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「どうでしょう侯爵。一つ私と悪い事、しませんカ?」


 趙さんはニヤリと笑いながら侯爵に問いかけた。


「……なるほど良いだろう。康紀も戻った事だし、私も久し振りに思う存分動こうじゃないか」


 とこれまた悪い笑顔で答えた後、ガッチリ握手を交わした。


「しかし侯爵、まだ康紀様の体調は……」

「問題無い。一度倒れたからにはどれ位すれば倒れるか経験したはず。それなら後は自分で調整出来る筈だ。それに次ぎ倒れるとしてもあんな倒れ方はしないだろう。それに他の皆も居る」


「そうですね。こっちの整備は任せてください」


 侯爵の視線を受けて僕は答える。倒れて意識を失うなんて指揮官失格だ。自分だけじゃなく周りにも被害が及んでしまう。今後は倒れる前に背負い込まないようにしていかないと。ブラック企業の社員じゃあるまいし、ここには助けてくれる僕より優秀な人たちがいるんだから。


「宜しい。全権は君に預けよう。何が起きても君の責任で判断して構わない。楽しみにしているし、我々の仕事も楽しみにしていてくれたまえ」

「私も楽しみにしています。こちら側の問題点をどれだけ解消できるカ」


 趙さんの挑むような瞳に一瞬怯みそうになるが、力強く頷く。


「では早速行くとするかねぇ」

「そうしましょウ。長居すると問題が色々出てくる」


「問題ですか?」

「いやまぁこっちの話サ。では侯爵」


 趙さんと侯爵はそのまま食堂を出ていく。僕たちも後を追い、屋敷の門の前まで見送る。


「エルフの件は良く考えて対処するように。……もっとも君がどう判断するか私には見えているがねぇ」

「確かに。私も状況を聞いた限りですが、康紀は我々が考えているような選択をするでしょウ」


「えーっとなるべく成果が多く得られるよう努力します」

「そうしてくれたまえ」


「良いですか康紀。あくまでも冷静にそして憐みなどの感情を持ってはいけませン。彼らはそれを計算に入れて交渉してくるでしょウ。そうした時相手の懐に入ったつもりでギリギリまで相手の譲歩を引き出すことを忘れないデ」

「そこまでだ。趙くん行くぞ」


「あ、ハイ。そうだ、康紀」

「なんでしょう」


「シェンリュにヨロシク!」

「え、どういう事ですか?」


「彼女は私の妹なんダ! じゃあね!」


 離れていく侯爵と趙さんを小さく手を振りながら見送った……。最後の最後でなんて爆弾発言をしていくんだ……。兄は居るって聞いていたけど、家族の代表はシェンリュさんだっていうし何が何だか。


「康紀様、早速始めませんと」

「あ、ああそうだった。先ずは何をしようか」


「先ずはボブゴブリンたちと話をした方が宜しいかと」

「そうしようか。親分たちを食堂に呼んでもらっていいかな」


 アステスさんは一礼して荒地へ向かう。僕は食堂へと戻る。


「さてさてどうしたものか」

「問題は山積みね」


 大人しかったシルフが口を開いた。


「そういう事だね……シルフ大人しかったけど」

「観察してたのよ」


「で、観察した感じどうだった?」

「明らかに胡散臭いわね!」


 腕を組んで胸を張りつつ声を低くしてシルフは言った。その可愛らしさについふいてしまう。


「趙さんはシンプルだと思うよ。経済こそが全てって感じでさ。経済の停滞こそが悪って思っている気がする」

「私には理解出来ないわね。そんなものより大事な事があると思うけど」


「そういうのは僕らが補えば良いと思うよ。そういう方面に明るくて冷静な人を求めていたからさ。何とかこっちも上手く進めないと見限られちゃうかもしれないから頑張らないと」

「そうなったらそうなったで良いと思うわよ」


 フン、と鼻息荒くそっぽを向くシルフ。戦いが始まれば冷静に感情抜きに判断しなければならないし、それを皆に伝えて従ってもらう事になる。趙さんは趙さんなりの方法でそれをするだろうし、僕はそれをフォローする存在でいれば良い。

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