第三百二話 色々と台無しだよ!!
「め、メアリ? メアリさん? 何言ってるの、貴方!?」
メアリの急な爆弾発言にルディは目を白黒させる。この清楚系メイドからの意外――という程意外ではないものの、それでも出来ればあんまり聞きたくない言葉に思わず声を荒げて制しようとして。
「「――メアリさん、その話詳しく!!」」
先ほどまで喧々諤々の議論をしていたクリスティーナとディアがタッグを組んでメアリを制しようとしたルディを制する。喧嘩をしていたとは思えない程の息の合ったカットに思わずルディも口籠る。
「簡単な話ですよ。正妃とはこの国のトップに立つ女性です。その女性が、国王陛下の寵愛をいの一番に賜るのは、これはもう当然の話でしょう?」
そんなルディに視線をちらっとやった後、メアリは淡々と口を開く。
「そもそも……クリスティーナ様? クリスティーナ様はスモロア王国の姫殿下に御座います。そのお方が正妃でない、正妃は自国の公爵令嬢というのは……そうですね、ラージナルがスモロア王国を下に見ている、端的に言うと『舐めている』と思われる可能性があります」
「そ、それは……ですが、スモロアも承知しておりますよ? ラージナルの次期国王はメルウェーズの姫が嫁ぐ事はもう各国の『常識』です。その常識に割り込むと、スモロアが非常識と罵られるかも知れません!! スモロアは納得しますよ!!」
そこまで喋り、クリスティーナは顔を赤く染めて視線をちらちらとルディに送る。
「……ま、まあ? 国家の一大事というのであれば、非常識の誹りを受けても、こう……わ、私が正妃になってルディの寵愛を一番に受けるのもやぶさかではありませんが?」
クリスティーナ、ぶれない。いや、正妃問題に関してはぶれぶれなのだが、こと『ルディの一番』に対しては真摯に向き合っているのだ。良いか悪いかは別にして。
「お、お待ちください!! 今のクリスの話で目が覚めました!! そ、そうですよね? ルディの――じゃなかった、次期ラージナル国王の正妃になるのはメルウェーズ家の第一子である私ですものね!! それは大陸中の常識ですものね!! クリスのご実家であるスモロア王家を非常識の恥知らずにする訳には行きませんし! 此処は私が涙を呑んで正妃になって……る、ルディの寵愛を一身に……ふ、ふへへへ~」
そしてディアもぶれない。こちらも『正妃じゃなくても妃にはなるんだから問題ねーんだよ!』と言っていた人物とは思えない。手首にはきっと、ドリルが実装されてくるくる回っているのだろう。
「い、今更何を言っているのですか、クララ! ルディの正妃は私! 私が正妃になりますから!!」
「い、いいえ、クリス! 流石にクリスのご実家に迷惑を掛けるのは忍びないので!! わ、私が正妃になりますわ!!」
「なんですって!」
「こちらのセリフです!!」
さっきとは別の意味で喧嘩が勃発した二人にルディが疲れた様にため息を吐く。そんなルディの肩にポンっと手を置いてメアリがにっこりと微笑む。
「……いい仕事をした、と自負しておりますが?」
「……うん。そうだね。確かにいい仕事をしたと思うよ。僕の尊厳と、新たな火種を生んだ事に目を瞑れば」
「ですが、『なりたくない』と言っている人間を無理やりならせるよりも良くありませんか? なりたい人間の内のどちらかを選ぶのですから」
「……なりたい人間に申し訳ない、という考えは?」
「ありませんよ。だってお二人とも欲に塗れた発言ではないですか。どちらが落選しても同情の余地はありませんし……そもそもルディ様? 私も含めて、『好きな人に選ばれている』と、『これからも共に歩んでいける』というのは大変幸せな事なのですよ?」
「……」
「もしルディ様が平民であれば、妻を三人娶る事は難しかったでしょう。まあ、ルディ様の才覚であれば平民でも一代で財をなしていたかも知れませんが……それでも精々が愛人や妾の類です。それが駄目とは言いませんが……『妃』として、正式な立場で貴方様に侍る事が出来るのは、無上の幸福に御座いますよ」
そう言って嫋やかに笑んで見せるメアリ。そんなメアリに一瞬息を呑み、その息をルディはゆるゆると吐き出した。
「……そっか。ありがとうメアリ」
「どういたしまして」
「ちなみに……メアリはどうなの? 正妃になりたい、とか……」
「ルディ様の前でこの様な事を申し上げるのはアレですが……身分差がありますし」
「……」
「ああ、その様な顔を為されないでください。私自身、そこまで気にしている訳では御座いません。確かに……ルディ様と『初めて』を共有するのは素晴らしい事だと思います。これは何も下世話な話ではなく……そうですね」
私は、貴方の『初めて』になりたいのですよ、と。
「私は――というか、クリスティーナ様もクラウディア様も貴方の『最後の女』にはなれないでしょう。まあ、物理的な最後の瞬間というものはあるでしょうが、それでも精神的には私たちは常にルディ様の御心の中にいると信じています。女として生まれた以上、愛した男の最後の愛する女でありたいとは思いますが……それは難しいですしね」
少しだけ苦笑を浮かべて見せるメアリに、ルディは胸を締め付けられる思いで頭を下げる。
「……ごめん」
「頭を上げて下さい、ルディ様。先程も申した通り、私は幸せですので」
苦笑を美しい笑みに変えてそう言って。
「――まあ、初々しいルディ様と最初の夜、というのも魅力的ですが……経験を積んだルディ様に男性らしくリード頂くのもアリと言えばアリですので。残り物には福がある、と言いますし」
「……色々台無しだよ!!」
結局、すったもんだの挙句クリスティーナの正妃で決着が付きました。




