戦いの準備の現実
「今迂闊に首都へ行った者と連絡を取る事は出来ません。そこで万が一に備えて荒れ地との境の尾根に監視台を設けて、また森の出入り口にも人を配置し備えたいと思います。ノルン様たちダークエルフの皆さんにそこを御協力頂ければと思います」
「それは請け合おう。してそこから如何にする?」
「うちのボブゴブリン隊を入り口から街の中間に配置し、リザード族はシェンリュさんの指揮で遊撃隊として動いて頂きたいと思います」
「と言う事はあの街を抑えると言う事か?」
「僕の個人的意見ですが、彼らは放置したいと思っています。現時点で恭順を申し出て来ていないのであれば、彼らを抱えるのは無用の混乱を招いてしまう。国が攻めて来た時は、彼らには退去してもらうよう話し、無理であれば夜襲をかけて誘導して森の外へ出てもらいます」
僕の言葉に皆静まり返る。
「……正直生温いとは思うが」
「はい。ですが彼らも国の人間でそこに住んでいた人たちです。何れ多くの人と商売をしようと考えるのであれば、捕えたり危害を加えたりはギリギリまで避けたい。昼間よりも夜襲の方が恐れは大きいと思います。幸いこちらには夜強い人も多いですし、森で動く事も苦ではないので」
「仕方ないね。元々は彼らがグルヴェイグの娘を誘拐するのに協力したのが事の発端だ。ゴブリンを招き入れ自らを危険に晒した。もう前町長だけど彼になってから国にべったりだったしねぇ。こうなったのも自業自得。私たちは宣言をして猶予を与えたのに返事も無いのだから」
「ノルン様のお考えは分かりかねるが、私はそんなものを気に掛ける必要はないと考えてしまう。戦になれば身内こそが全てだ。他人に構うほど余裕な戦いはないし、それは敗戦に繋がる心の隙になると思うが」
シェンリュさんの言葉に驚いてしまう。僕がそこまで考えられないのはやっぱり本格的な戦いと言うものを経験していないからだろう。
「然り。ただでさえ向こうは鍛錬し武装もしっかり整えているのだ。こちらにそんな余裕は無い。隙を見せれば一気に押し込まれて皆殺しか嬲られるだけだ」
ノルンさんは怒気を込めてそう言った。
「まぁまぁ彼の言う事も最もなところはある。今後の事を考えれば拮抗を保つことが重要だ。それには先ずこの領地を掌握し、無意味な犠牲は極力抑え国の兵士のみを確実に一度全滅させる必要がある。故に私の方で街の方には勧告を出す。そうすれば商売の見込みからこの領地の権利を認めさせる交渉にも可能性を残す事が出来ると考えているがどうか?」
その言葉に皆頷く。
「陣頭指揮については康紀に任せる。私は後方から援護をし、ノルンとシェンリュくんは其々の部隊を指揮して援護してくれ」
「良かろう。彼には経験が必要だ。力は持っているのだからそれを示すには奇襲の様な戦いが適しているだろう」
「相手にも知られていると思うけどねぇ一度見せているし」
「だが防ぎようはあるまい? 少なくとも私には分からんがね」
「用心に越した事は無いと思う。我々もそれは想定しておくのが一番安全だと思う」
「シェンリュくんに前線は任せても問題なさそうだねぇ」
「小競り合いならまだしも大隊での指揮は経験が無いので遠慮させてもらいたい。厳しい事を言うようだが同盟主としての責務として果たすべきだろう」
「確かに。あくまでも彼を旗手として集まってきたし、今回の問題はそちらに端を発している。責任は無いと言われたところで指揮を取れば恨まれることもあろう。我らも自らの部族の事で責を負うのはやぶさかではないが」
今までに経験した事の無い空気が流れる。確かにその通りだ。
僕が誘って集まってもらったんだし、今回の事は僕の身内に端を発している。
戦いと言う一番責を負わなければならないところから逃げるような事が
あってはならないだろう。




