第1話 最弱のスキル
空が裂けるような音とともに、巨大な魔物が崩れ落ちた。
「終わりだな」
静かに剣を振り下ろしたのは、国を守るSランク冒険者だった。
たった一撃。
それだけで、すべてが終わった。
「……すげぇ」
人混みの中で、セイルは息を呑んだ。
ただの一振りだった。
だが、その一振りに、すべてが詰まっていた。
力。
速さ。
技術。
——ああなりたい。
その思いだけが、胸の奥で強く燃えた。
⸻
それから数年。
セイルは十二歳になっていた。
信託の儀。
すべての子どもが、神からスキルを授かる日。
村の中央に設けられた祭壇の前に、セイルは立っていた。
「次、セイル」
呼ばれて、一歩前に出る。
手を、水晶に触れる。
淡い光が、体の中へと流れ込んだ。
——来る。
胸が高鳴る。
剣か。
魔法か。
それとも——
「……終わりだ」
神官の声が、あまりにもあっさりと告げた。
「スキルは?」
思わず問い返す。
神官は少しだけ眉をひそめてから答えた。
「……“スキルレシピ”」
「……え?」
聞き慣れない言葉だった。
周囲がざわつく。
「レシピって……料理か?」
「冒険者は無理だろ」
「終わったな」
小さな笑いが混じる。
セイルは、言葉を失った。
⸻
その日の夜。
「冒険者は、やめておきなさい」
父の声は、静かだった。
「そのスキルじゃ、パーティにも入れてもらえん」
「……でも」
「無理だ」
はっきりと言い切られる。
「お前は家を手伝え。それが一番だ」
セイルは、何も言えなかった。
⸻
外に出ると、冷たい風が頬を打った。
「……お兄ちゃん」
振り返ると、エルナが立っていた。
小さな手で、セイルの服の裾をつかむ。
「残念だったね」
その言葉に、胸が少しだけ痛んだ。
「……そうだな」
無理に笑う。
すると、エルナは首を横に振った。
「でもね」
少しだけはにかんで。
「私は、お兄ちゃんと一緒にいられて、嬉しいよ」
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その言葉に、セイルは目を瞬かせた。
「……なんだよ、それ」
思わず、笑ってしまう。
悔しさは、消えない。
それでも。
(……そうか)
(それも、悪くないかもしれない)
⸻
それから——一年。
⸻
セイルは、畑を耕していた。
剣ではなく、鍬を握って。
土の匂い。
陽の光。
それが、今の日常だった。
冒険者になる夢は、
もう遠いものになっていた。
⸻
「おーい、セイル!」
聞き慣れた声が響く。
振り向くと、バルトが手を振っていた。
その隣には、リリスもいる。
「帰ってきたのか」
「当然だろ。もう登録も済ませてきたぜ」
バルトは笑いながら、剣を抜いた。
「見てろよ」
振り下ろす。
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ドンッ。
⸻
空気が震えた。
「これが俺のスキル——強撃だ」
セイルは息を呑んだ。
(……すごい)
胸の奥が、ざわつく。
消えたはずの感情が、少しだけ揺れる。
「リリスもやってみろよ」
「え、でも……」
リリスは困ったように視線を落とす。
「いいから!」
押し切られて、彼女は小さく頷いた。
「……ファイアー」
掌の上に、小さな炎が灯る。
揺れる光。
確かな魔法。
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——その瞬間だった。
⸻
『スキル“強撃”を確認』
『スキル“ファイアー”を確認』
『レシピを取得しますか?』
⸻
(……は?)
セイルは思考が止まる。
(なんだよ、それ……)
意味が分からない。
だが——
(……どうせ、何もないよりマシだ)
小さく息を吸う。
(YES)
⸻
『強撃のレシピを表示します』
『全力の素振りを100回行ってください』
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「……は?」
思わず声が漏れた。
「どうした?」
「いや……なんでもない」
誤魔化す。
(ふざけてるのか?)
そう思った。
だが。
(……やるしかない)
⸻
その日の夜。
誰もいない裏庭で、セイルは剣を振っていた。
一回。
二回。
最初は軽かった。
だが——
五十回。
腕が重くなる。
七十回。
呼吸が荒くなる。
八十回。
握力が抜けそうになる。
「……っ」
それでも、止まらない。
止まりたくない。
九十。
九十五。
九十九。
「……百っ!」
最後の一振りを振り抜いた瞬間——
膝が崩れた。
息が、整わない。
「……終わった……」
⸻
『強撃を習得しました』
⸻
静かな声が、頭の中に響いた。
「……え?」
セイルは顔を上げる。
恐る恐る、剣を握る。
そして。
振る。
⸻
ドンッ。
⸻
空気が、震えた。
「……は?」
さっきと同じだった。
同じ衝撃。
同じ威力。
「……なんだよ、これ」
呟く。
手が震える。
恐怖じゃない。
——期待だった。
⸻
最弱だと思われたスキルは、
まだ誰も知らない“可能性“だった。




