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無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と変わらないもの変わるもの
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② 当たって砕けるのは本当に良い事か?

 二度目の旅路。そのスタートラインである西方赤嵐を越えた後は、ブラック・ピラーが近くで見える場所まで進み、そこで一旦ブラックテイルⅡを着陸させるという段取りが既に決まっていた。

 特段、問題も無くそれを終えられたというのは、乗っている艦が違えど、やはり二度目の旅路であったからだろうか。

 さらに言えば、シルフェニアという国にとってはこれが二度目というわけでも無い。

「仮設とは言え、簡易の離着陸場が用意されていたわけだが……久方ぶりに難易度の低い着陸作業で、気が抜けているんじゃないか。ミニセル操舵士」

「ちゃんと整備されてたならそうも言えるんだけど、結構手抜きだわよ、ここ」

 二人して、ブラックテイルⅡメインブリッジから見える景色について感想を漏らす。

 メインブリッジから見える景色は、どうしたって見えてしまうブラック・ピラーが第一に目立ち、次にブラックテイルⅡが着陸した場所が映った。平坦化されたその地面が。

 それは自然環境による構造でも何でも無く、人為的な手が加えられた物である。

 端の方には簡素であるが建物も見えた。単純な構造の建物であるのは見るだけで分かるが、一方で大きさはそれなりだ。ブラックテイルⅡの船員達の半数くらいはそこに収容できるだろう。

 この地域に住む種族が作った……わけでも無く、純粋にシルフェニア製である。

 ブラックテイル号がこの未踏領域を踏破した後、既に何度か、シルフェニアから追加での探検が行われているのだ。

 今、ブラックテイルⅡが着陸している場所も、そんな探検の中で設置されたものである。

「ここを設置したのはシルフェニアからの第三次探検隊です。土地選びについては確かな目を持っているはずですが、一方で予算と労力の関係から、必要最低限の機能性を持つ基地の設置を主眼に動いていたと記録にあります。なので見た目については致し方無しかと」

 副長席から注釈が入る。確かブラックテイル号の旅からこっち、五度ほど西方赤嵐を越えての探検を行った記録があり、テグロアン副長はそのすべての詳細について頭の中に叩き込んでいる……可能性もある。

 いったい何のために? そんな事はディンスレイには分からない。趣味だと返されたとしても納得してしまう。

「こっちはその見た目の悪い基地を利用している側って事っですし、文句を言うのは筋違いかもしれませんよ」

 と、軽く言ってくるテリアン主任観測士であるが、何時になく真剣な表情を浮かべている。というか、目線がブラック・ピラーの方を向きっぱなしだ。観測士として、あの特殊な自然現象に興味を惹かれているのかもしれない。

「けど、もうちょっと色々出来上がってても良いんじゃない? 人が住んでたって良いもんなのに」

「操舵士のミニセル君としては、ここで熱烈な出迎えでも希望していたところだったかな?」

「そこまでじゃあ無いけれど、思ったより広がらないのね。シルフェニアの人達って」

 確かに、ブラックテイル号が初めてブラック・ピラーを観測してから既に数年は経過している。

 まだまだ未開拓な地域であれど、シルフェニアの人間の一人二人暮らし始めたって良い気はする。この手の新規開拓地へ暮らせば助成金が出るし、何より既に、雨風を凌げる建屋があるのだ。

 新天地での成り上がりを目指す者。何かしらの事情で元の場所には居られなくなった者。そもそもが向こう見ずな者。候補となる人間はシルフェニア国内でいくらでも居るだろうし、そういう人間が居るからこそ、シルフェニアは国土というものを広げて来た。

