第三百十七話 信用も信頼もしているが、心配しかない。
「……ねえ、ユリア先輩? 本当にやるの? やめておこうよ……」
「はぁ!? 何を言っているし、ルドルフ様!! やめるわけ無いし!! だってこんなの許せる訳ないじゃん!! エルマー様、絶対に可愛い女の子と逢うに決まってるじゃん!! それでエルマー様が盗られるに決まってるじゃん!! 私、そんなの認められないし!!」
『行くし、ルドルフ様!!』とルディをズルズルと引き摺る様に――まあ、事実引き摺っているのだが、引き摺って街まで繰り出したルディとユリア。今は学園近くの目抜き通りで、壁にもたれ掛かりながら本を読んでいるエルマーを遠巻きに監視している。人通りの多い通りであり、物陰からこっそりのぞくというユリアとルディの行動に道行く人々は一瞬、ぎょっとした顔を浮かべて見せるが……幸か不幸か、ユリアのこの『奇行』に関しては王都の人間も慣れたもの、『ああ、またいつものか』とスルーして通り過ぎていく。本当に、幸か不幸か分からない展開ではあるが。
「いや、まあユリア先輩の心配も分からないでも無いけど……でもさ? 覗きはダメじゃない、覗きは? エルマー先輩もイヤだと思うけど……」
ルディの正論の言葉。そんな言葉に、ユリアは『イヤイヤ』と首を左右に振って見せる。
「ヤ、だし!! エルマー様に女の子の影がちらつくのは我慢できないし!!」
「いや、エルマー先輩に女の子の影って……まあ、エルマー先輩は確かに影のあるイケメンではあるけども……でもさ? エルマー先輩だよ?」
エルマーは確かに影のあるイケメンである。まあ、『わく王』のキャラクターであり、美形は美形なのだ。だが、エルマーだぞ、という感覚をルディはもっている。女子と話すとテンパるエルマーなのだ。そんなエルマーが、女の子と話が盛り上がると思うか。
「確かにエルマー先輩はイケメンだし、若干コミュニケーション能力に難があるけど、それでもそこだって『可愛い』とかいう女の子もいるかもしれないよ? でもさ、エルマー先輩だよ、ユリア先輩? エルマー先輩がユリア先輩以外の女の子に現を抜かずとはちょっと考え辛いんだけど……」
話が盛り上がる、可能性がないではないと考えているのだ、ルディは。まあ、考えてみて欲しい。第二とは言え近衛騎士団の要職につき、貴族社会で確固たる地位を築いている貴族の御曹司で、ヤラシイ話、お金もあるのである。そんなイケメン御曹司が、ちょっと女の子から声を掛けられたら顔を真っ赤にして照れるのである。しかも、エルマーはコミュニケーション能力に難はあるが、コミュニケーション能力が死滅している訳ではないのだ。少し慣れれば普通に話す事も出来るのである。
「でしょう!? エルマー様、絶対モテるし!! ああいうタイプは超肉食系の女子の大好物だし!!」
自身も超肉食系の自覚のあるユリア、真に迫る一言である。顔良し、家柄良し、頭良し、近衛騎士団の要職にもついている超優良物件の、照れ屋のイケメンである。目の前に来たら一口でぱっくんちょなのだ。ユリアだってそうする以上、誰だってそうするという自信があるのである。
「いや、まあそうかも知れないけど……でもさ? 何度も言うように、エルマー先輩だよ? エルマー先輩がユリア先輩を捨てて誰かに走るとは思えないんだけど……」
これはエルマーがユリアを愛しているから。
「…………リスク・リターンの計算は早いし、エルマー先輩」
愛しているから、ではない。いや、まあ勿論、エルマーもユリアの事を憎からず思っている事は間違いないし、生涯の伴侶として愛する覚悟もある。あるがしかし、エルマーは頭の良い人間なのだ。一時の快楽に身を任せて、身の破滅に飛び込むほど浅はかではない。つまり、見ず知らずの女性の魅力<ユリア、ひいてはバーデン家の圧力なのである。そんなルディの言葉に、ユリアは『ふんっ!』と鼻を一つ鳴らす。
「そんな事分かってるし!! ルドルフ様、エルマー様の事舐めすぎだし!!」
「……へ? わ、分かってる? それじゃ別に心配する必要はないじゃん? エルマー先輩、浮気なんかしないと思うよ?」
「だから! そんな事分かってるし!! エルマー様、ユリアの事超愛してくれているし、大事にしてくれているのは知っているし!! エルマー様、頭も良いし、私を此処で振ったら、バーデン家の関係とか悪くなるのも全部わかってユリアの事を愛してくれているのは知っているし!!」
「……まあ、うん。愛しても大事にしてもいるとは思うよ、うん。っていうかさ? 家の事も含めてって……ユリア先輩、それでも良いの?」
「家の権力も含めて私の魅力だし!! ルドルフ様だってそうじゃん!!」
「……うん、まあ……そうだけど……はっきり言うね、ユリア先輩」
その通りではあるが、『お前だって王子なのが男女交際でプラスに働いているだろう!!』と歯に衣着せぬ態度で言われるとルディだってちょっと傷付くのだ。
「だからエルマー様が浮気をするとは思わないし! でもさ!!」
一息。
「エルマー様、絶対『脇』が甘いじゃん!!」
「……」
どうしよう、否定できない。
「薬とか盛られたら一発じゃん!! エルマー様、そう言う警戒心ゼロだもん!! 監禁とか簡単にされて、既成事実作られる可能性、全然あるじゃん!!」
「……流石、実際にやった人は言う事が違うね」
考える事がレべチである。




