第三百五話 その頃クレアは
ルディとエディとエドガーがルディの自室で話合いという名の大愚痴大会を繰り広げているその頃。
「……あ! ジムぅ~! リーナも!! おーい! こっちだよぉー!!」
王都の目抜き通りで、あちらこちらに視線を飛ばしていたクレアは目当ての人物を見つけてぴょんぴょんとその場で大きく手を振って飛んで見せる。そんなクレアの姿に、名前を呼ばれた二人――レークス領の大工であるジムと、将来の伴侶であるリーナの二人が顔に笑みを浮かべてそちらに向かって小走りに歩みを進める。
「おっす、お嬢! 久しぶり!!」
「お久しぶりね、お嬢様。変わりはないかしら?」
「えへへ~。元気ですよ! ジムとリーナも元気ですか?」
ジムとリーナの優しい笑みに、クレアの顔にも笑顔が浮かぶ。と、そんなクレアの顔から笑みが消えて、まじまじとジムを見つめる。そんなクレアの表情の変化に訝し気――ではなく、少しだけ照れくさそうにジムが頭をポリポリと掻く。
「……な、なんだよ、お嬢。そんな顔して」
「いえ……うーん……」
顎に手を置いてジムの周りをくるくると回りながら、『へー』と『ほー』とか一頻り言った後。
「……格好いいですね~、ジム」
ジムの――第二近衛騎士団の第一種正式礼装と呼ばれる騎士服に身を包んだジムにそう言って見せる。そんなクレアの言葉に、先程よりも照れくさそうな表情を浮かべて視線を逸らすジム。
「……揶揄うなよ、お嬢」
「いえいえ! 揶揄ってませんよ!! 良く似合っていますよ!!」
馬子にも衣裳、という訳ではない。これでジムが下っ腹がでた様な中年体型ならこの騎士の礼服もきっと似合わなかったであろうが、ジムは『天然物の美少女』であるクレアを産み出したレークス領出身で――まあ、朝は日が出るくらいに起きて、夜は日が沈んだらお休み、野菜中心の健康食を食して来た人間なのだ。そもそも大工自体が体力勝負な所もあるし、運動が得意なジムは体のラインが綺麗だ。
「レークス領にいた時の平民服も悪くは無かったですが……第二近衛騎士団の礼装となるとやっぱり格が違いますね!! 格好いいですよ、ジム! ねえ、リーナ?」
ジムを褒めちぎったクレアがその視線をリーナに向ける。と、リーナが少しだけ不満そうに頬を膨らませて見せる。
「……あれ? リーナはそう思わないんですか?」
リーナのその表情に首を傾げるクレア。そんなクレアに、リーナは少しだけ小さなため息を吐き、ちょいちょいとクレアを呼び寄せる。幾ら貧乏男爵と云えども貴族令嬢であるクレアに対して、ある意味では不敬極まりない態度をとるリーナだが、流石は幼馴染。クレアもなんの疑問もなくリーナの側に寄る。
「……どうしたんですか、リーナ?」
「……ねえ、お嬢様? 今のジムって……その……」
「格好いいですよ?」
「……」
クレアの言葉に、リーナが少しだけ言い淀み、それから息を吐きだして。
「――恰好良すぎるのよ」
「……ご馳走様です。でもそれ、私じゃなくてジムに言ってあげたら良いんじゃないですか?」
盛大な惚気に、半眼になったクレアがそう返す。
「……もう言ったわよ。っていうか、私がレークス領から出てくるときね、ジムが迎えに来てくれたのよ。あの服で……地元に錦を飾るって意味もあって」
「まあ、史上初でしょうしね。近衛騎士なんて」
レークス領から、たとえ第二と云えど『近衛騎士』に選ばれた人間は歴史上皆無である。そもそも貴族中心の近衛騎士の中では領主が男爵のレークス領では門前払いなのだ。
「それでまあ……今のジムって、ちょっと見ないくらい格好いいじゃない? 最初はそりゃ……ぽ。ぽーっとなったわよ? 私の将来のだ、旦那様はこんなに格好いいんだ! って……い、いや、別にジムなら恰好悪くても問題ないんだけど!」
「分かってますよ。何年、ジムとリーナを見て来たと思っているんですか」
リーナの言葉にクレアがうんうんと後方腕組み保護者面で頷いて見せる。このおぼこい少女が小さい頃からジムを一途に愛していたのを知っていたのである。なんなら、ジムが無職で金をせびる様なダメ男でも、甲斐甲斐しく世話をするくらいにはジムにぞっこんなのだ。
「……こういう性格でしたね、リーナって」
ジムにぞっこん過ぎて、ちょっとだけ過保護というか、なんというか……端的に言ってちょっと『ヤン』な部分のあるリーナに少しだけ引いた視線を向ける。そんなクレアの視線に気付かないのか、リーナはぐっと拳を握って。
「しかもジム、第二近衛騎士団で結構な出世頭らしくて……その上、男前なんだよっ! もう、私、不安で不安で……ど、どうしよう、お嬢様!? このままジムが王都で大人気になったら!? や、やっぱりジムは一生家に閉じ込めて、私がずっとお世話しようかな!? そっちの方が良いと思わない、お嬢様!?」
「……思いませんね。っていうか、リーナってちょっとクララちゃんとクリスちゃんに似ていますよね? その……想いが重い所とか」
私の友人、こんなんばっかかよ! とクレアは思ったとか思ってないとか。




