白狐様、ご主人様と共闘する
ドラゴンゾンビの攻撃はそこまで恐ろしくない。恐るべきはその耐久性。【魔気変換】込めた拳で殴って骨なども折れているような気がするのだがしばらくすると何事も無かったかのように動き出すのだ。
とは言っても私一人で戦っていた時に比べてだいぶやりやすい。シンの光魔法で与えた傷は治るのに時間がかかるらしく目に見えてダメージが増えていっている。このまま2人で押し切ることも出来るだろうけど・・・
「来たよ。」
グルゥ!
ドラゴンゾンビが叫び声を上げる。シャロ達が攻撃を開始したのだ。
カナタが斬り裂き、そこをさらに抉るようにシャロの炎魔法とリーゼの光魔法を重ねている。
エカテリーナは何か魔法を継続的に発動しているようだ。ドラゴンゾンビに向かって手を掲げたまま何かをぶつぶつと唱えている。
尻尾による迎撃などはミスミが盾で防いで後衛の3人を守っているみたいだ。スタウト先生は・・・陰に隠れていて見えないな。
集中的に攻撃している分、やはりあちらの方がダメージが大きい。体を反対に向けようと動き出した。
「お前の相手はこっち。」
力強く地面を踏み込み、先回りする。止まった反動でそのまま空中へ跳ぶ。体を回転させつつその首に向かって蹴りを放つ。
ボグッといういい音とともに首が反対方向へと戻っていく。これでよし。
止めることは出来るんだけどダメージは入らないのよね。つくづく私とは相性が悪い。
「『ホーリーパイル』」
すかさずシンが唱えた光魔法が発動する。シンの頭上から4本の光の杭がドラゴンゾンビの前足を貫く。
ガァ!!
ドラゴンゾンビの顔が痛そうに歪む。やはり光魔法は効くようだ。
光の杭はすぐには消失せずそのままその場に縫いとめている。あれっ、あんな効果は無かったはずだけど。シンの方を見ると杭の方を見ながら集中している。何かしているわね。
両前足を使えなくされたドラゴンゾンビがシンに向かってブレスを放とうとする。
「それは飽きた。」
再びドラゴンゾンビの頭を殴る。ブレスを止めるには口を塞いでやるのが一番だ。
ドラゴンゾンビがべちゃっと地面に顔をぶつけ、思惑通りブレスは中断された。そこで思いついた。そっか1人の時は意味がないからやらなかったけれど時間稼ぎなら・・・
「フッ!!」
起き上がろうとドラゴンゾンビの首が持ち上がった瞬間に再び拳をその頭に向かって振るう。地面と私の拳にサンドされドラゴンゾンビの顔が潰れる。そして地面が少し凹む。
うん、これはいいや。
ドコッ、ドコッ、ドコッ、ドコッ。
ひたすらに拳を振るっていく。この場所さえ押さえてしまえばブレスは無いし、方向転換は出来ないし、あまり手間も無い。
問題があるとすればだんだんと再生が追いつかなくなってきたのか、ドラゴンゾンビの体液が飛び散るようになってしまったのと、地面があたかも穴が開いたように凹んできてしまったことぐらいか。
シンも状況が安定しているからか、魔法の援護をやめて見ているみたいだし。シャロ達の方も特に被害は無く攻撃を続けているのでこのまま続ければ大丈夫だろう。
そう、私は油断していた。これで大丈夫だと。
「なっ!!」
そしてそれは起こった。私が拳を振るい地面と挟まれた瞬間、その首が思いっきり後ろへと引かれたのだ。首は頭を落としたまま自由に動き出した。
まるで頭など必要ないかのように。
「シンリー!!」
ドラゴンゾンビは立ち上がりそのまま後ろを押しつぶすようにひっくり返っていく。背後を攻撃していた皆が驚愕している様子が見える。
私も驚いて初期動作が遅れた。【魔気変換】を使って移動してもドラゴンゾンビが倒れる方が早い。
ミスミが近くにいたシャロとリーゼを盾で殴ってその範囲外へ飛ばしている。
カナタがエカテリーナとスタウト先生へと刀を振るい、エカテリーナとスタウト先生が吹き飛んでいく。
だけどそんなことをしたら2人が!!
ミスミは体勢を崩し、カナタに至ってはドラゴンゾンビとは反対方向を向いてしまっている。しかも刀を振るった体勢だ。このままなら潰される!
「来い、アン!」
シンの声に、ご主人様としての声に心より先に体が反応する。
ドラゴンゾンビと反対方向へ、ご主人様の元へと跳ぶ。
「『聖なる鎖』」
シンの体の全身から光の鎖が現れ、倒れていくドラゴンゾンビを一瞬で拘束する。シンと目が合う。
わかった。シンが、ご主人さまが望むことが。
シンに向かって全力で【魔気変換】を使用したままぶつかっていく。シン自身も【魔気変換】を使用している。だが私とシンではその強さが違う。私の体当たりを受けたシンの口からコポッと朝に食べた消化しかけのパンなどとともに赤い液体が流れる。
2人して後方へ吹き飛びながら首だけを曲げ後ろを確認する。
ドラゴンゾンビは動きを止めていた。
むろん死んだわけではない。ただ倒れるのが止まっただけだ。シンはそれを満足そうに見ていた。目をつぶりそうになっているシンへとシンの腰についていた袋からポーションを取り出し、慌てて振り掛ける。数本振りかけたがシンの目は閉じてしまった。
動揺する心に、エマさんの言葉がよみがえってくる。
「メイドはいついかなる時も落ち着いていなければなりません。いざという時にご主人様の役に立たないようでは意味がないですよ。」
シンの首へと手を当てる。大丈夫、脈はある。おそらく意識を失っているだけ。でも一刻も早くリーゼに見てもらった方がいい。
だから。
だから。
シンをゆっくりと横たえ、立ち上がる。拳をギュッと握る。骨のきしむ音がした気がした。
だから・・・早くこいつを倒さなきゃ。
ドラゴンゾンビはシンが気を失ったことで聖なる鎖から解き放たれ、すでにミスミやカナタと戦っていた。シャロとリーゼも頭をふらふらと振りながら起きあがって魔法を詠唱している。エカテリーナとスタウト先生は起きてきていないけれど死んではいないと思いたい。
ドラゴンゾンビは先ほどまでと反対方向を向いて、首があちらに向いている。ブレスの心配はもうないのでたぶん大丈夫だ。
そして私の方向、背中の一部分に大きな穴が開いている。光魔法か炎魔法でダメージを与えたのだろう。再生はまだ始まっていない。その穴の奥、赤黒い肉壁の向こうにほのかな光が明滅しているのを私の目がとらえる。
そこからはもう考えるまでも無かった。一切の出し惜しみなく全力で駆ける。自分でも驚くほど体が軽い。その魔石のある場所さえもはっきりと見えるような気がする。
拳へと気を込める。
この一撃で決める!!
「うあぁーー!!」
体をその穴へと飛びこませ、渾身の力を込めて振るったその拳が肉を引きちぎり、何か硬いものを破壊した。
そんな感触がした。




