メイド様、入寮する
寮の管理をしていると言う40代くらいのメイドの女性に寮を案内をされながら部屋に向かう。木造2階建ての横長の作りで、渡り廊下で何棟か繋がっている女子寮の最大収容人数は300人だそうだ。もちろん部屋が300部屋あるわけではなく、入寮費によって1人部屋、2人部屋、4人部屋と分かれている。貴族や大商人の中には1人で2部屋借りるような生徒もいるらしい。何のためにと思ったら世話をする従者のための部屋だそうだ。お金持ちは違うなー。
食堂の場所や寮の規則などを簡単に説明された後、冊子を渡される。その名も「ルーリア王国国立第一学園女子寮規則」。ぱらぱらとめくってみたが大した内容が書いてあるわけではない。食事の時間や門限、男性を寮に入れないなどという、ごく普通のことばかりが書いてあるだけだ。これを見ることは二度とないだろう。
寮の内部は歴史ある学園だからというのもあるのだろうが、良い言い方をすれば伝統的なデザインのものになっている。しかし傷んでいたりするような場所や汚れているような場所は見受けられない。
さすが国立学園、寮を管理するのも一流の人材を使っているのだろう。
案内された部屋に2人で入る。備え付けのベッドと勉強机、クローゼットは同じ職人によるものなのだろう。波のうねりを見事に表現した彫刻が統一感を醸し出している。確か80年前くらいの家具職人によるもののはずだ。エマさんに借りた本に書いてあった特徴と一致している。装飾なんか全くないのに私の直感もこれは高いものだと伝えてくるし。
「良い部屋だね。ちゃんと手入れも行き届いている。」
「ああ、でも本当に良かったのか?同じ部屋で。」
「シンがメイドと一緒に寝ることを気にしないなら同じ部屋でいいよ。同じ部屋の方が何かとフォローしやすいし。」
「いや、俺が気にしているのはアンは女で・・・」
「?」
なぜかもごもごと口ごもってしまったシン様を残し、部屋の中を見て回る。簡易的なキッチンもあり、本格的な料理は難しいかもしれないがお茶を淹れるくらいなら出来そうだ。
狭いながらもトイレとシャワーもついており、これならシン様に不便をかけることもないだろう。
「よし、当面足りない物はなさそうね。暮らしてみて欲しいものが有ったら買いに行きましょ。」
「そうだな。他の寮生みたいに大荷物を持ってきているわけでもないから片付けはほとんど必要ないから楽だな。」
シン様のその言葉に思わず苦笑する。案内される最中に見た、はたして部屋に入るのだろうかと言う大荷物を誰かの従者が一所懸命運んでいる様子を思い出したからだ。マジックバッグに入るとはいえ物が溢れすぎると逆に暮らしにくいように感じるんだけど、価値観は人それぞれかな。
そんなことを考えながらマジックバッグから生活用品や服を取り出していく。まあほとんどはシン様の物だ。シン様の癖を考えながら配置していき、10分で終わってしまった。
「シン、夕食まで時間があるけどどうする?」
「そうだな、ちょっと寮を見て回るか。護衛するなら逃走経路や死角の確認は必要だしな。」
「はい。」
その後、夕食までの時間を寮内や寮の周りをシン様の後について歩いて回った。シン様はキラキラした表情できょろきょろと周りを見ながら楽しそうに歩いていく。見慣れない私たちを見ていぶかしげな視線を送ってくる者もいたが、シン様の様子を見て新入生だと察すると親切に案内をしてくれたりした。その人に花が咲くような笑顔でありがとうございます、と返すシン様を見ながら、誰ですかあなたは、というか実はノリノリじゃないですかと突っ込みたくなってしまった。
見て回った限り死角もあまりないし、逃走経路も最悪壁を破壊すればどこからでも逃げられそうなので一安心だ。あとは王女様がどの部屋に入寮するのかと言う事の把握が必要なだけだ。まあ一般生徒と同じ所にはさすがに住まわせないだろうから特別な部屋があるのだろう。
夕食を食堂で取る。一応ビュッフェ形式だったが希望する者には専属のメイドが給仕してくれるらしい。シン様の給仕をしていたところ数回声をかけられてしまった。新入生であることを伝えるとごめんねっと謝ってくれて、そして別のメイドに声をかけていた。ちょっと格好を考えなくてはいけないかもしれない。後でシン様に相談しよう。
料理は専用のシェフが作っているだけあって美味しいのだが、エマさんの方が美味しく感じて首をひねっているとシン様も同じようで、目が合って互いに苦笑いが出た。私も贅沢になったものだ。
「じゃあおやすみ。」
「はい、おやすみなさい。」
いつも通りのホットミルクを飲み、シン様がベッドに入る。カップを軽くゆすぐだけに留め私もすぐにベッドに入る。街の宿にはシャワーは無かったため、久しぶりに浴びることが出来てすっきりして気持ちがいい。今日はよく眠れそうだ。
本来ならシン様が眠りにつくまで待機しなければいけないのだが、冒険者になった時にそんなことはムダだろというシン様の希望により待機しなくても良くなってしまった。シン様と一緒にいると、どんどんメイドらしくなくなっていくような気がする。服装を変えようかと思ったけれど、やめようかな。これで服装まで変えてしまったら自分がメイドという自覚が無くなっていきそうで怖い。
耳をすませると、シン様は寝返りを何度もうっていて寝苦しそうだ。ベッドが違うからかな。でも宿では問題ないと言っていたけれど。
「大丈夫?」
「・・・ああ、問題ない。俺に構わず寝てくれ。」
「わかったわ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
若干シン様の声が上ずっていたような気もするが、やはりシン様でも入園前日は緊張するのだろう。そう考え私は眠りについた。人と一緒に寝るのは孤児院以来だな~、なんだか安心するなとちょっと懐かしく思いながら。
朝、日が昇る前に目が覚める。シン様を起こさないようにそっと・・・
「うわっ。」
シン様のベッドの方を見るとなぜか薄暗い部屋の中でシン様が座っている。私よりも早く起きているなんてお仕えしてから初めてだ。
「おはよう。」
「えっ、うん。おはよう。起きたなら起こしてくれて良かったのに。」
そう言いながら魔道具のランプの明りを点ける。明かりに照らされ、目の下にクマが出来て、疲れた表情のシン様の顔が良く見えるようになった。ってどういうこと!!
「シン、ひどい顔だよ。」
「ああ、ちょっと寝付けなくてな。しかしその言いようは面白いな。」
クックックとシン様が笑う。とりあえずシン様にシャワーを浴びるように促し、その間にエマさん特製ブレンド紅茶とこの前街で買ったクッキーを用意する。寝付けなかったならお腹がすいているはずだ。
シャワーを浴びたシン様は、紅茶とクッキーを食べると少し落ち着いたようで顔に生気が戻ってきていた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。何事かと思ったわよ。さすがのシンも入園式は緊張するんだね。」
「・・ああ、まあそうだな。」
なにかと私より大人びているシン様がそんな風になるなんて可哀そうではあるのだがちょっぴり嬉しい。世話を焼かせてくれること自体があんまりないご主人様だし。
目の下のクマは消えそうにもないのでファンデーションで隠すことにした。せっかくきれいな肌なのにもったいない。でも目の下にクマがある顔でクラスメイトに挨拶するわけにはいかないしね。第一印象は大事だ。
それにしてもこんなに疲れているのに化粧ののりもいいなんて本当は女なんじゃないのかな。昔読んだ自分のことを男だと思って育った女の子の話を思い出す。そんなことを思い出した自分を馬鹿馬鹿しく思いながら化粧を終えた。




