第三百四話 つい、口が滑って……
エドガーとエディのジト目を受けて『ははは』と乾いた笑いを見せた後、ルディはコホンと咳払いを一つ。
「……それで? エディにも沢山釣書来ているのは知っているけど……エドガーにもやっぱり来ているの?」
ルディの言葉に、エドガーはため息を吐きながら紅茶を口に運び、小さく頷いて見せる。
「クリスとルディが婚約しちゃったでしょ? 大陸のパワーバランスが壊れる可能性があるから、それこそ大陸中の各国から『お問い合わせ』が殺到しているよ」
「……カスタマーセンターが大変だ」
「窓口は外交部だからね。あそこなんかはてんやわんやじゃないかな? ウチの外務卿も『嬉しい悲鳴』って言ってるから悪い話じゃ無いんだろうけど……」
もう一度、大きなため息。
「……流石に生まれたばかりの姫君の釣書を送られてきても……」
「……」
「……いや、王族の結婚だからさ? ある程度利害関係が絡むのは分かるよ? 分かるけど……ねぇ?」
視線をエディに向けるエドガー。そんなエドガーの視線を受けて、エディもこくりと頷いて見せる。
「私の所も似た様なものだ。といっても、私は王になることは無いからエドガーとは全く逆というか……まあ、なんだ。行き遅れ、というと口が悪いのだが……」
モゴモゴと口を動かしながら、気まずそうに。
「……流石に四十を過ぎた姫君は……厳しいものがあるというか」
「……大変だね、二人とも」
心からの憐憫の情を込める言葉を送るルディ。心底同情しての言葉ではある。言葉ではあるのだが……なんというか、流石に自身は自分が愛する女性、しかも相手からも全身全霊の愛情を貰いつつ、しかも別嬪さんの奥さん三人を貰う事になっているルディのその言葉は、現在進行形で不幸な二人にはまあ、刺さる。
「……ルディは良いよね」
「兄上ばかり、ズルいです」
「……なんかごめん」
ジト目を継続する二人に視線を下げて、ついでに頭を下げる。そんなルディをジト目で見つめた後、エドガーは大きく息を吐く。
「……っていうか、エディはともかく……ボクなんか完全にとばっちりだよね、これ? いや、まあ昔からクリスはルディの事大好きだったし、双子の妹には幸せになって欲しいから反対とかしないよ? 反対とかしないけど……なんか理不尽な気がするんですけど?」
そんなエドガーの言葉に、『心外だ』と言わんばかりの表情を浮かべてエディがエドガーに向かって口を開く。
「おい、エドガー。私はともかくとはどういう意味だ。私だって完全に被害者だろう?」
「でもエディ、結局は婚約破棄なんかするからこんな事になってるんじゃん。そもそもさ? エディが我儘言わずにクラウディアと結婚してラージナル王国の元首になっていたら、こんな事態にはなってなかったんじゃない? エディの不幸はエディのせいじゃん」
エドガーの視線と言葉に、エディは少しだけきょとんとした顔をして。
「なにを言っているんだ、エドガー? クラウディアと結婚する? そんなの、世界で一番不幸な事態じゃないか。それに比べれば幸せだぞ、私は」
「「「…………」」」
エドガー、ルディ、そしてメアリ。三人とも言葉がない。
「……そうなの?」
「当たり前だろう。だってクラウディアだぞ? あんな人の皮を被った悪魔、絶対に嫁になんか貰いたく無いに決まってるだろう? そんな事態に比べれば幸せに決まっているだろう」
「ルディの前でよくもまあ……っていうか、それならいいじゃん。エディ、この間よりは幸せって事なんでしょ? 文句を言うのは違わない?」
「それはそれ、これはこれだろう? クラウディアと生涯を共にするよりはマシなだけで、四十の姫君と結婚するのは流石に……」
最悪ではないが、それでも最高とは程遠い。ビリじゃなかった、ブービーだから良いじゃん、とはならないのである。出来ればエディだって幸せな結婚生活を送りたいのだ。
「それを望むのは贅沢と切り捨てられるほど悪い事か? まあ、婚約破棄は悪い事だろうが……エドガーだって知ってるだろう? クラウディアの『悪行』の数々を」
「…………まあ。大きい声では言えないけど」
「正直、婚約破棄くらいは許されるんじゃないかって思うんだよ、私。普通の令嬢相手には流石に失礼だろうけど、クラウディア相手なら情状酌量の余地があるどころか、でるところに出たら勝てるんじゃないと思うんだ」
エディの言葉に、エドガーも大きく頷いて見せる。ルディの事が大好きだったディアの乙女心を斟酌したとしても、明らかにやり過ぎであるからだ。やり過ぎであるんだけど。
「……メアリさんに感謝しなよ?」
「なにを?」
「なにをって……君のいう所の『人の皮を被った悪魔』は悪魔だけあってルディの前では擬態完璧だったじゃん。ほら」
そう言って顎でメアリの方を差して。
「ルディにバレてたら、エディ、本当にクラウディアに地獄に送られてたんじゃない? ルディの耳を塞いでくれていたメアリさんに感謝しなよ」
慌てて視線を向けた先では、ルディの両耳を後ろから両手で押さえてため息をつくメアリの姿が映った。