 しかしこの西方赤嵐の向こう側の地域はそうでも無いらしい。

「シルフェニア自体、兎に角の拡大期というのは過ぎてしまっているからな。人口が増えねば開拓地への開拓という意欲も減じるだろうし、何より西方赤嵐。あれが厄介だ」

 新天地に来るにも、シルフェニアに戻るにも、止まる事無き赤い嵐を越えなければならない。

 技術的に通行が可能になったと言っても、その行程に特殊な装甲やら専用の技術やらが必要になってくるわけで、必然、行き来する頻度というのは少なくなる。

 開拓を考えたところで、その行程は遅々として進まないはずだ。

 結果、ミニセルが言う様な、整備も禄に出来てない離着陸場がここにある。今はそれが精一杯なのだ。

「とは言え、いずれはここにも人が頻繁に行き来する様になるのではありませんか?」

 普段、その手のロマン話に入って来ない副長が、夢みたいな事を言う。つまり、夢みたいに聞こえるが、現実的な話だという事だ。

「肌で触れれば溶けちゃう様な嵐を好き好んで超えて来る人達が増えるって事?」

「さすがにミニセル操舵士の様な人間はなかなか増えません」

「あたしだって危ない嵐を好きになったりしないわよ」

 どうだろうか。結構楽しみそうな情緒はありそうだ。

 何より、ミニセルの様な人間が増えれば、シルフェニアは冒険心の元、まだまだその範囲を拡大しそうという希望が持てる。

 もしくは、全員が危なかったしいので、早々に滅んでいるかだ。

 いずれにせよ、副長の話はミニセルの存在を考慮に入れたものではあるまい。

「副長はワープ艦の事を言っているな?」

「ワープ艦だけの話ではありません。あの技術はそれこそ、民間がこぞって欲しがる技術だ。都市と都市の間の距離というものを無くせますし、この様な、間に障害がある開拓地との距離もゼロに出来る。必然、国というものが小さくなりますし、結果、外へより出ようという意欲も増すはずです」

「危険に遭遇する可能性もな」

「艦長がそれを言いますか?」

「確かに、私が言える話でも無かったか」

 好き好んで危険に挑む人間ならば、今、ここに居るわけだ。今回の旅とてその類でもあるし、何より、自分がシルフェニアに引っ張って来た危険とも言える。

「なるほど。私の中で引っ掛かっていた部分を一つ見つけたぞ」

「何の話です?」

「いや、個人的な話だ。今は皆の話を優先しよう。着陸の後にやる事も、既に決まっていたはずだ」

「船内幹部会議ですね。僕の後になる、新しい船内幹部のお目見えってやつだ。個人的に話した事はあるんですけど、その時は船内幹部と一船員って感じでしたから、会議じゃどんな風になりそうですかねー」

 主任観測士は気楽に言ってくれるが、ブラックテイルⅡが抱える問題としては主題の一つなのだぞ、それは。

(と言っても、これに関してはぶつかって見るしか無い問題ではあるがな)

 ゴーツ・オットン整備班長。彼が船内幹部会議でどの様な振る舞いをするか。まずはそれを見極める事で、旅路を進めて行こうか。




「我々の目的については既に理解されている事だろうが、ハルエラヴの偵察だ。ただ、偵察と言っても色々と段階がある。西方赤嵐をブラックテイルⅡで越えたというのも一つの段階だろうし、さらにその次の段階も勿論ある。遅々とした話ではあるがな」

 ブラックテイルⅡ会議室。船内幹部が机を挟んで顔を突き合わせている状況で、ディンスレイは会議の本題について話を始めていた。

 ブラックテイルⅡが陸着陸場に降りているのだから、設置された建屋内で行っても良いのではという意見もあったが、今回の旅で初めての船内幹部会議であるというのもあり、空気に馴染むためにも何時も通りで行う事にした。

 どういう空気にかと言えば、新しい整備班長がいるという空気に対してだ。

「さっそく意見を言って良いですか?」

 さっそくと言うのなら、君が真っ先に手を上げて来たのもさっそくだな。

 そんな軽口を今は我慢しつつ、ディンスレイは手を上げるゴーツ・オットン整備班長を見た。

「ではまず、整備班長から意見を聞こうか」

「はい。俺からっていうのは、皆さんの序列みたいなのに触る気もしますが、船内幹部に食い込んでいく腹積もりなんて、そこは勘弁してくださいね。それで、意見なんですが……幾つか計画されてる段取りを飛ばす予定ってのは今のところ、ありますか?」

