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外の子  作者: 山田太郎
27/27

二七

(とはいえあれだな、セックスも、誰でもいいわけではないんだよね。基本的に美女じゃなければいけない。そして美女というのはどうだろう、十人に一人くらいしかいないのではないか? そうだ! 十人女がいて、美女は一人くらいだと思ったほうがいいだろう。そして、その美女とセックスしてこそ天国なのだ。ブスやデブ、おばさんなんかとセックスしても、そんなに楽しくはないんじゃないかな……)

 金山正夫はそんな風な事を考えながら、朝の訪れを待っていた。

 何度も時計を確認する。

 まだ三時半くらいであった。

 こんな時間に外を出歩けば、完全に不審者だと思われてしまう。だから早朝まで待たなければいけない。

 早朝と呼べる時間帯になって、始めて外に飛び出す。そして一直線にF工場に向かうつもりだ。

 そして片岡丈に頼んで、一人仕事をあてがってもらうつもりだ。

 以前に片岡とは一緒に食事をしたり将棋をしたりしたことがある。彼とは友達付き合いをしていた時期があった。なんとなく疎遠になって、今ではぱったり関係は途絶えているが、それでもいまだに仲良しの友達だという感覚はあった。

 だから片岡になら、なんでも相談できそうな気がした。真剣に頼めば、なんとか人と触れ合わなくていい仕事をまわしてくれそうな気がした。

 しかし考えれば考えるほど、がっくりときた。

 結局またF工場での勤務だ。

 もう二度と、ああいった誰にでも出来る単純作業なんかやるまいと思っていた。

 そのために一生懸命資格の勉強などをした。簿記やコンピューターの勉強をした。

 しかし結局、専門的な仕事に就くことはできなかった。

 少なくともこのたびは。

 おまけにここ数年、どんどん人間嫌いになっていっている。どんどん人から離れたいという気分になっている。

 誰とも付き合いたくない。孤独が一番いいと思っている。

 しかしこのたび、借金がもうギリギリまで増えてしまって、そのため嫌でも人と付き合わざるを得ない状況になってしまった。嫌で嫌でたまらないのに、人と付き合う必要性が出てきてしまった。

 ホームレスになる勇気はない。死ぬ勇気もない。

 そもそも死ぬ必要なんかないのだ。

 孤独であることが出来さえすれば、生活はそんなに悪くない。自由であることが出来さえすれば、人生はそんなに悪くない。

 誰からも干渉されず、邪魔されず、苦しめられないですむならば、人生はそんなに悪くないばかりか、むしろ楽しいもののように思える。

 永遠に生き続けていたいくらいな気分だ。

 永遠に生きたい。

 孤独にひっそりと、すべてに対して傍観して、面白いテレビを観たり、映画を観たり、漫画を見たりする。

 山に行ったり川に行ったり海にいったりして、自然と親しむ。

 森林にいって森林浴をしたり。

 魚釣りをしたり。

 美味しいものを食べたり。

 自然の中で生きている動物や昆虫、植物なんかを研究しながら生きていくのだって、とても楽しそうである。

 とても面白そうだ。

 誰からも邪魔されず。

 誰からも干渉されず。

 誰からも苦しめられず……

 くだらない駆け引きを仕掛けられたり、馬鹿げた嫌がらせをされたりせずに。どっちが上なのか下なのかと、くだらない争いをしないで済むならば。わざわざ自分のすることなすことを、いちいち人に説明しなくて済むならば。

 どんなに人生は楽しいだろうか。

 色々と背負わされたり、別に何も悪いことをしていないのに怒られたり、怒鳴られたり、陰で笑われたり、馬鹿にされたり、あやつり人形にされたり、遊び道具にされたり。そして時には、誤解から、愛する人を苦しめてしまったり。誤解や、見栄から、自分の弱さを隠すためという下らない動機から、愛する人を、踏みにじってしまったり。

 そんな事をしないで済むのなら、人生は楽しいだろう。

 そしてまた、あの世界の真っ只中に入り込んで、すべての醜い事を再開し、また同じような薄汚い事をしてしまい、まわりが何も見えなくなって、ただムチ打たれ、追いかけられ、なんじゃかんじゃ訳がわからず、日々が過ぎていく。

 そんなことがなければ、人生は楽しいだろう──

 いつの間にか金山正夫は眠っていた。

 そして、気がつくともう昼に近かった。

 しかしまだ猛烈に眠かった。

 布団の中で、歯を食いしばり、寝返りを何度も打った。

(起きなければ。もうとっくに朝だ。起きなければ。今すぐ起きて、働きに行かなければ……)

 何度もそう考えるが、それでも布団から出れずにいた。

 眠くて眠くて仕方が無かった。

(こうしている間にも借金は膨らんでいく……)

 しかしどうしても布団から出ることが出来ない。

 ようやく彼が布団から出たときは、もう外は暗くなりかけていた。

 時計をみると、もう午後六時を過ぎていた。

「やってしまった……」

 彼は上体を起して、頭を抱え込んでそう呟いた。

(でも、とにかく出るのだ。今すぐに!)

 彼は布団から出て、乱暴に布団をたたんだ。

 適当に服を引っつかみ、着た。

 そして髪も梳かさず洗顔もせずに、財布だけを引っつかみ、慌てて外に飛び出した。


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