閑話:ルルとハク
私の名前はルル。このルーリア王国の王都で冒険者ギルドの受付嬢をしている。
王都の受付嬢といえばギルドの中でも憧れの職業のうちの一つだ。まあとは言っても私は望んでそこで仕事をしているかといえばそういうわけでもない。
たまたまギルドの職員の採用試験に受かって、本当は裏方で働く予定だったのに、たまたま受付嬢をしていた先輩が冒険者と結婚するということでギルドを退職し、たまたま入ってきた私に白羽の矢が立ったという訳だ。
完全に偶然以外の何者でもない。
ギルドの受付嬢の先輩たちは表面上仲良くしているが裏では結構ギスギスしている。一人一人はとてもいい人なのだが。
それはギルドの受付嬢の特典と給料に関わってくる。
ギルドの受付嬢の給料は基本給プラス窓口で対応した冒険者の報酬の一部が加算されて支払われる。つまり窓口で冒険者の対応をした分、給料が増えるのだ。その算定のためにしっかり依頼書の裏面に対応した受付嬢の名前を書く欄がある。
つまり冒険者の奪い合いが起こるのだ。なのでそれぞれが自分の魅力をアピールすることに余念がない。谷間をアピールする人もいるし、上目遣いで媚を売る人もいる。お気に入りの受付嬢がいると冒険者の依頼達成率が上がるというギルドの統計もあるらしい。
まあ先輩たちに比べて特にアピール点もない平凡な私は、まあ基本給だけでもいいかなと思っているので特に何もしていない。アピールポイントとしてはいつも空いているからすぐに処理ができますよってことかな。
もう1つの特典っていうのが冒険者と一番触れ合う機会が多いため、一流の冒険者と結婚が狙えるということだ。
一流の冒険者ともなれば並大抵の商人などよりも大金を稼いでいる。つまり玉の輿なのだ。あるとき2級冒険者の独身男性がふらっとこのギルドに来た時の先輩たちは怖かった。ものすごく笑顔で対応しているのにバチバチと火花が飛んでいるのが見えるのだ。
あの日途中からお休みをもらって良かったと今でも思う。あれは怖い。私は別に冒険者の人と結婚するつもりも無いし無駄な気苦労は疲れるので嫌だ。
まあそんなこんなで、積極的に先輩たちの冒険者を奪おうともせず、特にアピールもしない私は先輩たちに良くしてもらっている。多少うっかりミスをしてもフォローしてくれるのだ。もちろんあんまりにひどいと怒られるが。
そんな専属の冒険者のいなかった私であるが、ここ最近1人の冒険者が私の窓口に必ず来てくれるようになった。
ハク、という齢12歳というギルド史上最年少で6級冒険者になった狐人族の冒険者の少女だ。
最初に会った時は驚いた。いきなり冒険者登録をして欲しいと言われ聞き間違いかと思ってしまったのだ。その後、絡んできた、なんとかっていう冒険者、たしかミリアム先輩の担当だけどしつこく話してくるから嫌だって言ってた人だ、をパンチ一発で倒してしまったり、私のミスで8級以上しか受けられないフィールドウルフの討伐を入ってすぐ受けてありえない数こなしてきたり、ダンジョンを発見したりと瞬く間にランクを上げていった。
絡んでくる冒険者を容赦なく叩きのめしていたハクは、その戦う姿から『血染めの白狐』と呼ばれて王都のギルドでちょっとした危険物扱いになってしまっている。
でも私はそのことに納得がいかない。
ハクはいい子なのだ。
無口だから誤解されやすいかもしれないけど、ちゃんと私の話を聞いてくれるし、注意すれば次からは気をつけてくれる。決して噂で言われているような無慈悲で容赦のない人ではない。
だから私はハクが来るのが楽しみだ。窓口が暇なときに私の話をこくこくとうなずきながら聞いてくれるハクが大好きだ。
ということで私はちょっと行動に移してみた。お父さんも思い立ったらやってみろって言ってたしね。そのあとお母さんに叩かれてたけど。
「ハクさん。今から私休憩なんでご飯行きませんか?美味しいお店を見つけたんです。」
ざわっとギルド内がどよめいたような気がするが多分気のせいだ。視線が集中しているような気もするけど気のせいだよね。
「んっ?」
ハクがちょっと驚いたような目で私を見ている。そんな顔を見るのは初めてだ。ちょっと嬉しい。
「なんと、私の給料がハクさんのおかげでちょっとアップしたんです。そのお礼をしたいというか・・・えっと、ダメですか?」
まずい。ご飯に誘おうとは考えていたけど、どう誘うかはよく考えていなかった。やっぱりお父さんの言うとおりにしちゃダメだった。次もし機会があるようだったらちゃんと考えてから行動しよう。
ハクがそんな私をじっと見ている。その黄色の瞳に私はどう写っているんだろうか?
