Ⅰ 1-2
「あなたたちは一体何者…」
「流石は画家というか、絵描きというか…」
「はあ?」
(いやいやいやいや。根本的に間違ってるだろ!)
それでも貴教は平静を保つ。
「…あなたたちがどこの誰で、どういう人たちか知りませんが、僕はアーティストではあっても、絵描きではなくミュージシャンで…。そりゃ、タコ足でいろんなことしてますけど…。とにかく、人違いじゃありませ…」
するとさっきからキョロキョロと辺りを見回しながら接近していた黒服が、更に近づいてきて、貴教の肩をポンと叩いて言った。
「気にするな」
「気にするわ!」
これには流石に温厚で知られる貴教もキレた。
「めちゃくちゃ気にするわ!」
同時に左肩に置かれた右手を振り落とそうとしたのだが空ぶった。というのも、件の黒服は右手をポケットに突っ込みつつ、後退していたからである。ポケットから携帯を取り出すと、
「はい。わかりました」
と返事をしてポケットに携帯を戻すと貴教に宣わった。
「さっさと着替えてこい」
「はあっ?」
「『さっさと着替えてこい』と言っているのだ」
「はあっっっ?」
ぶちギレた。
「大体お前らは何だ! こんな朝っぱらに、突然、ひとんちに勝手に押しかけてきやがって!」
直感で感じるものがあったのだろう。貴教の頭の中には久方ぶりに彼のメインテーマが流れていた。まだ売れてない頃、不遇を託っていた時代、「ここぞ」という場面で幾度となく頭の中で、心の奥で鳴り響いたあのチューンが、音楽に出会い、「俺には歌しかない!」と若くして故郷を後にし、常に断崖絶壁の瀬戸際に立ち、「明日がない」――毎日が真剣勝負だった若き日、己を奮い立たせ、全身を波紋の様に駆け巡らせたあのアンセムが、数十年ぶりに彼の中に蘇った。売れっ子となり久しく聴いていなかった貴教魂の主題歌が五体の隅々に迄響き渡った。
其のタイトルとは、「空〇バカ一代」――。楽曲は本来、大〇漣(子〇正人)とパ〇オニア児童合唱団によるものだが、貴教のメインテーマを謳い上げるのは「お◯げたいやきくん」の方ではなく、鶴〇浩二である。




