第101話 職人の居場所
「ドラゴン素材ぉぉぉぉぉっ!!」
宿へ戻った瞬間。
ボルトンの叫び声が響いた。
銀灯亭の一室。
テーブルの上には、アースドラゴンの素材が並んでいる。
巨大な爪。
分厚い鱗。
高密度の魔石。
そして、切り分けられた肉。
ボルトンは震えていた。
「本物のアースドラゴン素材ですよ!?」
「王都でも高級品ですよ!?」
「これだけで金貨何十枚——いやもっと——」
「落ち着いて」
レナが止める。
だがボルトンは止まらない。
「止まりません!!」
完全に商人だった。
その横で、バルトが椅子へ座る。
「でも全部売るわけじゃねぇぞ」
「え?」
ボルトンが止まる。
セイルがアースドラゴンの爪を見る。
「武器と防具、強化したい」
その言葉に、全員が頷いた。
今回の戦闘で分かった。
王都は甘くない。
今の装備でも戦える。
だが、もっと強くなれる。
「まぁ当然ですよねぇ……」
ボルトンも納得した顔になる。
「ドラゴン素材で作る武器とか普通なら一生物ですし」
だが次の瞬間、全員止まった。
「……誰が作る?」
沈黙。
王都に来たばかり。
知り合いの鍛冶屋などいない。
「王都で探す?」
リリスが言う。
「でも信用できる人じゃないと嫌かも」
リナも少し不安そうだった。
その時だった。
コンコン。
部屋の扉が鳴る。
「ん?」
ボルトンが開ける。
そして全員固まった。
「えっ???」
そこにいたのは。
ガンド。
そしてベルナだった。
「よう」
ガンドがニヤッと笑う。
ベルナも肩をすくめた。
「驚いた顔してるねぇ」
「な、なんでここに!?」
リリスが叫ぶ。
ガンドは部屋へ入り、テーブルの素材を見る。
そして。
ニヤリと笑った。
「面白ぇ素材の匂いがした」
完全に職人の顔だった。
「……アースドラゴンか」
爪を軽く持ち上げる。
重さを確かめる。
鱗を指で叩く。
その目が、少し楽しそうだった。
「久しぶりだなぁ……」
ガンドが小さく呟く。
「魔鋼やら良い素材やらで武器作ってたら、思い出しちまった」
「何を?」
バルトが聞く。
ガンドは笑った。
「鍛冶ってのは、本来楽しいもんだったってことをな」
少しだけ、昔を思い出すような顔だった。
「あそこじゃ、ただ仕事だった」
「でもお前らの武器作ってたら久々にワクワクした」
セイル達は静かに聞いていた。
「だから決めた」
ガンドが言う。
「お前らについてく」
「は?」
リナが固まる。
「王都で鍛冶屋やる」
「えぇぇ!?」
リリスが叫ぶ。
ベルナが苦笑した。
「元々、生活に困って鍛冶やってたわけじゃないからねぇ」
「好きだからやってるだけさ」
ガンドは腕を組む。
「で、お前らの武器作る」
「面白ぇ素材使ってな」
その目は完全に本気だった。
だが次の瞬間。
レナが現実的な問題を口にする。
「……鍛冶場は?」
沈黙。
ガンドも止まる。
「王都に店なんて持ってねぇぞ?」
その時だった。
ボルトンがスッと手を上げる。
「それなら問題ありません」
全員が見る。
ボルトンはニコッと笑った。
「実は今、王都で新店舗を準備してまして」
「かなり大きめに作ってるんです」
「その一区画をガンドさん達へ貸しましょう」
「そこに鍛冶場を作ればいい」
全員が少し驚く。
だがボルトンは、しっかり商人の顔だった。
「その代わり」
「利益の10%はいただきます」
ベルナが目を細めた。
「あら、10でいいのかい?」
「50とか言うかと思ったよ」
ボルトンは爽やかに笑う。
「そこはガンドさん達なので」
だが次の瞬間。
(しまった……
せめて30って言えばよかった……!)
顔に出そうになっていた。
リナが吹き出す。
「絶対今後悔したでしょ!」
「してません!!」
完全にしていた。
ガンドは大笑いする。
「はははっ!!」
「面白ぇな王都!!」
こうして。
フォーチュンスターの周囲は、少しずつ王都で形を作り始めていた。




