表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

そのまま、二人は寄り添った。


言葉はもういらなかった。


手の温度と、呼吸のリズムだけが、そこにあるものを確かめていた。


やがて、まぶたが重くなる。


意識が、ゆっくりと沈んでいく。


誰かの隣で眠るという感覚が、こんなにも安心できるものだと——


セラは、初めて知った。




朝。


光が、容赦なく差し込む。


雪に反射した白い光が、部屋の隅々まで満たしていた。


レイは、はっと目を覚ます。


見慣れた天井。


一瞬の違和感。


そして——


「……セラ!」


跳ねるように起き上がり、そのまま居間へと駆ける。


息が乱れる。

胸がざわつく。


そこに——


いた。


セラが。


けれど。


もう、準備は終わっていた。


整えられた服。

まっすぐな背筋。


昨夜とは、別人のようだった。


「レイ」


静かに、名前を呼ばれる。


「迎えが来たんだ。僕は戻るよ」


分かっていた。


分かっていたはずなのに。


胸の奥が、きしむ。


言葉が、出てこない。


セラが、ゆっくりと近づく。


そして。


首にかけていたネックレスを外した。


一瞬、迷うような間。


それでも——


そのまま、レイの首へとかける。


ひやりとした感触。


藍色の石が、胸元で揺れる。


「これ、レイに」


「え……でも、これ……」


「いいんだ」


やさしく、遮る。


「目印にして」


「目印……?」


「迎えに来るから」


その言葉は、驚くほど自然で。


冗談にも、慰めにも聞こえなかった。


「……うん」


小さく、頷く。


その瞬間。


胸の奥が、じんわりと熱くなる。


セラは、少しだけ躊躇って——


そっと、額に触れた。


ほんの一瞬。


けれど確かな、ぬくもり。


離れたあとも、そこだけが熱を持って残る。


「必ず、迎えに行く」


約束だった。


子どもの約束なのに。


どうしてか、守られない未来が思い浮かばなかった。




外に出ると、雪は止んでいた。


空は、嘘みたいに澄んでいる。


白い世界の中を、セラは振り返らずに進む。


足跡が、まっすぐ伸びていく。


その背中が、少しずつ小さくなる。


レイは動けなかった。


ただ、見ていることしかできなかった。


額に手を当てる。


まだ、温かい。


胸元の石を握る。


さっきまで冷たかったそれが、

今はほんのりと体温を帯びている。


ぎゅっと、握りしめる。


消えてしまわないように。


この一晩が、夢にならないように。





(……生きよう)


雪を踏みしめながら、セラは思う。


(守りたいものが、できた)


胸の奥に残る、あの温もり。


あれが消えない限り、自分は前に進める気がした。


(強くなる)


(あの子に、会いに行くために)




たった一晩。


けれど、その一晩が——


二人の人生を、確かに変えた。


王子セラと、少女レイ。


二人が再び出会うのは——十年後。


そのとき。


この約束が、どれほど深く刻まれていたのか。


きっと、思い知ることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