メイド様、対抗戦に出場する
ボン、ボボボンと魔法の号砲が鳴る。今日はいよいよ専門対抗戦だ。
普段なら生徒と教師以外は入ることの出来ないこの学園も今日ばかりは生徒の親族や貴族は自由に入ることが出来る。必然的にシャロが狙われる可能性も高くなってくるのだが、シャロとシンは同じ専門教室で今回の対抗戦の代表に選ばれているから護衛はシンにお願いした。私が行ったら逆に攻撃されちゃうし。
校庭には出場する20クラスの代表が並んでいる。その格好は様々だ。魔法系の教室の生徒はいつもの制服にローブを着ているくらいの者もいるが剣士や槍術士などの教室の生徒は鎧を着ていたりしてバリエーションが豊かだ。まあこの対抗戦のもう一つの目的でもある将来の雇用主へのアピールということもあるんだろう。
実力はあるがコネや縁がない生徒にとって、貴族や王族が見学に来るこの対抗戦は絶好のアピールになるし、仕える場所が決まっている者についても自分の有能さを雇用主に示せるまたとない機会だ。だから誰もが何かしら他とは違う装備だったり、頭に布を巻いたりと目立つように工夫している。
まあでも一番目立っているのは私でしょうね。列には1人しかいなくてしかもメイド服だから。
制服で出ようかとも思ったけれど、今回私は罠学が有用だということをアピールしなくてはならない。エブリン風に言うなら目立ってなんぼなのだ。
それにしても他の生徒からの視線が痛い。まあ圧の大部分はジャックファンからの粘っこい視線だ。普通に対抗意識で睨んでいる男子のほうがよっぽど気持ち的に楽だ。早く開会式が始まって、対抗戦が始まらないかな?
そう考えていると黒のスライムを頭に載せ、きっちりとした正装をした理事長が朝礼台に上る。正装しているのにスライムなんだと思わなくもないが、誰も突っ込まないのはこの数ヶ月でもう慣れたからだろう。
「生徒諸君、本日は専門対抗戦じゃ。日頃の研究、鍛錬の成果を存分に見せて欲しい。また参加しない生徒諸君も戦いを見ることで自らに足らないものを見つけることが出来る機会になるかもしれん。ただ見学するのもそれを自らの糧にするのも自分の心次第じゃ。儂等の心踊る成果がここで発揮されるのを期待する。」
そう言って理事長は黒いスライムをプルプルさせながら朝礼台から降りていった。あっ、正装だから黒いスライムなの?よくわかんないけど。
そんな私の疑問に答えてくれる人がいるはずもなく、男性職員が朝礼台へと上りルールを話し始める。
「それではルールを説明する。開会式終了後30分経過したところで対抗戦を始める。号砲で開始の合図をするので注意しておくように。範囲はこの校庭全域。間違っても校舎裏の訓練場などには行かないようにしてくれ。範囲外に出た場合はその時点で失格となる。最後に先に配布しておいた腕輪は装備しているな?」
自分の手首に巻かれた腕輪を見る。シルバーのなんの飾り気のない腕輪に3つの半球の透明な宝石と赤い四角い宝石がついている。
「有効打を加えられると一撃につき1つ宝石が光っていく。3つの宝石すべてが光った段階で退場となる。言うまでもないと思うが致命傷となるような攻撃は禁止だ。特に魔法系の教室の代表は注意してくれ。倒した生徒の腕輪は外れるのでそれを倒したものに渡すこと。騎士は1ポイント、王は10ポイントになる。王を倒せば騎士の腕輪も機能を停止するので注意するように。それではこれで開会式を終わる。解散。」
各教室の代表たちが思い思いの場所へと散っていく。こんな何もないど真ん中に残るのはよほどの自信過剰かそれとも・・・。
シンとシャロの教室の代表たちがその場を動かずに他の代表生徒たちが散っていく方向を観察している。2人と目が合う。その目にはそこに居ても何ら問題はないという自信にあふれていた。
ですよね。
2人から視線を切り自分の戦場へと向かっていく。罠学を一番生かせるフィールド校庭の森の中へと。
