Ⅰ 1-1
主人公は名前からお察しがつく通りあの方をモデルにしております。流石に“原作”の儘でありませんが。60〜70%位という処ですかね。
Ⅰ
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貴教の朝は一杯のコーヒーから始まる――
コーヒーを飲むことでカフェインを摂取し、有酸素運動の前に五体の脂肪燃焼効果を高める。有酸素運動は野外を走るのではなく、自宅居間(一般人レベルでは広間といっていい)のトレッドミルを用いる。走るのではなく、傾斜七度、時速六キロの早歩き。筋トレ中は一切音楽を聴かないが、トレッドミルで有酸素運動をする時はEDMを聴いたりすることはある。リズムが四つ打ちで心臓の鼓動に合っていてノリ易いから。貴教の音楽の根底に四つ打ちで鳴るバスドラとハード・エッチング・ギターとが響き合い共存している様が垣間見える事とも無関係ではあるまい。軽く汗をかいた後は――かかなくても――シャワーを浴びる。白いバスローブを纏い、バスタオルで髪を拭きながら…、ここまではいつも通りだった。
突然、玄関の方で扉を蹴破る様な音がした。すると間も無く、
「テ、テ〇アイ?」
黒いスーツに黒いサングラスをした男が五人、わらわらと湧いてきて貴教の前に立ちはだかった。
道を塞いだ男達を一目見て、メン・イン・ブラックでもなく、シークレット・サービスでもなく、帝〇グループの構成員を連想したのは無論悪い予感がしたからである。パサリとバスタオルを床に落とした。悪い予感しかしていない。何なら目に前にいる連中がシ〇ッカーの量産型末端構成員にすら見えてきた。卓越したトークスキルから勘違いされがちなのだが、貴教の本質は陽キャのパリピなどではない。寧ろ根はネガティブなのである。
五人のうちの一人が貴教の方に二歩三歩を歩み寄りつつ、周りを見回しながら言った。
「いやー、外から見ても豪邸でしたが、内側もやはり凄いものですな。流石はアーティストというか…。家具や内装もどれも御立派だし、この邸宅に和風庭園を組み合わせているのいうのもセンスというのか…。庭石の一つ一つにまでこだわりを感じますなあ」
子供の頃、新聞の折り込みチラシの家の間取りを見るのが好きだった。幼心にコジャレた家に憧れていたのは、実家が日本家屋で、壁が触ると砂がザラザラと落ちてくる、刻み海苔みたいなきらきらしたやつが入っているだった事とも無関係ではあるまい。因みに、「どうして海外の住宅が素敵に見えるのか?」という幼い頃の疑問の自分なりに見出したアンサーは、「ムダが多いから」である。無論、家具にだって拘りがある。ころころと買い替えることを好まない貴教の自宅を彩るものには全てが全て、細部迄たっぷりの愛着が込もっている。大体からして、若くして故郷を後にしすぐ移り住んだ六畳も無い一間、生きていく事自体がぎりぎりだったにも係わらず、その頃から家具や雑貨には自分なりの拘っていたのが貴教である。
(アーティストが自分なりに自分の肉体を含めて自分の美意識をケアし、養い、練り、磨き、高める――自分の好きなインテリアで家を整え、お茶を飲むカップや聴く音楽に音楽にこだわるのは当然…、
じゃあなくて、)
ミステリー(?)やるのはこれが初めてで緩く見てやって欲しいです。『gift』をSFでもいい位の緩い目でお願いします。




