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1 転生した獣人従者(メイド)

TS百合したいだけです。


 王都と称される巨大都市。壮観な中世ヨーロッパをモチーフとした建物の風景は見る者を魅了し、遠方から訪れた旅人を虜にする。その景色をバックとして天にも届かん勢いで力強く生える樹木『世界樹』。王都へ訪れる者のほとんどがこれを目当てとしている。そう断言してもいいほどに。



 人々は魅了された、この世界樹の地球深くに眠る【地下迷宮ダンジョン】を――。



 所変わってここは城下町。有名な大通りであるこの場所には様々な人種が行き交う。町人や旅人や商人に至るまで色とりどりの格好の人達が露店に並ぶ商品を見つめる。その中の一人である、獣人ビーストの少女。肩ほど伸びた銀色の髪と端正な容姿には似合わぬ、大量の荷物を抱えている。幼く愛らしく見える彼女は店員の親父に指を指す。

 親父はあいよ、と返事をすると同時ににやりと笑う。理由は単純で常連のお得様だからだ。


「さて、買い出しはこれだけかな」


 私は古い皮にメモされた食材の羅列を見つめ、ため息を吐く。片手で持つ荷物は自分の頭上を有に超え足元が揺らぐ。しかし、これくらいはここ身体では何ともない。


「ミーシャちゃん、相変わらずごい量だねぇ」

「ええ、色々と大変で……」

「だろうなぁ、よほど大家族の従者メイドさんなんだろう。偉いもんだねぇ」

「はは、そうですね……」


 前世で培われた営業スマイルを駆使し、愛想笑い。実際は笑えない、こんな量を毎日運ばなければならないこちらの身にもなって欲しいものだ。負の感情がもろに尻尾に現れ、地面へとへたる。

 自宅へと向かう道中で様々な人間とすれ違うが誰も彼もすれ違う度に「マジかよ、この嬢ちゃん」と言う表情をする。しかし獣人だと分かると不思議のないものに変わるが。

 この世界における獣人は人間ヒューマンに比べ数倍近く筋力差がある。そのため、自分の身長よりも高い荷物を持つ事は当たり前。しかし、脳ミソは少し足りない者が大半だが……。


 ギルドにはいつも通り、様々な種族が行き交っていた。人間ヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人ビースト……腕に自信がある命知らず達がギルドに集い、迷宮を攻略するために仲間を作り、情報を交換する。見慣れた行列を上手く避けつつ、ギルド内に入り込む。酷く奇怪な面持ちで人の波に揉まれながらね。


「ああ、ミーシャちゃん。お帰りなさい」

「はい……ただいま、です」


 ギルドの扉を抜けると受付カウンターが目の前に映る。そこににこやかな笑顔で迎えるエルフの女性。ギルドの看板娘であるエルシーさんだ。

 彼女はギルドを代表する程のカルト的人気を持つ受付嬢である。事務的な仕事の腕はもちろん、大人の色気たっぷりな笑みにやられ通う冒険者も少なくないんだろう。真面目に。


「随分お疲れのようですね。だいじょうぶですか?」

「はい……エルシーさん、ご主人様は自室に居ますか?」

「ええ、先程お帰りになりましたよ。……何人か女性をお連れになって」


 荷物を床に降ろし、深いため息をつく。する事やる事が遊び人のそれであり、とても冒険者とは思えない。実際、半分そうか。


「重かったでしょう、食堂まで運びます」


 受付の仕事を他の者に預け、入り口まで駆けてくる。対応していた男は名残惜しそうに歯ぎしりしこちらを睨みつける。が、俺と目が合ったと同時に顔を背ける。頬は赤く染まっていて……もうこれ以上は考えたくない。

 自分の容姿を自慢するわけじゃない。しかし、やはり男の視線や対応で分かるものだ。この身体になってから男をからかう意地悪な美女の気持ちが分かるような気がした。

 エルシー、もといエルさんは自分の顔が隠れんほどの荷物を悠々と持ち上げる。やはりギルドを表で仕切ってるだけはある。


「ありがとうございます、いつもすいません」

「いいんですよ。ミーシャさんには色々とお世話になってます。少しくらいはお休みになってください」


 人情溢れる温かな言葉にまぶたが潤む。優しい言葉に思わず尻尾が緩み、ふわりと上がる。


「あ、でも。夕食時はいつも通り食堂にお願いします。皆さん、ミーシャさんお料理を楽しみにしてますから」


 少し堅実的で意地悪な部分はあるものの、優しい人だ。だよね?






