閑話:思考迷宮
いい感じ。
何が?と思われるかもしれませんが最近のシャーロット殿下のことです。
学園に入られるまで、殿下は欲求不満、いえ、言い方が悪いですね。殿下を相手できるような、もしくは殿下の興味を引くような才能あふれる同年代の若者が身近にほとんどいなかったせいもあり、自らの信念のおもむくままに行動していました。
この国をより良くするという信念のままに。
王族にふさわしい立派な信念なのですが、多少強引な方法を取られることが多かったため理解のない周囲にはわがまま、無茶苦茶、迷惑と思われていたのです。無論、王を始め王族の方々はシャーロット殿下のことをよくご存知ですので多少たしなめることはあっても、理不尽なことはしないと確信しているため暖かく見守っていらっしゃいました。
まあそれで苦労するのは私たちなのですが、まだ小さなシャーロット殿下にかしずき、お仕えすると決めた日に覚悟は既に終わっています。
この命は殿下のために、と。
まぁ、我々のことはどうでもいいとして、殿下の話です。
学園に入学するにあたり、Sクラスという新しいクラスを作るという学園史上初めての行為を行ったのです。
もともと殿下が入学するにあたり特別クラスを作りますか?という学園側からの提案に、殿下が乗った形ではあるのですが、殿下は自分が主導でSクラスを作ったかのように生徒には言ってしまうのです。こういうところが殿下が誤解される原因だと思うのですが、自分の評判よりもそう発表したほうがより良い結果になるだろうと考えられたのだと思います。
しかしこのSクラスの生徒との出会いが少しずつ殿下を変えていっているように感じるのです。
Sクラスの生徒たちは私の目から見ても規格外でした。
大盾使いのミスミ。
その大盾を使い、あらゆる攻撃を防ぐ彼女を倒せる者は騎士団の中でもそこまで多くは無いでしょう。以前は自らの力に頼り、多少強引な点が目だっていましたが、ハクと言う冒険者と手合せし思うところがあったのでしょうか。最近は攻撃をいなす技術を上げてきています。
同僚が驚くほど急激に力をつけてきており、ますます彼女を倒せる者は減っていくことが予想されます。
刀使いのカナタ。
刀というこの国の剣とは全くコンセプトの違う剣を使う剣術使いです。その技量は確かで、力はそこまで強くは無いですがそのスピードで相手を翻弄しつつ斬りつけていくスタイルに対応できる者はミスミと同様に多くないでしょう。とっさの判断能力も高く、私の同僚の殿下の親衛騎士が数年のうちに抜かれるだろうと言うくらいの突出した才能を持っています。
聖女のリーゼロッテ。
言わずと知れた教会の最年少の聖女です。迷宮での様子を見ていましたが、小さいころから相変わらずのようです。まあ彼女に関して私が言うべきことはあまりありません。その癒す実力は確かだと言う事だけです。
4属性魔法使いのシンリー。
雷、火、風、光の4属性魔法を使います。殿下が大人しくしている一番の要因でもある少女です。
雷や光と言った希少な魔法を使えるだけでもすばらしいのですが、彼女の真価はそんなものではありません。その圧倒的な魔法に関するセンスなのです。普通ならば新しい魔法の開発は専門家が数年がかりで行う一大事業であるはずなのですが、彼女は効果の大小はあれどすでに魔法をいくつか開発しているのです。
自分と同程度の魔法に関する話が出来る同年代の存在として殿下が非常に目をかけており、友人として親しくしているようです。今は殿下がシンリーとの魔法の開発に情熱を傾けていらっしゃるので大人しいともいえるでしょう。
メイドのアンジェラ。
シンリー付きのメイドで剣と罠を利用します。剣術はカナタと比べれば見劣りしてしまいますが、生徒の中では抜きんでているでしょう。シンリーが迷宮に潜る可能性を考え、罠学を専攻したというのは同じメイドとして賞賛を送りたいと思います。
対抗戦ではその罠を使った戦法に賛否両論あったようですが、主人を守る手段を多く持つというのも我々のようなお付きのメイドには必要なことなのです。
