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屋敷での寝るまでの時間


 アステスさんが組んだメニューに従い、

僕はトレーニングを開始する。

今は一応晩のトレーニングとして

腕立て腹筋背筋スクワットの後、

アステスさんに先導されて走る。

アステスさんは着替えるのかと思ったら、

メイド服姿で走っている。大分シュールだ。

そして早い。

僕は異世界に来て能力が上がっているはずだが、

それでも最後には体力の差か引き離された。

周りの景色を見るよう言われたが、

そんな余裕は微塵も無く。


「い、頂ます」


 初日にしてボロボロである。

数値的に上がっていたとしても、

元々は非力な引き籠りニート。

改めて思い知らされた。


「どうぞごゆっくり召し上がってください。しっかり噛んでから飲み込みませんと、胃が痛くなるかもしれません」


 出てきたのは牛の肉っぽいものと

山盛りの野菜にミルク粥みたいなもの。


「ご、ご馳走様でした」


 僕は其々一口ずつ口に入れて

そう告げたが、アステスさんは

目を閉じ黙って向かい側の入り口付近に

立っていた。


「か、片付けてもらえると……あと何か飲み物を」


 僕の言葉にまるで反応しないアステスさん。

無言の圧というものを感じる。

結局根負けし、僕は少しずつ胃に入れていく。

粉々になるまで噛んでから飲み込む。

かなり遅いペースだがアステスさんは

表情を変えず黙って立っていた。


「こ、今度こそご馳走様」


 じっくり時間をかけて完食した。

するとアステスさんは直ぐに外へ出て、

暫くしてお茶をもって帰ってきた。


「すっぱ……」

「ローズヒップティーです。体に良いので必ず全てお飲みください。それが終わりましたらこちらを」


 アステスさんは僕の目の前に、

茶色の液体を差し出した。


「これは……」

「必須アミノ酸を配合した侯爵オリジナルの飲料水です」

「泥水じゃなく!?」


 と僕が言うとアステスさんは一瞬口元を隠した後首を振った。


「アステスさんも飲んでよ」

「私も疲れていましたらお飲みしたいのですが……」


 心底残念そうな顔をしているが、明らかに嘘である。

いつかアステスさんにも飲ませてやる……。


「真に御希望でしたら条件次第では」

「結構です」


 遮って断る。大体そういう提案に碌な事が無いのは

引き籠りですら分かる。現にアステスさんは少し

残念そうな顔をしている。


「アステスさんは何故メイドをしているのか聞いてもいい?」

「何故とは?」

「アステスさんならもっと他に稼ぐ手段がありそうだけど」

「そうかもしれませんね」


 会話が止まる。

まぁ僕に言われるまでもなくそうなんだと思う。

そしてそれでもここにいると言う事は、

それ以上に特になることがあるんだろう。

お金じゃないとすれば知的好奇心とかかな。


「恐らく考えられている事は正しいかと」

「え、何か言っちゃった!?」

「いえ、不躾ながら申し上げますが、目が下左上右の順でゆっくり動いておりましたので」

「ああ……」


 悪い癖が出てしまった……。

昔から人の話を聞いている時に

真っ直ぐ見たままではいられなかった。

考えて整理していると動いてしまう。


「大事な事です。誰も彼もがどんな状況でも十分に思考する時間を与えられる訳ではありません。一秒でも早く迅速な答えを導き出さなければ死んでしまう世です。相手の話を聞きつつ整理し、即返していけるのは相手とディスカッションする時だけでなく、交渉でも必要な事かと」

「ど、どうも」


 気恥ずかしくて後頭部を乱暴に

右手でくしゃくしゃしてしまう。

癖を怒られたことはあっても褒められた事はないし。


「康紀様、テーブルではなるべく髪を触らないように」

「あ、すいません」

「テーブルマナーも身につけなくてはいけませんね」

「いけませんか」

「いけませんね。人間の高貴な者たちはそういうところを特に気にしますので。交渉で相手に軽んじられるのはまだしょうがないにしても、見下されては話になりません。相手を侮らせるという戦術なら良いでしょうが、それでは名将などに対しては煽るような行為になりかねません」


 なるほどね。出来る人間ならそれが演技なのかどうなのか

直ぐにばれてしまう。粗野粗暴なら躊躇いもなく討つだろう。

そんな事になれば交渉しない方がマシまである。


「気を付けます」

「いえ、今は一つでも多くそう言った問題点を洗い出すことが大事です。ジャン様や侯爵様が時間を稼いでいる間に康紀様を鍛える基礎を作るのが私の仕事ですから」

「よ、よろしくお願いします!」


 なんとか酸っぱい紅茶と

その泥水のようなものも飲み干した。

粉っぽい牛乳みたいな味がする。

喉に何か引っかかるなぁ……。


「では湯浴みを」

「あ、はい」

「御着替えはこちらでご用意させていただきますので」

「よ、よろしくお願いします」


 案内された所は地下に降りて

少し歩いた場所にあり、

扉を開けた先には湯気が充満していた。

岩の窪みにお湯が湧き出ていて温泉のようになっている。

脱衣所は脇にあり、そこの竹で編んだような

籠の中に入れて中に入ろうとしたが、


「康紀様。先ずは外で汚れを流してから」

「あ、す、すみません」


 僕は下半身をタオルで隠しながら

足の先を入れてしまったが、アステスさんに

止められた。そういやそうかと思い直し、

近くにあった桶に掬い体にかけて流した。

 アステスさんを見ると頷いているので良いらしい。

そのまま湯船に入る。とても丁度良い温度だ。

暫く静かに入っているとうとうとしてしまう。

僕はあわてて出ようとしたが、


「十分は入っていてくださいまし」


 アステスさんの要望により十分我慢する。

意外にこの時間が長い……。


「では一旦湯船から出て頂いて」

「体を洗うんですね? 石鹸とかありますか?」

「体の雑菌を払う液体がございます」


 そういってアステスさんは脱衣所に行った後、

緑の液体の桶を持ってきた。

なんでこの世界の怪しそうなものは

そういう色をしているのか。

実に親切である。


「あ、じゃあお借りします」

「いえ私が洗わせて頂き」

「ません。自分でできます」

「ですがこれも仕事ですので」

「その仕事は今日から無しで。自分でできます。あ、そうだ。着替えを用意していただければ」

「直ぐに」


 ホントに言葉通りに直ぐに戻ってきた。

魔法でも使ったのだろうか。

僕は近くの岩に腰掛けその液体を

タオルに付ける。少量でも泡立ち

それで体をこする。思いっきり草の匂いがするが、

汗でべとべとしたものは全て落ちて行った。

洗い流した後、また十分湯船に浸かり

その日は就寝となる。

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