「それを話し合う場ではあるが、私の意見を先に言っておくか。今回に限っては、順当に行くつもりだ。いらぬ冒険心を働かせるつもりは無い。私らしく無い意見かな?」

「そうですね、それを返されると、俺からは何とも……他の皆さんは?」

 と、ゴーツ整備班長が他の船内幹部達に視線を向けた。

 最初の問題提起から、話題を他の面々へと広げるというやり方だろう。なかなか考えて物を言っているわけだ。

「まー、確かに珍しいって感じはあるわね。出来る限り前へ前へがうちの艦長の性格じゃないかしら」

「時と場合に寄るのも、うちの艦長の性格だと思って欲しいところだが……」

「僕としては、最初に今の地点で着陸していただいたのは嬉しい話でしたよ。あ、旅に怖気付いてるってわけじゃあないですよ? ただ、ここには興味があったもので」

 ミニセルもテリアン主任観測士も口を開き始めた。ゴーツ整備班長の促しに乗って来たというのなら、これは順調な出だしと言えるかもしれない。

「しゅ、主任観測士がその様な興味を抱かれるのは……め、珍しいですねぇ……い、何時も……ではありますせんが……そ、その手の興味を抱くのは、か、艦長か……」

「船医殿くらいだな。船医殿の方は、この特殊環境における土壌の調査をついでにしたいと言ったところか?」

 相変わらずの気弱さだというのに、相変わらずブラックテイルⅡの旅に付き合ってくれる事になったアンスィ・アロトナ船医。

 誘う段階では前回の旅で助手役をしていた船員が、今回の旅では居ない事に不満を漏らしていたが、それでも同行を選んでくれたのは彼女の心の強さと、それ以上の奇特さを現わしている。

 実は船員の中で一番の不思議を抱えているのが彼女ではあるまいか。

「ぜ、前回、こ、ここに訪れた際を思い出すと……せ、生物相がどうなっているか……た、大変に興味があるところですのでぇ……」

 確かに、ブラック・ピラーという特殊な自然現象の元、そこに住む生物がどういう反応を示すかというのは、アンスィ船医の興味を擽る話ではあるはずだ。

 まだ旅が始まったばかりで怪我人病人が出ていないタイミングでもあるだろうから、彼女の興味を優先させてやるというのも手ではあろうが……。

「待ってください? もう一つ意見良いですか?」

 と、意欲豊富そうに、再びゴーツ整備班長が手を上げた。タイミングさえあれば、手を上げる必要も無いとは思うのだが……。

「ゴーツ整備班長も、何かしら周囲の観測や実験やらをしたい口かな?」

「いえ、むしろ逆です。勿論、余裕があればその手の事をしたって構いませんが、俺達の目的って何だったでしょう?」

「勿論、ハルエラヴの偵察でしょうね」

 ゴーツの言葉に反応して、副長の意見が出て来た。というより、乗ったと表現するべきか?

 その事に気付いてか気付かずにか、ゴーツ整備班長は話を続けて来る。

「あくまで、そこを重視して動くべきだと俺は思いますね」

「つまり君は、僕のブラック・ピラーへの観測だったり、アンスィ船医の土壌研究は中止するべきだって意見なのかい?」

 会議で対立が発生した。主任観測士の言葉を聞いてそれを実感する。

 まだ様子見の段階にも見えるが、空気の質は変わったとディンスレイは感じ取る。

「た、確かに、しゅ、趣味に走った様な提案……でしたかねぇ……」

「待ってください、二人とも? 俺は中止とまでは言ってません。ただ、重視するべきものが別にある事を念頭に、会議を進めるべきじゃないかって、そういう事を言いたいんです」

「けど、重視するべき仕事やらが偵察の方で、ここでそっちを優先して終わらせたとなれば、次の場所に向かう事になるわけだろう? 僕らの提案は結局やらないって事になるじゃないか」

「もしそうなれば、それまでの話じゃないですか。冒険心を満たすのは大切かもしれないが、迫りくる危機への回避はもっと重要だ。違うんですか?」

「あ、あのあのぉ……み、水かけ論になる様なら、わ、私の提案はぁ……」

「別に水かけ論を始めたつもりはありませんよ、俺は。けれど、言うべき事を言うのが船内幹部と了解しているわけで―――

 会議がヒートアップしていく。珍しい事に、軽口やら空気を読む事が多い主任観測士が熱くなっていた。もしかしたら新しく船内幹部になった整備班長と相性が悪いのかもしれない。

 だとすれば、これはゴーツ整備班長が火種になっているのだろう。それくらいはディンスレイにも理解出来た。

 だからと言うわけでも無いが、ヒートアップする中でも言葉がむしろ少ない副長とミニセル操舵士へと、一旦視線を向けてみる。その必要性を感じたからである。

 勿論、二人共に目があった。

 副長の方はと言えば、目があった後、私の仕事ではありませんとばかりに目を閉じて来る。

(なるほど。副長はそういう判断か。となると……)

 次のミニセル操舵士の目線は、逆にディンスレイを見つめ返すもの。その目の色と、表情の意味くらい、いい加減長い付き合いなので気が付く。

 だからディンスレイは艦長として、今の会議に一言入れる事にした。

「全員、一旦聞いてくれ。艦長より提案がある」


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