第三百六話 チャラい系男子……?
闇落ち仕掛けたリーナに、『まあまあ。立ち話もなんですから』と王都で評判の喫茶店に誘ったクレア。田舎から出て来た幼馴染、しかも自身の兄姉の様な二人だ。積もる話もあるというものである。
「……どうぞ、お嬢」
喫茶店に入り、席に案内されるなり上座の椅子を引いてクレアに椅子を薦めるジム。そんなジムに、クレアがびっくりした様な顔を浮かべて見せる。
「ど、どうしたんですか、ジム? 急にそんな事をして……何か悪いものでも食べましたか?」
「……自分でも似合わない事をしてるのは分かってるつうの」
そんなクレアの反応に、苦虫を嚙み潰した様な顔を浮かべて見せるジム。
「……俺、一応第二近衛騎士団員だしな。しかもこの間、なんか変な黒い水を見つけた功績とかなんとかで……小隊長に出世したんだ」
「近衛騎士団の小隊長って……す、凄いじゃないですか!!」
近衛騎士になるだけで一族総出でお祝いするくらいの凄い事なのだ。そこの小隊長なんて、田舎育ちの平民からすれば立身出世の権化みたいなもんである。驚いた表情を浮かべながらも本当に嬉しそうにぱちぱちと手を叩いて見せるクレアに、ジムも苦虫を噛み潰した顔からはにかんだ笑顔を浮かべて見せる。
「……あんがと、お嬢。でもホラ、正確には近衛じゃなくて『第二』だからな。給料自体は近衛騎士と一緒くらいは貰っているけど……格式じゃ明らかに劣るんだよ」
全員貴族の近衛と、『形ばかりの』近衛であり、平民どころか、食い詰めものみたいなジムまで入団させた第二近衛騎士団。そら、格の差では一枚や二枚どころではないほど、本家近衛の方が格上である。
「むぅ……それでも、国軍の小隊長と言えば凄いと思いますけど……」
「まあ、出来たばっかりの軍だしな。上の方は殆ど正規の近衛騎士団からの派遣というか出向だけど、生え抜きだって少しくらいは出世させておかないとダメだろう?」
「ダメなんですか?」
「どんだけ頑張っても出世できないとなると、モチベーションが下がるからな」
どこの世界だって、天下りばっかりがトップを務める組織に属すると生え抜きからは文句の一つも出るモノである。流石にトップはともかく、現場の責任者くらいなら生え抜きで、ある程度功績があれば出世させるのが、良い組織運営のコツだったりする。要は、適度なガス抜きだ。
「まあ、お陰様でリーナをこっちに呼んでも暮らせるくらいの稼ぎはあげれる様になったけどな」
そう言いながらクレアを椅子に座らせ、今度はリーナの為に椅子を引いて見せるジム。そんなジムに、リーナは頬を赤く染めながら――それでも、嬉しそうな満面の笑みでリーナは椅子に腰かける。何歳になっても、という程年を取っている訳ではない、むしろ若いリーナだが、『お姫様扱い』は気分が良くなるものだ。特に、田舎娘だったリーナ的にはグッドなポイントだったりする。
「そのせい……と言ったらアレだけど、小隊長としての『お付き合い』も増えてな。貴族の方々と接する機会も増えたから、最低限のマナーというか……そういう勉強もしているんだよ」
そう言って自分の椅子を引いて腰を掛けると小さくため息を一つ。
「……文句言うのも違う様な気もしないでもないけどよ? 俺だぞ、お嬢? 勉強とか好きだと思うか?」
「嫌いでしょうね~。っていうか、ジムが勉強している姿なんて……まあ、ちょっとくらいしか見た事ないですし」
「私塾でちょこっと教えて貰っていたくらいじゃない? ジム、授業はサボってはないけど……成績良い訳じゃなかったもんね?」
ラージナル王国には体系的な学校システムはない。各地の領地で、個別に私塾――まあ、寺子屋みたいなところが開かれているのが実態だ。なので、中世ヨーロッパ風世界の割に識字率は高かったりする。これはラージナル王国が優れている訳ではなく……単純に、わく王がシナリオの都合、というか、識字率云々を考えるのが面倒くさくてそうしただけだったりする。クソゲーなのだ、基本。
「だからテーブルマナーも未だに覚えられねーよ。ある程度恥かかないくらいは出来る様には成って来たけど……流石に本物のお貴族様には敵わねーよ」
そう言って軽く手を挙げて店員を呼んでメニューを受け取ると、レディファーストと言わんばかりにリーナとクレアに見えやすいように広げて見せるジム。
「好きな物、頼めよ。此処は俺が持つから」
「いいぃ!? 良いですよ、ジム!! 私から誘ったんだし、此処は私が!!」
「この中で働いているのは俺だけだし……そもそも、だな?」
そう言ってウインクを一つ。
「可愛い妹分と、ホレた女には、格好つけたいものなんだよ?」
「……」
「……リーナ」
「……なに、お嬢様?」
「じ、ジムがチャラい系になってしまいました!!」
「でしょう!? 家でもこのかんじなのよ、ジム!! 絶対どっかの貴族令嬢にもやっているわよ!! そうして浮気とかするんだ!! ああ……やっぱりどっかに閉じ込めないと!!」
「……酷くね、お前ら? 後、リーナはちょっと怖い」
幼馴染のあまりの変わりように騒然とする二人に、ジムは肩を落としてため息を吐いた。




