白狐様、事後処理をする
すみません。予約投稿の日時を間違えていました。
腕を引き抜き、すぐに離脱する。
ドラゴンゾンビは動きを止めていた。注意深く様子を見ていると、かすかに震えはじめて体のあちこちに穴が開き、その穴からまるでエンジェルラダーのように光の帯が現れた。
ドラゴンゾンビは叫び声さえ上げずにその身を溶かしていく。いや、正確に言えば私の攻撃で頭が無くなっちゃったから上げられないって言うのが正確かもしれないけれど。
たぶん倒したということだろう。警戒は解かないが今はそれよりも大事なことがある。
ドラゴンゾンビの脇を通り、Sクラスの面々がいるところまで駆ける。シャロたちもけっこうぎりぎりだったんだろう。溶けていくドラゴンゾンビを注意深く見ながらも少しほっとした様子だ。
ミスミとカナタが私に気づいたようでこちらを見るが、今は挨拶なんかをしている暇は無い。シャロの隣に立っているリーゼを目指す。
「来て!」
「あら~、ハクじゃない~。お疲れ様~。」
突然現れた私に驚いているシャロを尻目に、リーゼをお姫様抱っこの体勢にして持ち上げる。こんな時でも普通に挨拶してくるリーゼはある意味大物だと思う。
来た道を戻り、シンの元へと向かう。私の判断ではたぶん大丈夫だ。でもあくまで素人に毛が生えたようなものだ。聖女と言われるリーゼに見てもらわなくては安心できない。
リーゼの気配が変わる。シンが倒れているのがわかったようだ。今までののほほんとした空気が無くなり、冷たい刺すような空気が私を襲う。だがそんなことはどうでもいい。
地面へと寝そべっているシンのそばで止まると、リーゼが私から飛び降りるように離れ、シンの容体を確認している。その動きはいつもの彼女らしからぬ素早さで、その目は一点の間違いもないようにと見開かれていた。
心臓が締め付けられる。見た感じ呼吸は安定している。大丈夫、シンなら大丈夫だよね。
祈るような時間が続く。
永遠に続くかと思われたその時間が終わる。リーゼがほっと胸をなで下ろしこちらを向いたのだ。
「どう?」
「気を失っているだけね~。命に別状はないわ~。」
その言葉に張りつめていた緊張が緩むのを感じた。リーゼの顔もいつも通りに戻っている。本当に大丈夫のようだ。
「で、なにがあったの~?」
リーゼがいつもの口調で聞いてくる。それに答えようとして、その目を見て言葉を失う。
表情は変わっていない。にこやかに笑っているのだ。ただその目だけが冷たく、私を非難するかのように、そして暗く濁っているように感じられた。その奥にはなにかドロドロしたものがあるかのように。
それは私が今まで感じたことのないものだった。
「私のせい。」
「へぇ。」
空気が一段と冷たくなる。リーゼの目がまるで私を虫けらでも見るかのように細められる。
経緯を話せば理解はしてもらえるだろう。ただそのあまりのギャップに気圧され、しゃべり方を制限された今の状態では私のせいでシンが怪我をしたという事実しか伝えることが出来なかった。
「あなたは・・」
その冷めた声が何を言おうとしたのかは私にはわからなかった。リーゼが何か言う前にシンが目を覚ましたからだ。
「んっ。」
少し身じろぎした後、シンがゆっくりと目を開ける。そして私とリーゼの姿を見るとにこりと人を惹きつけるような可憐な笑顔を浮かべた。
「よかった。リーゼ無事だったんだね。ハク、君のおかげで皆を助けられた。ありがとう。」
「いい。仕事だから。」
シンの無事を喜びたい気持ちを隠し、首をフルフルと振って気にしてないと伝える。
でも本当に無事で良かった。きっと大丈夫だと信じてはいたんだけれど、シンのあんな姿を見るのは2度とごめんだ。まるで私を置いて死んで行ってしまうようなあんな姿は。
「なにがあったの~?」
