屋敷に帰って一服
街の中を歩く僕たちを、街の人たちは
不安な顔をして相変わらず見ている。
兵士が消えた事などを知ればどうなるか。
街から人が居なくなる事はないだろうけど、
不穏な空気は残ったままになる。
兵士にだって家族はいる。
恨みが生まれる。
理屈で統治出来ないとはいえ、
恐怖政治でどこまでいけるのか。
「さてこの辺りで良いか」
侯爵は街を出て直ぐのところで足を止めた。
僕は何が始まるのかドキドキする。
まさか街を飲み込むのだろうか。
「出てきたまえ」
侯爵は振り返って僕を見ると、
指をパチンと鳴らし右足で地面をける。
すると地面は黒く染まり、
そこから浮き上がる兵士たち。
「目覚めよ」
その言葉に力なく浮き上がっていた
兵士たちは、黒く染まった地面が
元に戻ると同時に足を地面につけて
しっかりと立つ。
「これで分かったと思う。私たちを攻めると言う事はこういう事だ。次同じことをするなら容赦しない。中で行われたことを忘れないようにねぇ」
兵士たちは周りを見て互いに抱き合い
喜んだあと、侯爵と僕らを見て悲鳴を上げて
一歩下がって固まった。
侯爵の言葉に頷き一目散で街へと逃げ帰った。
「侯爵彼らを生かしておくんですか?」
「怖いこと言うねぇ康紀。恐怖で支配するのは楽だし私の得意とする事さ。だけどねぇ楽な方ばかり選ぶと成長しないんだ。私は停滞を良しとしない。知識だけでなく経験したいのだよ余すところなくねぇ」
「正直ホッとしました」
「そういう顔をしてたよ。でもねぇそれだけに安心した」
「どうしてですか?」
「正義の味方みたいな顔をしてなくてさ。君の事だから兵士を助けようとするんじゃないかと思ってね」
侯爵は意地悪い顔をして笑っている。
僕は苦笑いで答える。
正直ゴブリンとの事で兵士にあまり良いイメージは無い。
ただそれだけだった。
「君の性向は善ではないだろうが、悪でもない。良い意味でも悪い意味でも中立」
「悪い意味の中立って」
「私が見てきた経験からして、人は大なり小なりどちらかに傾いている。ただ時たま居るのさ。どちらにも感情を振らずに冷徹にみる事が出来る人間が」
「居るんですねそういう人が」
「ああ。君がギリギリ分かりそうな人間でいえば、曹孟徳だ」
「曹操を知ってるんですか!?」
「私の書籍の中に紛れ込んでいた本で読んだのさ。どこで買ったのかは忘れたけれど」
「あ……そうなんですね」
「ご期待に添えられなくてスマンね。まぁ立ち話もなんだし一旦帰ろう」
「す、すいません」
僕たちはこうして街を離れる。
曹操の名を何故ファウスト侯爵が知っていたのか、
手がかりが見つかりそうだと一瞬思い歓喜したが、
それは一瞬にして萎んでしまう。
だがもしかすると何かにつながるかも。
後でその本を見せてもらおう。
馬車の中でも侯爵は何故か上機嫌だった。
僕は今日は喋り過ぎて疲れてしまい、
馬車のゆったりなリズムに乗って眠りに落ちて行った。
「アステス、早速悪いけどお茶を頂けるかな」
屋敷について馬車を降り、
食堂へ着くと侯爵はアステスさんにそう告げた。
僕は短時間でも良い睡眠がとれて、
頭はすっきりしていた。
「康紀の疑問に答えてあげようかなと思ってさ」
「街の支配についてですか?」
僕がそう言うと侯爵は驚いた顔をして
手を広げて天井を仰いだ。
きっと僕の世界について匂わせてからかおうと
したに違いけど、それは読んだので
先手を打ってみた。
「つまらないなぁ。実につまらないよ」
「つまらなくて良いんですよ。それより侯爵。彼らに恐怖と安堵を与えた事で、板挟みには出来ました。ですが時間稼ぎになっただけって気もします」
「良いんだよそれで。今もそうだし例えば戦いになった場合にも尾を引くようなレベルにした。彼らに国が無理強いすれば、天秤が傾く。大いに意味のある事だ」
「国からここまで時間が掛かるとはいえ、明確に反旗を翻したように取られては、国の攻めっ気を刺激しませんか?」
「確実に勝てる、というなら出張っても来るだろうけどねぇ。万が一にも惜敗なんて事になれば足元から崩れる。彼らの目的は達したんだ。これ以上刺激して藪蛇になれば更なる自滅を招く。そこまで馬鹿じゃないだろう」
侯爵は僕の質問を楽しそうに頷きながら
答えてくれている。まだまだ掌の上って事か。
正直気になっている。ただの時間稼ぎだけでないはず。
勿論時間稼ぎにはなるだろうけど、
僕の勝手な想像だけど、鞭の次は飴を出す気がする。
「そう……そういえばボブゴブリンたちはどうかな?」
「あ、はい。ボブゴブリンたちに仲間にも国が狙ってることを告げてもらい、選択してもらってこちらに来るという者たちには勝手ながら屋敷のすぐ外に仮の集落を作らせて貰いました」
「良いよ使って構わないと言ったからね。鍛錬の合間に家造りもしているとか」
「はい。勉強もしつつ建築も。こういうのは経験を積んで慣れないといけませんから」
「うんうん。積極的に動くことは良い事だよ。大分彼らも君に懐いているようじゃないか」
「懐いているというか……認めてもらいつつあるなぁという感じで」
「それでも凄い事さ。我々には今は一人でも多く仲間がいる。その為には色々やっていかなくてはね」
アステスさんが持ってきてくれた
お茶を飲みながら侯爵と語らう。




