第103話 収納
夜。
銀灯亭。
全員が眠った後も、部屋には小さな明かりだけが残っていた。
セイルは一人、テーブルの前に座っている。
その視線の先には、小さな石。
「……収納」
何も起きない。
石は普通にそこにあった。
セイルは無言で石を持ち上げる。
もう一回。
「収納」
変化なし。
だがセイルは諦めなかった。
スキルバッグ。
便利だった。
かなり。
アースドラゴン素材問題。
運搬。
保存。
全部解決できる。
「欲しい」
珍しく欲望に素直だった。
その後も練習は続く。
「収納」
「収納」
「収納」
石。
コップ。
木片。
宿のスプーン。
色々試す。
だが失敗。
何も起きない。
セイルは少し考える。
蒼銀の翼の神官、ルシア。
あの時の感覚。
空間が歪む感じ。
“入れる”というより。
“別の場所へ移す”。
「……空間」
小さく呟く。
その瞬間だった。
石が。
スッ。
消えた。
セイルの目が少し見開かれる。
「……入った」
成功。
その瞬間、頭の中へ声が響く。
【スキルバッグを習得しました】
セイルは少しだけ嬉しそうだった。
だが次の瞬間。
「……出ない」
消えた石が戻らない。
沈黙。
セイルは少し考える。
「取り出し」
出ない。
「排出」
出ない。
「戻れ」
出ない。
完全に消えた。
「……まずい」
初めて少し焦った。
その時だった。
後ろから声。
「なにしてるの……?」
振り返る。
リナだった。
半分寝ぼけている。
セイルは少し間を置いて答えた。
「スキルバッグ練習」
「夜中に?」
「習得した」
「早っ」
だが次の瞬間。
セイルが真顔で続ける。
「石が出ない」
リナが止まる。
「……え?」
「収納は成功した」
「でも取り出せない」
数秒。
リナは真顔のまま聞いた。
「それ失敗じゃない?」
その通りだった。
だがセイルは諦めない。
もう一度意識する。
空間。
石。
位置。
感覚。
すると。
ポトッ。
石がテーブルへ落ちた。
リナが吹き出す。
「出た!!」
セイルも少しだけ安心する。
「……できた」
その瞬間。
また頭の中へ表示。
【ストレージのレシピを取得しました】
セイルが止まる。
「……レシピ増えた」
「え?」
リナが覗き込む。
セイルは頭の中の説明を見る。
そして。
少し引いた。
「条件面倒だな」
「なにそれ」
「スキルバッグを満タンから空にするを百回」
リナがぽかんとする。
「うわぁ……」
だが説明はまだ続いていた。
【同一内容物はカウントされません】
沈黙。
「めちゃくちゃ面倒だね……」
「面倒」
セイルは真顔だった。
だが。
その目は少しだけ楽しそうだった。
便利になる未来が、
ちゃんと見えていたから。