いつの間にかリーゼの雰囲気が元に戻っている。私に変わってシンが2人でドラゴンゾンビの注意を引きつけていたこと、ドラゴンゾンビが思わぬ挙動をしてシャロたちを潰そうとしたこと、そしてそれを防ぐためにシンが魔法を使い、私に手助けしてもらって何とかなったこと、そしてそのために自分自身が怪我をし気を失ったことを順番に話していく。
リーゼはそれをうんうんとうなずきながら聞いていた。
「そっか~。シンリーとハクは命の恩人だね~。ハク、ごめんね~。ちょっとかんちがいしちゃったみたい。」
「いい。慣れてる。」
こちらに向かって頭を下げたリーゼの目には、もう濁りのようなものは感じられず、いつも通りのリーゼに戻っていた。それにちょっとほっとする。
リーゼにあの目をさせてはいけない。なぜかそう思うのだ。
まあ実際ハクになって誤解されるのは慣れてしまったのも確かなのだ。そうでなければ血染めの白狐なんて不名誉な名前は付けられなかっただろうし。
ドーン
ある意味聞きなれた音と共に地が響く。30階層で散々聞いた、ダンジョンのボスを倒した証明だ。先ほどまで光を放っていたドラゴンゾンビはいつの間にか骨だけになっていた
「とりあえず皆と合流しよう。」
「そうね~。」
「んっ。」
3人でシャロたちの元へと向かう。シャロたちはその骨を見上げながら楽しそうに話している。うん、確かにこんなに大きなドラゴンの骨なんか見る機会は無いしね。というか私も初めて見た。
普通のドラゴンだったら皮とかも素材になるんだろうけどどろどろに溶けちゃってるし、魔石も私が粉々に砕いちゃったから多分回収は無理だ。たぶん戦利品としてはこの骨になるんだろうけど、何か使い道ってあるのかな?
シンたちが勝利を喜び合っている中でその輪に入るわけにもいかず、1人その骨を見ながら有効活用の方法を考える。一本折るのにもかなり苦労したから頑丈さはかなりのものだ。
食器に加工できたら割れないので便利そうだが、そもそも加工自体が難しそうだし。
そんな感じで私が悩んでいるとひとしきり話が終わったらしい。シャロたちがやってきていた。
「ありがとう、ハク。話は聞いたわ。貴女のおかげで助かりました。」
「別にいい。仕事。」
代表してシャロにお礼を言われたが、そっけなく返す。
実際冒険者のハクとしてもメイドのアンとしてもシャロを守るのが仕事だからそこまで言われるほどのことではない。まあ嬉しくないかと言われればそうじゃないけれど。
「それで、これどうしましょうね?」
「さあ?」
そんなことを私に聞かれても困る。まあ竜はすべて何らかの素材になると本で読んだことがあるので利用価値はあるのだと思う。ギルドにでも持って行けばいいかな?
でも一応護衛の依頼中だし決定権はシャロたちにあるから聞いておこう?
「いる?」
「いえ、私たちはあまり役には立ちませんでしたし、ハクがもらってください。」
「わかった。」
そのままではアイテムボックスには入らなかったので【魔気変換】を使った拳で何度も殴りつけて分解した後、支給されたマジックバックにも詰め込んで何とかすべてのドラゴンゾンビの骨を入れることが出来た。まあ動かないし、肉がついていない分、折るのは楽だった。
ふぅ、結構な手間だったなと一息ついて辺りを見わたすとシャロたちが信じられない者を見るような目で私を見ているのに気付いた。
ちょっと考えて気づく。そういえば素手でドラゴンの骨を折るっておかしいかもしれない。
まあ気にしても仕方ないのでハクにとっては普通って思ってもらえればいいかと無視することにした。
「終わった。」
「え、ええ。それじゃあ宝箱でも見に行きましょうか?」
若干引き気味のシャロたちの後をついてボス部屋の奥の部屋へと向かうのだった。
仕事が忙しく時間が取れず見直しが出来ていません。
もしかしたら改稿するかもしれません。したら何かでお知らせします。