 ギルドには様々な施設が隣接する。迷宮を攻略する冒険者たちの中には遠方から訪れる者は少なくなく、道具アイテム屋、武器防具屋、宿屋などなど。数々の商店が連携し、いつでも出発できるように冒険者たちをサポートする。

 その中でも五階建てのギルド公認(大した意味はない)の宿屋。最上階に位置する階は賃貸となっている。理由は簡単で攻略するに辺り、数か月と王都に滞在する事は日常茶飯事なのだ。しかし、それは下位層を開拓する上級冒険者に限るが。大多数の冒険者は数日で音を上げ、すたこらさっさと逃げ帰る。いわば選ばれし者しか泊まることの部屋たちなのだ。


 とまあ、そんな風に偉そうに語ったが。

 私のご主人様は最上階の角部屋、つまり一番いい位置を占領している。この意味はつまり”そういう事だ”。


「ご主人様、お食事をお持ちしました」


 ルームサービスを呼んだ際引いてくるような荷台。乗せられる豪勢な食事達は明らかに一人分のそれでなく、宴会でも始めようかと言う量だ。これが毎日なのだが。

 返事を待つ事無く、扉を開ける。待つまでもなく聞こえていないだろうから。

 突如として騒音が飛び込んでくる。思わず後頭部の獣耳がピンッと立ち、顔が強張る。止む事のない男女の笑い声は廊下まで響く。だが、慣れた事なので苦情など来ないだろう。ご主人様も対策しているだろうし。


「おお、帰ってきたか。ミーシャ!」


 腑抜けた表情で従者を迎える男。その両手にはどこから引っ張って来たのか、エルフの女性が数人入り込んでいた。確か昨日はロリ、もといドワーフばかりだったな。傍観しつつ限りなく無の感情のまま、運んできた料理をテーブルへと並べる。

 無駄に広い室内。装飾と広さは貴族の屋敷の一室を切り取ったように浮世離れし、彼自身の冒険者としての技量を見せつけるようだった。人間性は見ての通りだが。


「いやぁ、いつもの武器屋でいい奴探してたらこの子達と出会ってさぁ。俺の大ファンなんだってさ」

「当たり前ですよ、カイさんは伝説の英雄なんですもん!」

「ねね、もっと聞かせてくださいよ。迷宮での英雄伝!」

「ああ、いいよ。朝まで語り明かそうじゃねえか!!」


 キャー、と黄色い声が木霊する。エルフ達もおそらく冒険者の類だろう、町人ならばこれ程にきわどいビキニアーマーや下着がチラつくような防具を身に着けない。それも脱ぎ去りほとんど裸に近い状態だが。皆が顔を赤くし、ご主人様プレイボーイから紡ぎ出される英雄伝たわごとに夢中となる。






 【宝剣英雄エクスカリバー】。

 王都全土を震撼させた伝説の冒険者、数百年に渡り停滞し続けた【迷宮攻略】。

 その均衡を破り、再び冒険者たちの憧れと闘志を燃やさせた伝説ただのの英雄プレイボーイの姿がそこにあった。





 不快感を表情に出さぬようにわざと大きな音を立てて、ドリンクの入る瓶をテーブルに置いた。


「な、なんだ。ミーシャ」


 騒音が静まり、女性たちがこちらを睨みつける。が、色々と察してくれたのだろう。青い顔になると床に放り投げた衣服をいそいそと着始めた。お利巧ですね、貴方達は。


「ご主人様、後でお話があります」


 生まれ持った獣としての眼力。睨みによれば猛獣のそれに匹敵するそれを存分に扱い、こ主人様を凝視する。


「逃げないでくださいね?」

「……はぃ」


 しかし、英雄にも弱点はある。

 従者メイド説教おしかりだった。


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