器用になんでもこなすのでSクラスの中でも便利屋のような扱いであり、本人もそれを望んでいるようです。
鍛冶師のエブリン。
学園に入る時点ですでに鍛冶師としてどこでも働けるような実力を持っていた彼女ですが、学園の資料や本、そしてSクラスのイフルゼーア、メーブルと共に武器や防具以外の新しい分野にも最近は手を出しているようです。
現在のSクラスの生徒の武器や防具の一部は彼女の作った物です。作った大盾を拳で壊され一時期は落ち込んでいたようですが、現在はその反省を糧に新たな素材の研究を行い始めたと聞いています。
薬士のイフルゼーア
交流のあるエルフの里との交換留学生として学園にやって来たエルフの少女です。その薬草などに関する知識は教師に教えることは無いと言われるほど博識です。頭がよく、主席合格者でもあります。エブリンやメーブルと気が合うらしく、新しい物を開発する以外は図書館で本を読んでいることが多いようです。
錬金術師のメーブル。
個性の強いSクラスの中で一番大人しい男子生徒です。しかし私が一番危険視している生徒でもあります。彼本人が危険というわけではなく、彼がエブリンやイフルゼーアと開発している物が問題なのです。
彼らが開発している発明品の中には失敗作や何に使うのかわからないような物も多いのですが、その一方で軍事利用することが出来れば戦局を有利に出来るようなものもあるのです。他国に流出させるべきでない人材と言えるでしょう。
このように近年まれにみる突出した才能の生徒たちが、殿下と同じ学年で現れたことに当初はかなり警戒をしていたのですが、今のところ不審な点は見られません。
そして血染めの白狐と呼ばれる冒険者ハク。
ふらりと王都に現れた若干12歳の凄腕冒険者。ちまたで言われているように危険ではないことは観察の結果わかっていますが、この街に来るまでの足取りが全くつかめないため要注意人物のままです。
腕前については私たちの追跡を見破ったりと疑いようは無く、まだまだ実力を隠しているのではないかと思われます。
とまあ殿下に関する周囲の人々の状況をなぜ思い出しているかというと、私が今国王陛下の御前で先日の迷宮成長事件の報告を行っているからです。
結局あの事件では我々は殿下をお助けすることが出来ませんでした。Sクラスの生徒とハク、そして殿下の幼馴染で生徒会長のエカテリーナ様によって、殿下は我々の助けを借りず帰還なされました。
あの時の自分の判断が間違っていたとは今でも思いませんが、自らの仕事が出来なかったことは明らかです。陛下の判断次第でお役目を降ろされることも覚悟しています。いやそれで済めばいい方です。騎士としての身分をはく奪されるかもしれません。
私の報告を聞いた陛下の判断をじっと待ちます。
「わかった。引き続きに職務にあたれ。」
「はっ!!」
陛下が出ていくのを身動きせずに待ちます。扉が閉まる音が聞こえ、そして部屋には私だけが残されました。
今回の事に対する罰のようなものは無いようです。寛大な陛下らしい。
シャーロット殿下へ引き続きお仕え出来ることにほっとしながら、陛下にも報告しなかった私の思いがぐるぐると回り出します。
陛下に嘘の報告をしたわけではありません。当たり前です。それは騎士としてあるまじき行為なのですから。
陛下に報告しなかった私の思い。
30階層で我々と別れたハクたちが一直線に最下層をめざし、殿下をお助けしたという事から生じてしまったその思い。
我々の判断は本当に正しかったのでしょうか。
騎士として見れば最善だったのではないかと思います。少人数で広い迷宮を探すよりは大人数でしらみつぶしに探す方が確実だからです。
しかし殿下の性格を考えれば彼女らのように最下層を目指すべきだったのではないかという疑問が消えないのです。
「未練ですね。」
心に浮かぶその疑問を振り払い部屋を退出しました。
そしてその答えの出ないその問いは消して消えることなく、私はその後もことあるごとに考え続けることになるのでした。




