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外の子  作者: 山田太郎
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一三

 電車内に乗り込んだ金山正夫は、まずは女を探した。

 ジャージ姿の女学生の集団や、ミニスカートの脚の綺麗な女性などを発見する。そして物欲しそうな切ない目で、じっと眺めていた。

 とにかくセックスがしたくて堪らない。

 自慰を我慢して十日ほどになるだろうか。それまでは一日に二度も三度もそれをしていただけに、ずいぶん長いこと我慢しているように思われた。

 だから今、焼け付くように胸が苦しい。このまま女性に襲いかかりたいような気分だ。

 自慰を我慢した方がいいというのは昔、岡本圭介から受けたアドバイスである。

 四年ほど前のことだ。当時、女の尻ばかり追いかけていた岡本圭介との間で、以下のような会話があった。

「カナちゃんってさ、女と付き合いたいとかエッチしたいとか思わんの?」

「なんだそりゃ? 変なこときくね。まあ、まったく思わないって言えば嘘になるだろうね。でもそれほど強くは思ってない。だってオナニーすれば性欲は解消されるからね。わざわざ面倒な思いをして女と付き合う必要性はまったく感じないなあ」

「そっかー、なるほどね。つまりあれだな、カナちゃんはオナニーをやめるべきだな。そしてちゃんとセックスをするための努力をするべきだな。うん、まちがいない。いや本当に、騙されたと思ってそうしたほうがいいよ。友達としての忠告だ。一度一ヶ月くらい我慢してごらん。そしたらずいぶん変わると思うよ?」

「はぁ? 馬鹿馬鹿しい。女と付き合うことだけがすべてみたいな考え方はやめた方がいいよ。それよりもっと立派に生きていくことを考えた方がいいよ。ほら、世の中を今よりも良くするために、自分に一体何が出来るのかとかね。そういうことを男子たるものは考えるべきだよ。仕事のこととかね。そして結局、そんな男のほうが女にモテるんじゃないかな? 俺はそう思うけどね」

 昔、そんな会話を交わしたものだ。

 その頃はまだ金山も、自分にやがて訪れるだろう輝かしい未来を疑ってはいなかった。

 当時、金山はコンピューターの勉強をやり始めたばかりで、将来はソフトバンクの社長のような大金持ちになれるかも知れないと思っていた。

 とにかく金山は、自分の能力は非常に高いと思っていた。

 そして今、現実は全く思ったようには行かず、コンピューター会社への就職活動はことごとく失敗し、彼はもうどうしていいか分からなくなっていた。

 これからは何を目標にして生きていけばいいのか?

 もう勉強をする気はなくなっていた。

 何か無性に疲れていた。とにかく楽になりたかった。

 そして藁にもすがる思いで、自慰禁止という、岡本圭介のアドバイスに従ってみたのである。

 岡本は天文学的なアホだが、それでもそれなりに毎日楽しく生きているように見えた。救いようのないアホであったが、それでもタフに生きていた。腐り切った性格ではあったが、それでも笑顔が多い男だった。

 今自分に必要なのは元気、笑顔、タフな心。そんな風に金山は思っていた。

 そして今、彼は電車の中でジロジロと女性の姿を眺めていた。

 熱く、苦しい気分だった。

 あんなにも魅力的なものが目の前にある。しかしそれは絶対に手に入らない。

 切なく、苦しかった。

 やがて金山は女たちに背を向けて、無理やり視線をドアの外へと向けた。そしていつものようにぴったりとドアの前にへばりついて、ひたすら電車が目的地に到着するのを待った。

(いっそ女なんかこの世から全員いなくなればいいのに。あるいはみんな長袖長ズボンで肌を隠して、おかっぱとか坊主とかにして、セックスアピールは一切しないでもらいたい。本当に目の毒だ。おっぱいとかお尻も目障りだから、さらしを巻いて、ふくらみをしっかりと抑えてもらいたい。本当に迷惑だ。女たちはいい男の気を引くために色っぽい格好をしているのだろうが、女から相手にされない俺みたいなタイプの男からしてみたら、ほんと迷惑な話だ……)

 金山はぶつぶつと悪態をつきながら、ドアの外を眺めていた。

(でもほんとセックスしたい……)

 そしてじっと彼はそのことについて考え続けた。

(そうだ……何はともあれ、友達をたくさん作ることだ。そして女とも友達になって、それから友達としてお情けでセックスさせてもらうとかいう方向性はどうだろうか? あるいは友達としてたくさんコミニケーションをとって、そしてますます仲良くなるためにセックスでもしましょうかって提案するのはどうだろうか? なんとかならんものだろうか……まあ何はともあれ今のような飢えた狼みたいな態度で女を見たり接したりするのはやめた方がいいだろう。なるべく男と同じような感覚で女と付き合う努力をしたほうがいい。普通にお互いの性格とか気心とか知り合って、仲良くなっていく……本当は友達なんかクソくらえなんだけどね……そんなものは必要ない。俺は他人が心底嫌いなタチなのだ。でもまあセックスのためにはしょうがない。すべてはセックスのためだ……)

 金山は真剣そのものの顔つきで、そんなことを考えていた。

 やがて電車は、F工場の最寄りの駅──M駅に到着した。

 金山はホームに降り立って、自分の顔をゴシゴシと掌でこすった。


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