ダークエルフとの交渉
「……で、話を進めるが、君たちは何をしようとしているのかな」
「はい。ご存知だという前提で話をさせて頂きますが、我々はグラディウス国と戦乱を招こうとする者たちに対抗すべく結束しようと考えています」
「何故君がそんな事を?」
「戦争が嫌いだからです。僕は両親がこの世界にはいません。この国が戦乱に飲み込まれたら逃げ場もありませんし、勝ち目のない戦いに身を投じるなんて無意味です。だからこそこの国で奔放に互いを尊重しつつ生きているこの地域で、しっかり結束をすれば戦乱を思い留まらせる事が出来るのではないかと考えて、各種族の皆さんに声を掛けさせて頂きたいと動いています」
嘘は言わずに言わなくても平気なところは言わず、
目的を伝えてみた。ノルンさんは腕を組んで唸っている。
暫くすると組んだ腕を解いて、右人差し指で髪の毛を
くるくると弄りはじめた。
「お父様、指、指!」
ヴェルさんがそういうと、はっとなり指を止めて
再度腕を組む。
「いかんいかん。女性の時の癖が……」
「お父様!」
女性の時の癖……? ノルンさんは性別が変わったのかな。
そんな事がこの世界でもあるんだなぁ。
「んっほん! それは置いておいて、何故我々が知っている前提で話したのかな?」
「単なる勘ですが、道を見て」
「道?」
「はい。あまりにも道が整備されていて……。森の中でただ守るのならあんなに整備はしないかと。森はノルンさん達の領域。荒れている方が攪乱できるし地の利を生かせる。後はヴェルさんを見て」
「娘が何か?」
「はい、身軽さと僕と初めて会った時、気を消して近付いて来たので」
「それだと何がある」
「気配を消して動けるのであれば、情報収集はお手の物。特に皆さんの陽に焼けた肌は、夜に紛れるには武器になる。それに森に棲んでいれば夜目が効く」
僕がそうかな、と思うところを述べてみると、
ノルンさんは深く息を吸って吐いた後
「なるほどな。考えなしに動いているわけではなさそうだ」
「はい。是非とも御協力頂ければ幸いです。今まで通りの環境を守るためには、他国に攻め入られるのは都合が良い事は無いと思います」
「そうだな」
「ただ」
「ただ?」
「何か特別な召喚魔法や錬成陣等、一発逆転を狙える手があるなら少し違うかもしれません」
「そういうものがあれば勝てる、と?」
「無理でしょう」
「そんなに大きな手があってもか?」
「はい。一つは相手はここが無くても問題ありませんが、皆さんはここで生きていかなければならないからです。そしてもう一つはそれが大きければ大きいほど、他の種族が黙っているとは思えません。そうなるとこの場所が崩壊する。故に侯爵に大人しく従ったフリをして機会を窺っている」
僕がグルヴェイグさんやアステスさん、侯爵から聞いた事や
学んだことから推察して話した。
話が終わるとノルンさんは口を大きく開いて笑った。
「なるほどなるほど。いやはや参ったと言う他無いな。正解は敢えて言わないが、大筋で的を得ている。グルヴェイグとファウストの入れ知恵だけかと思ったが、多少は考える頭があるらしい」
ひとしきり笑った後、そう微笑みながらノルンさんは言った。
少しでも当たっていたのが嬉しくて、ちょっと褒められたような
気がしたので気恥ずかしく後頭部を掻きたい衝動に駆られたけど、
思えば身動きが取れなくてがっくり首を垂れた。
「……お前たちいい加減飽きないのかそれは」
「お父様、如何です? 康紀は」
「良いから二人とも離れなさい」
反応なし。
「はぁ……もう好きにさせるとして、我々としては君たちの実力がどうかは未知数。同盟を組むには役不足に見える」
「でしょうね」
「……随分と余裕があるな」
「そうではないのですが、ボブゴブリンの人たちに協力を得ようとした時に」
「した時に?」
「得があるのか、と問われまして」
「当然だな。君たちよりも我々は痛みを伴う。仲間を説得するに足りる材料が無ければな」
「そうですね。現段階で具体的に出せる物はないのですが、我々は軍としてしっかりしたものになるのと同時に、経済圏にも積極的に絡もうと思っていまして」
「ほう」
「物心両面でこの国の一般人の関心を掴みつつ、軍としても仕上げれば無視は出来ないかと」
「確かに」
「皆さんが前面に出ず、僕等が前面に出て商売をしますから、怪しまれる可能性は低い。更に我々と早い段階で組めば組むほど」
「皆まで言わなくて宜しい」
僕はそれに頷いて答える。
「まだエルフの連中とは」
「いいえお父様」
「……まったく何を勝手な事を……。まぁ良い。その口ぶりからして我々の詳細な事までは知らないのだろう?」
「はい」
「そっちにも選択権はあると言う事だな」
「魅力的なものであれば」
と端的に答える。確実なものは何一つない。
ただ国が攻めてくる可能性とそれに対して選択を迫られている事。
この二つは事実だ。現にゴブリンを使ってボブゴブリン退治を
誘発させて軍を引き入れようとしている。
この動きを察知していない一族は居ないだろう。




