第四十一話 邪なる者
翌日の正午、カラドボルグを含む俺たち四人は食堂の隅に集まっていた。
先日サタナの口から聞かされた、にわかには信じがたい現象。メアリさんはそれについて一つの結論を導き出したという。
「もちろん、私の推測が確実に正しいとは限りませんが」
そう前置きして、メアリさんは語り始めた。何故リストアップされたダンジョンにお宝が無かったのかを。
「通常、財宝の間へと訪れる為には、そのダンジョンに存在するボスモンスターを倒さねばなりません。それはご存じですね?」
無論である。
むしろ、それを知らない冒険者はこの世に存在しないと言ってもいいだろう。
「なので、ボスモンスターを倒さずにお宝のみを持ち帰ることは出来ません」
「【防魔の約定】というヤツじゃな」
その通り。
【防魔約定】とは、財宝の間へと続く扉に付与された魔法の一つである。
この約定がある限り、いかなる手段を用いても財宝の間への扉を破壊することは出来ない。
また、なんらかの方法で掻い潜ることも出来ないのだ。透過スキルを用いても、スキルそのものが解除されてしまうのだ。さらには――。
「約定の力は絶大。妾が全身全霊を込めた一撃を放ったとしても、その扉を破壊することは叶わぬ。他の魔王も同様よ。どのような技を用いようが約定を破ることは不可能なのじゃ」
故に、財宝の間へと行くにはボスモンスターを撃破するしかないのだ。そのはずなのだが……。
「妾が攻略したダンジョン、その全てに、しかとボスモンスターが存在しておった」
「つまり、何者かがなんらかの手段で約定を破り、財宝のみを持ち帰ったと?」
俺が問うと、メアリさんはあり得ませんと断言した。
続いてサタナ、さらにはカラドボルグまで。
「レイン様! 例えば、我の力を100%解放したとしても約定は破れないんです! 約定の力っていうのはそれくらいに凄いんだからっ!」
となるとますます謎が深まるばかりだな。
【防魔の約定】を侵さずに財宝のみを持ち帰る、そんな手段が存在するのか?
「レインさんの考えていることは分かりますよ。私も、最初は考えすぎて知恵熱が出そうになりましたから。でも、この状況を再現するたった一つの方法を思い付いたんです」
「この状況を再現? それはどんな?」
「つまりじゃな」
と言いかけたサタナを制止しメアリさんが続けた。正しい判断だ。サタナは色々と勿体付けて話しそうだし、そうなれば昼休みが終わってしまうかもしれないから。
「つまり、何者かはボスモンスターを撃破したんです。そしてそのまま財宝の間へと立ち入り、お宝を持ち帰ったのです」
「いや、それはおかしいだろう」
そう応じた俺の顔を、ニヤニヤとした表情でサタナが眺めていた。くっ、性格の悪い奴め。
「レインさんの言う通り、確かにおかしいです。一度撃破されたボスモンスターは二度と復活しない。それがダンジョンです。しかしそれは、『自然的には』というだけの話なんですよ」
「!!」
なるほど。
ここに来てようやく俺にも話が見えてきた。つまりだ。
「その何者かはボスモンスターを復活させ、再び財宝の間への扉を封鎖した?」
パチパチ、とサタナが拍手する。
どうやら正解らしいが、あまり嬉しくないのは何故だろう。
「えー? でも、なんでそんなことする必要があるの? 意味分かんないんですケドォ」
カラドボルグが口にした疑問は真っ当なものだ。一度撃破したボスモンスターを復活して、もう一度財宝の間の扉を封鎖する。そんな面倒なこと、なんのために?
「悟られぬため、というのが答えじゃろうな」
サタナは腕を組みながら真剣な面持ちで応じた。
メアリさんもそれに追従する。
「悟られぬためって、なにを?」
「思い返してもみて下さい。私が友人に頼み込んでリストアップしてもらったダンジョンは、全て古の時代を彷彿とさせるような命名がなされていたのですよ? つまりその何者かは……私たちと同じか、それに近しい目的をもって活動しているんです」
「ハァ!? だからってなんで隠す必要があるわけェ?」
「……良からぬことを企てている。古の何かを使って。そういうことだな?」
問いかけながら、俺はノエルの言葉を思い出していた。
――呪いの本なんかじゃないわ。でも、何が書かれているかは教えられない。あんなもの、誰も知らない方が良いのよ――
「それを裏付ける物的証拠がこれです」
そう言って、メアリさんは例の書類を取り出した。
サタナに皮肉めいて見せつけた、あの鈍器のような書類の山だ。
「誰かによってクリアされたダンジョンには、「☆マーク」が付けられます。これは、冒険者の方々に無駄な労力を割かせない為の配慮です。ここにはお宝はありません、それでも行くというのならご自由に。そういうマークなんです」
だが、リストアップしてもらった書類に、☆マークは付いていなかったという。
「これが意味することは一つ。邪な心を持つ何者かと繋がっている人物が、冒険者ギルド内部に潜んでいるという事です……ッ!」
メアリさんの言葉には迫力と重みが込められていた。
俺は、背筋がゾクリと逆立つのを感じた。




