メイド様、ポイントを稼ぐ
ブクマが100になりました。
本当にありがとうございます。
記念して二話投稿します。二話目は夕方投稿予定です。
私のいるこの森はわずか50メートルの四方ほどしかない小さな森とも言えない森だ。しかし小さいからこそ動きを読みやすい。探索経路は限られているしどこにどの罠を仕掛ければ効果的かも事前に調べておいた。もちろん事前に罠を仕掛けるような卑怯なことはしていない。だから落とし穴系の罠はほとんどない。地面を踏み抜いてふらっとする程度の罠だけだ。それだけでは何の意味もない。
「うわぁああー。」
あっ、ふらついて木に手をついたわね。さーてお仲間さんはひっかかるかなー?
「大丈夫か!今助ける!」
「馬鹿、やめろ!そこは・・・。」
そうそう。仲間思いなのはいいことだけどちゃんと見ないとダメだよ。
「なんだよ。これ、助けてくれよ。動けねえよ。」
あー、あれに引っかかるとお湯をかけない限りほとんど動けないからね。しかも背中が張り付いているから力も入らないだろうし。
「この森はまずい。撤退するぞ!!」
いや、森に入った時点で逃がすはずがないでしょ。
「おい、こんなところに罠は無かったはずだぞ。」
「増えてる。俺たちに気づかれないように罠を張っていったっていうのか!?」
はーい、大正解。まあとは言っても見せかけだけで威力はあんまりない小石が飛んでくる罠だけどね。即席で出来る非致死性のトラップなんてそんなもんだ。ゼーアの眠り薬を使えばシン以外は無双できそうだけどそれだと罠学の有効性と言うよりはゼーアがすごいってなっちゃうしね。
「とりあえず罠を回避しつつ森を出るぞ。ここで人数がこれ以上減るのはまずい。」
「ああ、いくぞ!!」
あの2人は冷静みたいだ。私の罠を回避するルートを通って森の外へ向かっている。私がわざわざわかるように設置した罠をね。
吊るされた1人と、地面に引っ付いたままの1人に打撃を加え腕輪を奪う。そろそろ外へと出るわね。3、2、1・・・
「「くそー!!」」
うん、想定通りのルートを通って、想定通りの罠にかかってくれたようだ。外が見えたからって油断したらダメだよ。自分たちには罠が見えているっていう慢心もまずい。ほらやっぱり罠学は必要でしょ。単純な二重トラップに引っかかる人もいたし。
両足をトラばさみに挟まれ、倒れた地面に張り付けられている2人の元へ向かい打撃を与えて腕輪を回収する。これで20人、つまり20ポイントだ。やっぱり騎士は効率が悪いわね。
このルールで重要なのは王様が10ポイントなのに比べ、騎士の配点が1ポイントしかないことだ。つまりいくら騎士を倒しても王を1人倒した方がはるかに効率がいい。むしろ騎士を相手にするのは体力を消耗するだけなのでなるべく避けなければいけないのだ。いかに王を狩るかが勝負の行方を決める。
私は1人で守ってくれる騎士はいない。Sクラスとは言え1年でしかも女子。カナタやミスミのように武闘派として専門教室で有名になってもいない。まあ別の意味で有名ではあるが、良い鴨に見えただろう。だからあえて私はこの森に入るところを見せた。そうすれば私を狩りに騎士たちがやって来るだろう。あとはそれを罠にはめるだけだ。
ここまでは計画通りだ。この学園の生徒が罠に弱いということも確認できた。じゃあそろそろ第二段階に入りますか。そろそろ怖いお侍さんが来そうだし。
【隠密】を使い校庭のグラウンドと反対方向から森の外へと出る。森から「どこでござるか?アン!」と言う声が聞こえたような気がしたがそれに応える義務はないしね。
真正面から戦ってまずいのはこの学園なら数人。しかもそのほとんどがクラスメイトと言うのだから厄介ね。【魔気変換】を使えば何とかなるけれど、それは使えないので最後の方まで戦いを回避するか、ちょっと回りくどい方法をとるしかない。
シャロとシンは近づかなければ大丈夫だけど、問題はミスミとカナタの2人だ。戦闘狂の2人ならおそらく遊撃に出ているだろうし、まあカナタに関しては今さっき声が聞こえたけれど・・・この対抗戦の定石とは関係なく強い相手に向かっていきそうだ。もし戦うとしても2人が潰しあった後かしらね。
