第三百十一話 肉食系女子!
「っていうか、お嬢……なんだよそれ? お嬢の『オトモダチ』って、公爵令嬢と王女様なのか? それ、大丈夫か?」
ジムの言葉にきょとんとした表情を見せるクレア。ジムが何を言っているか分からない、と言わんばかりのその表情にジムも少しだけ悩んだ素振りを見せた後、口を開く。
「あー……まあ、俺もそんなに詳しい訳じゃないけどよ? 最近ホレ、貴族のパーティーとかにちょくちょく参加させて貰っているからよ? お嬢もそりゃ貴族令嬢なんだろうけど……」
「……ああ。流石に『格』が違う、と?」
『貴族』と一括りにしても、男爵と伯爵では明確に『住む世界』が本当に違う。殆どティアワンとティアツーみたいなイメージ、大相撲で言えば平幕と三役以上は殆どリーグが違う、みたいな感じなのである。王族は言わずもがなだ。
「格が違うっていうか……なんだろう? 話が合うのかな、って」
ジムもパーティーでよく見かけてきたのだ。特に大きなパーティーになればなるほど、男爵は男爵同士、みたいな感じで同じティア内で固まっている姿を。否、この言い方は正確ではなく、このパターンは少数派だ。一番多いのは。
「……使いっぱしりみたいな扱い、受けている訳じゃ無いんだよな?」
上の爵位の人間にひたすらゴマをすっているパターンだ。ジムも子供ではない。勿論、家と領地を守るため、内心忸怩たるものを抱えながら弱小貴族の当主たちが、高位貴族のご機嫌伺いをしているのは知っている。
「学園は平等、なんだろう? 高位貴族の子女だからって、下の貴族を使いっぱしりにして良い理屈はないよな?」
繰り言になるが、ジムだって子供じゃないんだ。その学園の理想が建前であることも分かっているし……もっと言えば、それが建前だとして、本当にクレアがその公爵令嬢や姫に良いように使われていたとしても、何も学園内でしてあげられないことも分かっている。
「……イヤになったら直ぐに遊びに来いよ、お嬢。な? リーナも問題ないだろう?」
ジムの視線と言葉に、リーナも力強く頷く。
「勿論よ! あ、そうだ!! ね、お嬢様? もし学園が過ごしにくいなら、ウチから通う事も出来るわよ? 別に学園寮に絶対入らなくちゃいけない訳じゃないんでしょ? ほら! ジムって今は高給取りだから! 家も広いわよ!」
「高給取りってワケじゃないけど……まあ、お嬢の部屋くらいは確保できるさ!」
ジムとリーナの優しい笑顔と言葉に、思わずクレアも破顔する。学園内で、少なくない悪意に晒されてきたクレアにとって、幼いころから知っているこの『兄貴分』と『姉貴分』の優しさは、乾いた心にしみわたる水の様に心地よかった。
「……ありがとうございます。やっぱり二人は私のお兄ちゃんとお姉ちゃんですね。凄く嬉しいです」
「そう? それじゃ、やっぱり一緒に住む? 楽しくなりそうだわ」
にこやかにそういうリーナにクレアはフルフルと首を左右に振る」
「いえいえ~。流石にそれは遠慮しておきますよー。お世話になるのも気が引けますし」
「なんでだよ? 遠慮なんかいらないぞ? そもそもお嬢、俺らがお嬢の世話焼くなんて今更だろうが」
「そうだよ、お嬢様。まあ、ジムの『世話を焼く』って言い方はともかく……お嬢様と一緒に遊んだり御飯食べたり、お昼寝したりしたのは私やジムにとっても良い想い出なんだから!」
「私も正直、『お世話を焼いて貰った』感覚はあります。まあ、年齢的な所もありますが……貴方達二人は本当に優しい方だったので。可愛がっていただいて有難かったですよ? でもまあ、そうじゃなくて」
そう言って少しだけため息と――そして、ニヤニヤとした笑みを浮かべて。
「――流石に新婚さんの所にお邪魔するのはちょっと。私、イヤですしね~。オウマさんに蹴られるの」
リーナの顔が『ポン』と赤く染まった。そんなリーナに、クレアはニコニコ――訂正、ニヤニヤした笑みで言葉を継ぐ。
「そもそも、幾らジムが高給取りと云えど、流石に部屋と部屋の距離が物凄く開いているとかはないでしょ? イヤですよ、私? 夜な夜な声が聞こえてきて寝不足になるの」
「な、何を言っているのよお嬢様!? そ、そんな……ふ、ふしだらな!!」
「あれ~? リーナ、どんな想像していたんですか? 私は、幼馴染の貴方達が積もる話を夜な夜なすると思っていたんですが~?」
クレアの言葉に、再び顔を突っ伏すリーナ。そんなリーナを苦笑で見やり、ジムが口を開いた。
「……お嬢。あんまりリーナをイジメてやるなよ? こいつ、ウブなんだから」
「人妻さんとは思えないくらい、可愛いですよね~、リーナ」
「リーナは何時だって可愛いよ。ま、それはともかく……お嬢、本当に困ったことがあったら俺らを頼れよ?」
「ありがとうございます、ジム。でも、本当に大丈夫ですよ? クララちゃんもクリスちゃんも私に本当に良くしてくれていますし……こないだも、庇って下さいましたし」
「そうか? それなら良いけど……まあ、もしそれ以外でも困った事があれば相談してくれ。力になれるかはわかんねーけど」
兄貴分だしな、と。
「……ありがとうございます」
そんなジムにクレアは笑顔を浮かべて。
「――それじゃ、一個お願いしても良いです? ジム、最近貴族のパーティーに参加しているんですよね? そ、それじゃ……なんか良いカンジの貴族令息、紹介して貰えませんか!?」
「…………俺はそんな肉食系の妹分を持ったつもりは無いんだが?」
鼻息荒くそういうクレアに、ジムはドン引きしながらそう言葉を吐き出した。




