見て報告すれば良いか決めかねているらしく、ただディンスレイに文句をつけてくるのみだ。

 いや、優先観測対象がディンスレイになっただけかも……。

「分かる事は二つだな。一つは今の我々の状況だ。さっきまでひたすら緊張していたところだが、それでもブラックテイルⅡそのものには何も起きていない。警戒した後に、警戒の必要が無くなった」

 つまり、状況に余裕があり、尚且つまだ何も出来ていない。ここに来て、すぐ近くにあるエラヴの基地への探索を行わないとしたら、仕事をサボっているみたいじゃないか。

「我々が急に手持無沙汰になったのは事実でしょう。緊急を要する危機も存在しない。あの基地へ向かわない選択肢が無いというのも分かる話ですが……それで、もう一つの分かる事とは?」

「もう一つはな、副長。我々は一応、今回は歓迎されているという事だ。何時もは突然にやってきた来訪者側だが、今回は許可を得てやってきた。流れとしてはそういう物になる。だから……やはり、代表者たる私が行く必要があると思うんだよ」

 自身の願望が入っている言葉ではあるが、根拠の無い話でも無いのだ。そもそもが前回のエラヴの飛空船において、代表者が来る様にという言葉を向けられていた。

 つまり、エラヴ側にはそういう礼儀が存在するわけである。しかも、どちらも無人だ。ある種、そういうマナーを形式通りに実行する機械だけが残っている。そういう状況なのだろう。

(ならば尚更、相手の礼儀に沿った動きをするべきだ。私自身の好悪を排除しても、そういう結論にはなる)

 やはり、自分が探索班の一人として同行する妥当性がここにはある。というより、今回は探索班と呼ぶべきでは無いかもしれない。

「ある種の使節団……我々がこれより船員より集めるべきは、そういうものなのかもしれませんね」

「副長、それだ。まさにその言葉が欲しかった。うん。良いぞ。この施設にはエラヴは居ないかもしれないが、私達は外交のためにここへと来た。そういう解釈が何より正しい」

 相手を知るための旅というのも、結局のところそこに落ち着くのかもしれない。今回の主目的であるハルエラヴという種族の印象が、ディンスレイ達に敵対的だったせいで、抜け落ちていた視点かもしれない。

 まず我々は、手を取り合うためにこそ行動するべきでは無いのか。

「ま、何にせよ、理解しなきゃ始まらない相手に、警戒心だけってのも無いわよねぇ。それで? 艦長。社交界には、艦長の他にいったい誰を連れて行っていただけるのかしら?」

 冗談めかして言ってくるミニセルであるが、これはこれで自分も連れていけとのアプローチであろう。

 さてどうするべきか。艦長と操舵士が二人して向かえば、ブラックテイルⅡはおざなりになってしまう。

 一方で、ミニセルの視点や冒険家としての能力は、使節団として連れて行けば存分に発揮出来るだろう。

「一旦、考えさせてくれ、諸君。副長の言のおかげで、私なりの発想が生まれそうだし―――

 と、言葉を続かせようとした瞬間、それを止めてしまう。

 言うべき言葉を見失ったのでは勿論無い。

 言うべき世界の方を見失ったのだ。

 もっと言えば、景色が変わった。メインブリッジ内の……では幸運な事に無い。

 メインブリッジの外、空からは蜘蛛の巣の様にも見えていたエラヴの施設……でも無かった。

 それ以外だ。

 エラヴの施設以外に見える景色。そのすべてが瞬時に変わったのである。

 空の色は青空であったが、より淡く、施設の周辺に広がる土がむき出し地面は、整えられた草が生え、それだけで無く、土地を飾り付けているのだろう像やオブジェすら生えていた。

 そんな中で、何よりも大きな風景の変化は道であろう。

 さっきまで無かった、ただの殺風景な大地があったはずの場所に、大きく広い、道が一本出来上がっていたのだ。

 その道はエラヴの基地から……ブラックテイルⅡまで真っ直ぐと伸びている。こちらを基地へと案内する様に。

 だからディンスレイは、その現象を自分なりにゆっくり受け入れた後、もう一度言葉を続ける事にする。

「向こうも……こちらを歓迎してくれているらしいしな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