白狐様、王女と再会する
「ヘクチッ。」
「大丈夫?風邪?」
「問題ない。」
31階層を探索し始めてから、なぜかくしゃみが出るのよね。寒気とかは全くないし、ここ数年風邪なんてひいたことなんてないから大丈夫だと思うけど。
シャロたちの捜索を始めてもう4日目、現在は39階層を探している。
アンデットたちは種類が増えてスケルトンメイジやスケルトンアーチャーといった遠距離攻撃をしてくるスケルトンや、動きの早い干からびた人間のようなグール、物理攻撃が効かない火の玉のようなウィプスなど色々なタイプの魔物で溢れていた。
かといって何か問題があったかと言われればそんなことはない。シンの光魔法が面白いほど効くし、気弾は物理攻撃とはちょっと違うらしくウィプス相手にも問題がなかったからだ。エカテリーナもだいぶ慣れてきたのか出来る範囲で頑張ってくれている。魔法の威力もあがっているのでレベルも順調に上がっていそうだ。
3人での捜索も慣れたものでそれぞれが自分の役割を理解しているので効率のいい捜索ができている。そのおかげで・・・
「近くにいるみたいですね。」
「そうだね。」
「んっ。」
目の前に転がっているのはバラバラになったスケルトンたちの骨だ。切り口がきれいなのはカナタの刀によるもの、粉々に砕けているのはミスミのシールドバッシュによるものだろう。
39階層に入ってしばらく前にシャロたちに倒されたと思われる魔物を見つけることが多くなってきた。迷宮に吸収されていないことから考えてもそこまで時間は経っていないはずだ。
「でも本当にシンリーの言う通り、殿下たちが40階層を目指しているとは思わなかったわ。」
「まあ、Sクラスの皆が一緒だし、この程度の迷宮なら命の危険はなさそうだしね。むしろレベルアップのいい機会だと思っているんじゃないかな。リーゼにとっては相性がいいだろうし。」
シンの意見に私も同意だ。それに生産系の3人を除いてSクラスは血の気が多いのよね。強さを求めるのに貪欲というか。筆頭はカナタとミスミだけど、リーゼもそっちに近いし、シャロもより高みに昇るためなら無茶をすることをいとわないから。普段ならシンか私がストッパーになるんだけど今はその役目をする人がいないし。スタウト先生も可哀そうに。
まあそれはともあれ無事であることがわかっただけでも朗報だ。誰かが怪我でもしていればさすがに新しいボスを目指そうなんて思わないはずだし。
その後の探索でも、やはり魔物との遭遇率も低いし、焼け焦げたグールや解除された罠などがすぐそばにシャロたちがいることを教えてくれていた。私たちの歩調が少しだけ早くなる。もちろん罠の警戒は十分にしているけれど。
そして私たちは40階層へ降りる階段を見つけた。おそらくシャロたちもこの先にいるだろう。走り出そうとしたエカテリーナを止める。階段に罠がある可能性もあるからだ。慎重に階段を降りきったところで私たちはシャロたちSクラスの面々と再会した。
「ハクにシンリー、あとは会長でござるか。」
私たちの姿を見てカナタが刀にかけていた手を離す。後ろで戦闘態勢に入っていたミスミやシャロたちが力を抜くのがわかる。いきなり攻撃魔法が飛んできたりしないで良かったわ。
「やあ、みんな元気だった?」
シンのなにも特別なことが無かったような挨拶が苦笑を誘う。まあ見た限りシャロたちに怪我をしている様子は無いし、それがわかっているからこそ気軽な感じにしたんだろう。
「まあね。匂いには参ったけどね。」
「私はご飯の方が大変だったわ~。こっちは誰も料理が出来ないし~。」
「しかし4階層分も追いつかれたでござるな。やはり先生が慎重すぎたせいでござるな。あの程度の罠ならかかってからでも回避できるでござるよ。」
「お前たちが死ななくても俺が死ぬんだよ!」
「こっちは特に問題ないわ。それで、なんでエカテリーナがいるのかしら?」
シャロのその言葉に皆の視線がエカテリーナに集まる。見つめられたエカテリーナはその視線にひるむことなく、いつもの毅然とした態度をしていた。
「私は生徒会長として貴女たちを探すために来ました。皆さんが無事でよかったわ。」
その答えに納得した顔のミスミたちと違い、シャロは表情を変えずただエカテリーナを見ていた。
「そう、やっぱりリーナはそこに留まるんだ。」
シャロの誰にも聞かれないぐらいの小さな声の呟きを狐人化によって強化された私の耳が拾っていた。しかしその真意を2人の関係を良く知らない私が推測することなど出来なかった。
再会を一通り祝った後、ちょうど休憩するところだというシャロたちのためにシンリーが食事を用意していく。私たちと別れてから数日間は固いパンや干し肉などの携帯食料ばかりだったシャロたちは私たちが驚くような食欲を見せた。
「そんなにがっつかなくてもおかわりもあるから。」
「いやー、やはり兵糧は重要でござるな。あんな食事では体力は回復しても気力は回復しないでござるからな。おかわりでござる。」
「まあね。干し肉を食べすぎて顎が鍛えられるところだったよ。あたしもおかわりだ。」
「そうね~。確か時間の経過も止まる魔道具もあったはずだけどとても高いのよね~。私も~。」
「王家にはあったはずだけど、さすがに私でも持ち出せないわね。私もお願いするわ。」
「はいはい。」
かわるがわるスープの器を差し出すシャロたちにシンリーがお代わりをよそってあげている。メイドとしての習性で体がピクピクと動きそうになるが何とか抑える。こうして見ているとヒナ鳥に餌をあげている親鳥みたいな光景だ。
スタウト先生は皆から少し離れた所で疲れた顔をしてゆっくりと食事を食べている。ちょっと心配になるがスタウト先生もスープは2杯目なのでたぶん大丈夫だ。まあ一応ねぎらっておこう。
食事を終え、スタウト先生の所へ向かう。近づいてきた私にスタウト先生は少し警戒の目を向けてきた。
「なんだ?」
「んっ。お疲れ。」
それだけを言ってその場を離れる。ハクとして伝えられるのはこのくらいだ。自分の変わりにシャロたちを助けてくれた感謝を伝えられたかはわからない。しかしこれ以上の言葉はハクの性格上無理だ。
私の言葉にぽかんとしていたスタウト先生だが、すこし口角が上がってにやりとした顔をしたので感謝は伝わっているはずだ。そう思っておこう。
食事も一段落したところで、時間も午後の7時を回っているので今日は休んで明日ボスに挑戦することに決まった。40階層のボスについては何もわかっていない。これまでの傾向からアンデット系の何かだと思うが何が出るんだろうか。
少し嫌な予感がするのだが大丈夫かな?そんな考えを頭を振って追い出し、見張りの時間を過ごしていくのだった。




