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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百九十四話 濁り切った眼


「どういう意味だ、アベル!! なんでお前んとこのバカ次男坊にフラれたウチの可愛い娘が、おまえんとこの長男坊の側室にならなきゃいけねーんだ!! ことと次第によっちゃマジで反乱起こすからな、この野郎がっ!!」


 激高したまま肩に置いた手で胸倉を掴み上げるアルベルト。そんなアルベルトの怒りと態度に、アベルも慌てた様にわちゃわちゃと両手を振って見せる。


「ちょ、ま、待って! 待ってくれ、アルベルト!! は、はぁ? ルディがそんな事を言ったのか!?」


「人の話をちゃんと聞け、このクソ親父!! ルドルフ殿下じゃねぇ! ウチの可愛いクラウディアが言ったんだ!! おい、さっさと吐け!! どんな手を使ってウチの娘を誑かした!! 冗談抜きでお前、死にてぇらしいな!!」


 完全にキマった目でアベルを睨みつけるアルベルトに、アベルは訳も分からず視線をブルーノに向ける。その視線を受けたブルーノははぁと小さくため息を吐いてアルベルトの肩に手を置いた。


「……落ち着け、アルベルト」


「落ち着けだぁ!? これが落ち着けるか、ブルーノ!! 本気で反乱起こすぞ、コラぁ!」


「……そのスジの人間か、お前は。バーデン家じゃないんだから、もうちょっと冷静に話し合おう。俺たちもその話は今、初めて聞いた。本当にクラウディア嬢がそう言ったのか?」


 バーデン家、酷い風評被害である。が、効果は覿面だったのか、アルベルトの鼻息が少しだ和らぐ。まあ、肩で息はしているのだが。


「……本当か?」


「あ、ああ……ケホケホ。初めて聞いた。その話、本当にクラウディア嬢が言ったのか?」


 胸倉を離された事により新鮮な空気を吸い込んだアベルが、ケホケホと咳き込みながらそう返す。その言葉にアルベルトは若干いぶかしんだ視線のまま、それでも小さく頷いた。


「……ああ。昨日の晩の食事の時だ。『お父様、お話があります』と……やけに潤んだ目で!! 『私、ルディのお嫁さんになります』って!! 泣きそうだったんだぞ!! ウチの可愛いクラウディアが!! どれだけ辛かったのか……!」


「「……」」


 なんとも言えない表情で顔を見合わせるアベルとブルーノ。その後、『ちょっとタイム』とアルベルトに断って二人で頭を突き合わせる。


「……なあ」


「……ああ、アレだ。感極まったというやつだろうな」


「……なんだよ、タイムって」


 ヒソヒソ話を始める二人にいぶかし気な視線を向けるアルベルト。そんなアルベルトに愛想笑いを浮かべながら、ブルーノとアベルは視線をアルベルトに戻す。


「いや、なんでもない。それで? クラウディア嬢はその後言ったのか? クリスティーナ姫もルディに嫁ぐ、と」


 ブルーノの言葉に、アルベルトが鬼もかくやと言わんばかりの表情でブルーノを睨む。


「そうだ!! 『なお、クリスティーナ様、それに男爵家のメアリ様もルディに嫁ぐ事になりますので。メアリ様はともかく……クリスティーナ様は他国とは言え王族、流石に正室の座は譲らなければならないと思います』って……悲しそうな目で!!」


「「……そうかな~……」」


「ああん!? なんか言ったか、二人とも!!」


 アベルもブルーノもクラウディアの事は幼少期から見知っているのだ。良くも悪くもルディの『啓蒙』を受けて来た彼女だ。


「……正室とか側室とか気にしないだろう、クラウディア嬢」


「……だな。意外に乙女だし……昔から好きだったルドルフ殿下に嫁げるだけで感無量って感じだろう?」


「そんなところだろう」


「だから! さっきから何を二人で話してやがるっ!!」


 相変わらずのヒソヒソ話に移行した二人にアルベルトの怒りも頂点に。流石に不味いと思ったか、ブルーノが少しだけ愛想笑いを浮かべてアルベルトに話掛けた。


「ま、まあ落ち着け、アルベルト。そうだよな? お前も流石に、ルドルフ殿下の側室にクラウディア嬢を嫁がせるのは流石に抵抗があるよな? 本来であれば王妃だったのに、側妃では――」


「は? 何を言っている、ブルーノ。そんな事は毛頭思っていない」


「――……はい?」


 アルベルトの言葉に、きょとんとした目を向けるブルーノ。そんなブルーノに、アルベルトは大きくため息。


「……あのな? はっきり言っておくが、今更メルウェーズ家に『王妃を出した』なんて称号はいらないんだよ。既に国一番の大貴族サマだぞ、ウチは。今更王妃がどうのこうのって話にはならないだろうが」


「……まあな」


「流石に、他所の貴族……それこそ、伯爵家や子爵家の令嬢が正室で、クラウディアが側室だったら収まりは悪い。その娘が宮廷貴族の出身だったらどう思う? 考え得る限り最低だぞ? 諸侯貴族の怒りは抑えがきかなくなる。だが、クリスティーナ姫殿下なら話が別だ。ラージナル貴族の間でも、流石に姫が嫁ぐとなれば側妃でも納得はするだろうし……最初の目的である、王家と諸侯貴族の宥和にもなるだろう」


「……良い事じゃないか」


 そう。ブルーノの言う通り、良い事だ。良い事の筈なのに、そんな発言をしたブルーノに、アルベルトは親の仇を見る様な目で睨みつけて。




「――何が良い事だ!! 良いか!? ウチのクラウディアは、エドワード殿下に婚約破棄されて、そのすぐ後に兄であるルドルフ殿下に嫁ぐと言っているんだぞ!? なぜ、あの子ばかり不幸にならなければいけないのだ!!」




 睨みつけた目は、どうやら相当曇っているようである。



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