メイド様、入園式に出る
2人ともネグリジェから着替えていつもの格好で食事を取り、いよいよ入園式だ。
学園内の案内図を思い出しながら会場の講堂へと向かう。王都の一区画を占有する大きさだけあってこの学園はかなり広い。慣れるまでは移動が大変そうだ。
講堂は学舎から渡り廊下でつながっており生徒全員を収容で出来るようにしてあるため、かなり巨大だ。シン様によると同じ文様のようなものが一定間隔で描かれているのは、魔術式で何か魔術的な補強がしてあるのだろうということだった。そちら関係の知識は無いので図書館にあったら借りてみよう。
いくつかある出入り口に張られている席の案内図と自分の生徒番号を見比べて探す。ちなみにシン様は145230番、私は145231番だ。145は145期生という事なので書いてあるのは下3桁だけだが。
「あっ、一番前の席で隣だね。」
「本当ですね。てっきりクラス別になっているのかと思っていましたが違ったのでしょうか。」
番号が列ごとに右の方から順に大きくなっていくのでてっきりクラスごとに分かれているのかと思ったのだが、最前列は8席しか番号が書いていなくてあとは空席だし、良くわからない。若干嫌な予感がしないでもないがシン様と隣なら大抵の事は何とかなるだろう。
講堂に入るとすでに2、3年の先輩たちは席について待っていた。その間をなんとなく気まずくなりながら席へと向かう。せめて新入生が集まってから座っていただきたい。
「おおー、アンとシンリーやないか。お互い受かったみたいで良かったなー。」
席を確認していると聞き覚えのある声がしてそちらを向くと、同じ最前列の席から少女がぴょんっと降りてこちらに駆けてくる。
「こんにちは、エブリン。」
「一点突破はうまくいったみたいですね。良かったです。」
「まあな。うちの実力なら当然やしな。いやー、でも最前列で良かったわ。アンたちにも会えるし、式も良く見えそうやしな。」
へへへっと言った感じでエブリンが鼻の下をこする。やっぱりかわいい。
この王都で初めてできた友達だから会えればいいなとは思っていたけれどこんな所で会えるとは思わなかった。再会を喜んでしばらく話していると、ほとんどの席が埋まってきていたので昼食の約束をしておとなしく私たちも席に着いた。
「それではこれより145期、ルーリア王国国立第一学園の入園式を行います。」
大きな声を出しているように見えないのに司会の職員の声がこの講堂中に響き渡り、新入生から戸惑いの声が上がり少しざわざわする。私もびっくりしたのだが、シン様は当然のような顔をしていたので表には出さないようにした。シン様には気づかれたかもしれないが。
そのざわめきが終わるころに1人の杖を持った老人が壇上に現れる。老人とは言っても背筋はピンと伸びており、その瞳からは悟りでも開いたような静かな威圧感が感じられた。でも気になるのはそんなところじゃない。
「理事長のあいさつ。」
「新入生諸君。入園おめでとう。この学園の理事長のガンドールじゃ。諸君も知っての通りこの学園は『知こそ全て』と言う・・・」
理事長の歓迎の挨拶が続いているが、内容が頭に入って来ない。おそらく他の新入生も同じなんじゃないかな。視線は理事長に向いているのだが、理事長本人ではなくそのつるつるの頭の上で理事長が話すたびにプルプルと震えている青い物に釘づけだ。
なんでスライムを頭に載っけているのよ!!そしてなんで誰も突っ込まないのよ!!
これが普通なの?貴族はシン様しか知らないけれど上流階級では頭にスライムを載せるのが普通なの?
シン様の方を見ると、こちらの視線に気づいたようでプルプルと首を横に振る。良かった。私の常識はおかしくないみたいだ。そんなことをしていたらいつの間にか挨拶は終わってしまっていた。
理事長がスライムをプルプルさせたまま演壇から降りていく。そこはかとなくこの学園に入園して良かったのか不安になるわ。そんな私の思いとは関係なく式は続いていく。
「続いて生徒会長のあいさつ。」
「はい。」
凛とした声が響き1人の女子生徒が2人の男子生徒と1人の女子生徒を引き連れ、颯爽と壇上に上がる。流れるような肩甲骨まである銀髪をなびかせ、その彫刻のように整った顔をこちらに向ける。その青い瞳は優しげでありながら芯の通った力強さを感じる。
「「会長ー!!」」
「「ジャック様ー!!」」
「「クインさーん!!」」
「「エルス様ー!!」
講堂の後ろの方から黄色い声が飛ぶ。かなりの人気のようだ。んっ?ジャック?
「シンリー様。」
「ええ、ちょっと面倒なことになりそう。」
シン様が表情には出さないが小さな嫌そうな声を出す。その視線は盗賊に襲われた時に会ったあの青年に注がれていた。あっ、こちらを見てウインクした。完全に見つかっているわね。
「ご愁傷様です。」
「ううっ・・・。」
シン様の学園生活は厄介なことになりそうだ。そんなことを考えていると、生徒会長が演壇に立ち、こちらをゆっくりと見渡すと、講堂は嘘のように静かになった。小さく息を吸う音が聞こえ、そしてその声が紡がれる。
「新入生の皆さん。入園おめでとうございます。生徒会長をさせていただいておりますエカテリーナと申します。先ほど理事長のお話にもありました通り、この学園では身分など関係なく知識をつけることを第一に過ごすことを目的としています。しかし王族、貴族、商人、農民など様々な身分の方がこの学園で共に学んでいく中で価値観の違いなどで様々な問題が起こるかもしれません。そんな時、先生方に相談するのもいいでしょう。しかしそこまででは無いと思うとき、相談するのがためらわれるときは、私たち生徒会がいることを思い出してください。」
エカテリーナさんが一息おく。そして私たち新入生をゆっくりと見回す。そしてその力強い瞳で真っ直ぐに前を見つめる。
「私たちはたとえどんなに小さな悩み事でも相談に乗ります。この学園に1人で入って心細いときもあるでしょう。そんな時は生徒会室に遊びに来てください。一緒にお茶をして楽しく話しましょう。あなたの学園生活が楽しいものになるよう私たちに手伝わせてください。そしてあなたのこの学園での経験そして思い出がより良いものになるよう一緒に頑張っていきましょう。」
エカテリーナさんが礼をする。途端にワアッという歓声と拍手に講堂が包まれる。それは2、3年生だけでなく新入生も含まれていた。
人の上に立つ才能、それがエカテリーナさんにはあるのだろう。そしてそれに惹きつけられる人も多いのだろう。しかしすでにシン様と言う主人がいる私にとってはただの歓迎のあいさつに過ぎなかった。
「これがカリスマというやつだね。」
その声にシン様の方を見たが、魅了されたわけではなく感心しているようだ。ゼンコの技を見せてもらっていた時の様子に似ている。
演壇から生徒会の面々が降りていくとしばらくして講堂は再び静かになった。
「新入生代表のあいさつ。新入生代表、シャーロット・フォン・ルーリア殿下。」
シン様と目を見合わせ、壇上の人物へ注目する。事前に見た絵ではロングの金髪で大人しそうに椅子に座っていたが、演壇へと向かっていくシャーロット殿下はボブカットにした金髪に、意志の強そうな緑の瞳をしていた。歩き方はずんずんという音が似合うような歩き方でとても大人しそうには見えない。
「新入生、そして在校生の諸君。私がこの国の第三王女シャーロット・フォン・ルーリアです。エカテリーナの演説の後で申し訳ないが、私はここで宣言しましょう。この学園は楽しむための場所では無いということを。」