森から出て【隠密】を使いつつ、罠を設置しながら探索する。まあ遮蔽物が無いので【隠密】を使っても丸見えで気休め程度だが、まあいくぶんか見つかりにくくはなっている気がする。それにしても・・・
「派手ね。」
校庭の中央でシンたちの教室へと襲いかかっていった別のクラスの代表が爆風に吹き飛ばされていく様子が見える。あれはどう見てもシャロの魔法よね。あっ、追撃のウォーターボールが入った。容赦がないわね。
シンたちのクラスは一番目立つ場所に全員で固まって襲い掛かってくる他の代表を蹴散らすつもりらしい。観客からも見やすいから盛況のようだ。逆にあそこに襲い掛かって討ち取れば、それはそれでアピールになるからしばらくはこの状況が続くわね。シンが動き出す前にポイントを稼がないと。
よし、とりあえずはこんなもんでいいわね。じゃあ次は王を探しに行かなきゃ。
「おーい。アン、がんばりぃやー。」
エブリンがブンブンと手を振って応援してくれている。わざわざこちらの方まで見に来てくれたようだ。そばにはゼーアとメーブルもいる。周囲に他の代表もいないしちょっと話しに行こう。
「3人共来てくれてありがとう。」
「おおう、ええのか。うちらとくっちゃべっといて?」
「いいのよ。周囲に他の教室の代表はいないし、そろそろ膠着状態になるだろうしね。」
一本の線を挟んで話す。この線が見学ラインであるとともにここを超えると失格になる境界線だ。参加者以外はこのラインの外で自分が見たいところに自由に移動して見学するのだ。
「あっ、そうそう。メーブルとゼーアが作ったあの張り付く液体良いわね。熱に弱いってバレるまではあれだけでも十分かも。非致死性の罠ってなかなか種類がないからとても役立つわ。」
「んっ、当然。」
「うん。ぼくたちもどんなふうに使うのか見てみたくて応援も兼ねてこっちに来たんだ。シャロたちの方は相手が可哀想になってきちゃって。」
「そやなー。シャロの魔法でポーン飛ばされて、シンリーとかがボーンってぶつけて終了やしな。ありゃー攻略に苦労するで。」
「だよね。」
4人で領く。攻略するにはまずシャロをなんとかしなくてはいけないのだが、シャロが王様らしいのでそれは難しい。なによりシンを出し抜かないといけないので正攻法ではまず無理だ。まあいいや。とりあえずはポイントを稼ごう。
「じゃあちょっと行ってくるわね。しばらくここで待ってくれればどんなふうに使われているか見せられると思うわ。」
「ほんまか!」
「待ってる。」
「が、頑張ってね。」
じゃあ手頃な王様がいないか探しに行きましょうか。
「何が起こるんやろな?」
「楽しみ。」
「だ、大丈夫かな?」
3人が期待半分不安半分で待っていると、アンがこちらに向かって走ってくる。よく見ると6名の生徒に追いかけられていた。
「あ、危ない!!」
「そやな。なんか投げとるみたいやけど防がれてもうてるし。」
「変。遅い。」
「ほ、本当だ。迷宮の時より遅い。体調悪いのかな?」
「いや、そんな感じはせえへんかったで。」
アンの動きが明らかに遅い。時々振り返っては石を投げているようだがそれも防がれているか、当たってもあまりダメージはなさそうだ。6人との距離がじりじりと縮んでいく。あと5メートルほどしか無い。危ないと誰しもが思った時それは起こった。
「はっ?」
「むっ?」
「えっ?」
アンを追いかけていた生徒たちが足をもつれさせたかのように一斉に転んでいく。そして転んだ生徒たちを捕まえるように網をアンが放り投げる。他教室の生徒たちがなんとか逃れようともがいているが足が動かず、しかも網に絡まってどんどん身動きが取れなくなっているようだ。その網の上からアンが情け容赦無く生徒たちを木刀で叩いていき腕輪を回収していた。
「うわっ、えげつな!」
「う、うん。でもなんで皆転んだんだろう?」
「穴。」
「穴?おお、落とし穴にあの液体を入れたっちゅう訳やな。それで動けなくしたうえであの網かい。」
「効果はばつぐん。」
「そ、そうだね。」
腕輪を回収し終えたアンがこちらに向かって手を振っている。3人とも振りかえす。
「あのご主人様にしてこのメイドありって感じやな。」
「んっ。」
「きょ、強制出場じゃなくて良かったね。」
メーブルのその言葉は3人の想いを的確に表していた。