ボン。
号砲がなる。さあ戦いの時間だ。王と護衛の4人を残し、狩りに出かける。既に獲物は決まっている。このボーナスを狙うやつは多いだろう。そいつらに十分に注意しないとな。
「おい、急ぐぞ。」
「おお。」
強いと言う噂があるが所詮は噂だ。そしてこの戦いにおける重要なことをあいつはわかっていない。この戦いはいかに王の安全を守りながら狩って行くかと言うことが重要なのだ。つまり王の居場所は知られてはいけない。まああいつの場合一人しかいないから自分の居場所をと言うことだ。それなのにあいつは堂々とこの森に入っていってそこから出て行っていない。入ってからずっと見ていたのでこの中にいることは確実だ。この対抗戦の経験がないことが災いしたな。
急いで来たおかげで俺達の騎士剣教室が一番乗りのようだ。今年は他のクラスに比べて有望な1年が入ってこなかったのでここで名を上げて他のクラスから有望株を転入させておきたい。そんな風に考えていると先頭を走っていた友人から声がかかる。
「おい、あれを見ろよ。」
「ふざけてんのか、あいつは。」
そこにあったのは「ここから罠の森」と書いた看板だった。丁寧に木に紐でぶら下げられている。自らの手の内をさらすなんて馬鹿のやることだ。馬鹿でないとしたらとんでもない自信過剰かそれとも知られても問題ないくらいの実力者かどちらかだ。
「くそっ。馬鹿にしやがって。」
先頭の友人がロープを切りつける。あいつは剣の腕は申し分ないんだがちょっと気が短いのが玉に瑕だ。まあ俺も同じ気持ちではあるが。
看板が地面に落ち、パリンッという音を立てる。
「まずい、逃げろ!!」
落ちた看板から広がった煙が仲間たち4人を包むのを見ながらバックステップして煙の範囲から逃げる。今年入った1年からSクラスのメイドは眠り薬を使うと事前に聞いていたのに。くそっ、油断した。
どうする、1人では他の教室のやつらに囲まれたときに逃げ切れない。いったん王と合流するか?そう迷っているうちに事態は進んでいた。
煙の中から4つの腕輪を持ったメイドが歩いてくる。
「やはり避けられてしまいましたか。もう少し近づいてから切ってくれれば良かったんですが。」
「ああ、やられたよ。4ポイント失ってしまった。しかしここでお前を討ち取れば6ポイントプラスだ。のこのこと姿を現したことを後悔するといい。」
剣を鞘から引き抜く。いつもの自分の剣ではなく訓練用の刃を潰した剣だが重さなどは全て同じだ。罠さえなければ俺が負けるわけが無い!!
あろうことかメイドは俺を見ずに全く違う方向を見ていた。まるで俺など歯牙にもかける必要などないとでも言うかのように。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!一年の癖に!!
「メイドごときが騎士を無視するんじゃねえ!!」
得意の胴薙ぎを狙いメイドに切りかかる。力んでしまったためいつもより遅いがただのメイドには十分な早さだ。俺を怒らせたことを後悔し・・・。
「申し訳ありません。次のお客様がいらっしゃったようなので失礼します。」
俺の剣は空を切り、胸、腹、手首にそれぞれ衝撃を受けて剣を取り落とす。そしてそれと同時に俺の腕輪が外れ地面へと落ちて行った。その腕輪が地面につく前にメイドがキャッチしそのまま森の中へと消えていく。
理解が追いつかない。残ったのは煙が晴れて見えるようになった倒れている仲間4人と地面に落ちている俺の剣、そして腕輪の無い腕だけだった。
なんなんだアレは?俺がこの2年間、いや入園前から磨いてきた剣術が、友と競った剣術が全く通じなかった。幼いころ褒められ、剣に生きると決めてここまでしてきた努力は何だったのだ!!
「うぉおおおおおー!!」
その場に頭を抱え涙を流しながら絶望する男の叫び声が響いた。ただそれに応える仲間も敵も誰もいなかった。




