オークの族長
「兎も角あのオークはヤバいわ。会話が通じてないのかと思いきや理解して恐らくこっちの思惑も読んで答えのみを口にする」
「無駄口を叩かないのは良い事じゃないかぁ。実に話が早くて良いねぇ」
「確かに。……侯爵、僕はその人に会って来ても良いですか?」
「構わない。こっちは私たちでやっておくから」
僕はそのまま居てもたっても居られず、屋敷を出た。お供はシルフだけを連れて。馬は使わず駆け足で森を横断する。出発前に以前貰ったグルヴェイグさんお手製の磁石と侯爵からの地図を携えて。
「もうすぐ着くわ……」
シルフは肩にしがみついていたけど、そう言った後空へ舞い上がる。
「どうしたの?」
「苦手だからね……」
僕は速度を落とし慎重に近付いて行く。ゴブリンと戦った時の様に、段々と森の木の密度が下がっていく。そして煙が幾つか立ち上っているのが見える。村が近いようだ。
木の陰に隠れ周りの様子を窺う。入り口のようなところに二人。ゴブガンよりは小さく、頭髪もスッキリとして緑の肌が艶やかに見えるほど鍛えられた人物が立っていた。
石造かと思うほど微動だにせず立っていた。よく訓練されているように見える。
「おい」
僕はその声にすぐ反応し距離を取ろうとしたけど、相手の手の動きが恐ろしく速かった。なので無駄な抵抗はせず流れに身を任せる事にした。いざとなれば手がある。
「ど、どうも」
「何故ワクワクしている?」
声の主を見る為ゆっくりと振り返ると、髪の毛をオールバックにし後ろ髪を三つ編みにし右半分にタトゥーの入った緑色の肌の人物が立っていた。鎧も着ず武器も持っていない。
下半身の白いズボンと靴だけ身に着けている。顔立ちは厳ついのかと思ったけど美形の顔をしていた。なるほどこれじゃあ今までとはまるで違うのかもしれない。門番の二人とは明らかに違う。
「え、あの、凄い人に会える気がして……」
正直楽しみで仕方なかった。会ってみたいと思って直ぐに屋敷を出た。その人物が相手の心を察知出来るなら、嘘を吐く必要も誤魔化す必要もない。
だけどその相手もそうなのか、とか色々知りたくなって来てしまった。恐らくこの人が例の人だろうと思った。
「そうか」
その人物は僕の肩から手を放すと、僕の横を通り過ぎる。その姿を見送っていると、暫く先を歩いた後で振り返り僕を手招きした。それに素直に応じ後を追う。
「だ、誰だ?」
門番の二人は手に持っていた槍を僕に向けて構えたけど、僕に声を掛けた人が両手を広げて阻む。
「い、良いのか?」
門番の問いに頷いた。そして渋々門番は槍を下げて元に戻る。
「来るが良い」
そう言われて村の中を進む。オークの人たちはやはり僕を見て目を丸くしていた。それでもエルフの時より静かだった。
「座れ」
一軒の小屋の中に招き入れられ、囲炉裏の様な場所に通され茣蓙の様な物を渡され座った。主は対面で座りながらやかんの様な物と魚を串で刺して囲炉裏に置いた。
それから僕たちは無言で見つめ合う。正直興味しか沸かない。この武人然とした立ち振る舞いとその余裕があり微動だにしない雰囲気。とても野蛮な感じはしない。高い知性を感じる。
「聞いても良いか?」
「どうぞ」
「何をしに来た?」
「初めまして康紀と言います。僕はオークの族長に興味があって会いに来ました」
一礼した後そう告げると、彼はまた黙った。視線はそのままに、手元に置かれた茶碗へ同じく近くにあった小さな壺から草を鷲掴みにして茶碗へ入れた。そしてやかんの様な物が湯気を出すとそれを取って茶碗に湯を注ぐ。そして僕に渡してきた。
先ずは匂いを嗅ぎ一口入れて口全体で味を確かめる。苦みが強いかと思ったけど甘みが強かったのに驚いた。そして毒や危ない薬ではないようで、気分に変化はない。