「んっ、行く。」
「あっ、ありがとうございます。」
「お礼を言うのはこっち。」
嬉しさがこみ上げる。先輩に窓口を交代してもらって休憩に入ることを告げ、ハクと一緒にギルドをでる。向かうのは路地裏のちょっと奥の方にある1件の食事処だ。
親父さんと奥さんが夫婦ふたりでやっている小さな定食屋なのだが、奥さんの趣味なのか小さな小皿にいろいろな種類のおかずが乗ったランチのある私のおすすめの一軒だ。ちなみに私の家の4軒となりのご近所さんでもある。
ハクは私の後をトテトテとついてくる。私が一方的に話しているが、つまらなさそうにはしていないので大丈夫のはずだ。
親父さんのお店について出てきた料理を食べたハクの目がちょっと驚いて、そのまま無言で食べ続けていたので気に入ってくれたみたいだ。その食べる姿を見ていたのだがハクは食べる姿がとても綺麗だ。冒険者が酒場で食べる姿は職業柄よく見ているがだいたい私たちよりも雑というか豪快に食べている。しかしハクが食べる姿は美しいのだ。まるで訓練されているかのように。ううん。まあそんなことはどうでもいいよね。
「美味しい?」
「んっ。」
私に向かってぺこりと頭を下げた後、また食べ始めたハクをニコニコと眺めて、いろいろな話をしながら楽しい食事の時間は終わった。
「ありがと。」
「いいえ、こちらこそ付き合ってくださってありがとうございます。」
名残惜しいが休憩時間はあともう少しで終わりだ。急いで走って戻らなくては。店の前で別れようとしたとき、ハクが何かを考えるような仕草をした後ごそごそと自分のマジックバッグを探り出す。
不思議に思いながらそれを見ていると
「あげる。」
マジックバッグから銀色のシンプルな指輪を取り出し私に差し出してきた。
「いいんですか!?」
「んっ。美味しいお店を教えてくれたお礼。」
「わぁ、ありがとうございます。」
その指輪は私の人差し指にぴったりのサイズだった。なんとなくニヤニヤしてしまう。っとそんなことをしている時間ではなかったんだ。
「じゃあ、私は戻りますね。また今度。」
「んっ。」
ハクに見送られながら私はギルドへの道を走っていった。
「ふふふ~。」
自分の人差し指にはまった指輪を見ながらニンマリとする。戻ったものの今の時間は比較的暇だし、私の列に人が並ぶなんてことがあるわけがない。自分で言ってて虚しいけど。
「およっ、なんかいいものつけてるね。彼氏かい?」
ミリアム先輩が私の様子に気づいてニヤニヤしながらその大きな胸を揺らしながらやってきた。さすが胸に顔をうずめたい受付嬢ナンバーワンだ。
「ちがいますよ~。ハクさんにもらったんです。」
私の言葉にピシッと先輩の動きが止まる。そしてまじまじと私の指輪を見だした。
「これ、もしかして迷宮産のマジックアイテムじゃないかい?確か前に担当の冒険者が見つけたものに酷似している気がするんだけど。」
「まっさか~。そんな高価なものを食事のお礼にくれるわけないじゃないですか。たぶん屋台か何かで買ったものですよ。ほら、作りもシンプルですし。」
「ああ、確かにそうかもね。それはそうと仕事しなよ。見られる職場なんだから。」
「はーい。」
そう言って先輩は自分の窓口に戻っていった。
私も自分の書類を片付ける仕事に戻った。人差し指のちょっとした違和感を嬉しく思いながら。




