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この手をつかみたくて3  作者: えみっち
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佐渡が退職して2週間が経った。

職場復帰初日、噂などある程度の覚悟をして出社した美鈴だったがフロアはいつも通り美鈴を迎えてくれた。体調を心配して声をかけてくれる人たちも美鈴の様子を見て安心して仕事にと戻っていく。これもきっと高坂と佐藤のお陰であった。その2人の思いに応えるように美鈴も一層引き締めて仕事に励んだ。

そしてあの事件から変わった事と言えば、陸が美鈴のマンションに引っ越してきたことだった。お金を貯めるにも防犯にも一石二鳥じゃんと言ってやって来たのだ。


そんなある日、陸は久しぶりに自宅に戻って兼松と会っていた。


「どう?兄貴たちの方は順調に進んでいる?」


ある程度は夜理からは聞いていたが尋ねてみる。


「はい。順調に進んでいます」

「もう夜理は家に来てるんだろう。今日はいないみたいだけど」

「ええ。今日は稽古ごとに出掛けて留守にしています。確か夕方には戻ると聞いてますが用事でしたか?」


兼松は陸の顔を見た。陸は少し首を振って頷いただけであった。


「私は事務所の方に戻らないといけないのですがどうしたんです?何か問題が起きたんですか?」


陸はソファにあぐらをかくと首を振る。


「別に起きてないよ。美鈴も元気だし」


兼松は陸の顔を見て少し表情を和らげた。


「それなら良いのですが。海人さんも夜理さんも美鈴さんの事を心配してますから」


兼松の言葉に陸の顔が膨れる。


「何か俺がいつも泣かしているみたいに思われているよな。確かに美鈴はすぐ泣くけどさ」

「やっぱり泣かしているんですね」

「やっぱりって何だよ。泣かしてないよ。何で皆んな美鈴の味方なんだよ。全部俺が悪いみたいじゃんか」

「それは日頃の行いのせいですね」

「それ、もういい」

「では改めてどうしたんです?」


いつもなら前置きもなく聞かなくても自分から言いたい事を言う陸に不思議そうに尋ねた。


「んー〜とさ。直ぐにではないんだけど俺たち神奈川に引っ越そうと思ってるんだ」


兼松は珍しく驚いた表情をした。しかし、途中で口を挟むような事はしない。


「住む場所はあるんだけど仕事の方を探し中なんだよ。店が休みの時に見て回ってるんだけど土地勘ないし正直参ってる。確か兼松の地元がこっちの方だって聞いた覚えがあったから教えてもらおうと思ってさ。地元のヤクザ絡みの店は遠慮したいし巻き込むなんて事はしたくないからさ」


兼松は頷いた。


「わかりました。少し時間をもらえれば一度帰って見てきます。でも私が街を出てから10年以上経ってますからあまり期待はしないで下さい」

「分かった。悪いな…」

「いいえ」


そこまで言ってから陸はふと尋ねてみた。


「そういえば知っているかな。山の手の高台に平屋の家があって森橋ってばーちゃんが1人で住んでたの」

「…森橋…ですか?」

「そう。何かすごく優しい人だったみたいなんだけど一昨年病気で死んだらしいんだけどさ」


兼松は黙って考え込んでいるようであった。


「その方にはお子さんが、娘がいませんでしたか?」

「いや…そこまでは知らないけど知ってる人だった?」

「あ…いえ。その方は知りません。でも、どうしたんですか?」

「あ、いや。ちょっと聞いただけ」


陸の言葉に兼松は何か聞きたげな雰囲気を一瞬見せたがすぐに隠してしまった。



マンションに戻った陸は、リビングに置いてあるメモ用のボードから大場植木店の名刺を手に取った。

電話番号は自宅の番号で出たのは大場の母親であった。大場は仕事で留守であったが母親から森橋の事を聞くことができた。ほとんどは大場から聞いた繰り返しであったが母親は森橋の子供のことを知っていた。


『遅くにできたお子さんでね、それも女の子だったからご夫婦でとても可愛がっていらしたのよ。でもね、高校を卒業して暫くしたら出て行ってしまったらしいの』

「何かあったんですか?」


陸の問いかけに大場の母親は口籠もっていたが本来の話好きが優ったと見えて続きを話してくれた。


『実は男の人と駆け落ちしたって噂なのよ。それも相手の男性がヤクザだったらしくて』

「ヤクザ…」


陸の脳裏には家で会った兼松の府に落ちない姿が思い出された。


『そりゃあ親だったら娘の幸せを考えて反対するわよね』

「その後、何も連絡はなかったんですか?」

『さあ?娘さんから連絡があって病気のお母さんが1人で居るって分かったらほっとかないと思うけどね…

どうなのかしら?』

「じゃあ、その娘って人は今は幾つぐらいなんですか?」

『そうね…40過ぎてからの子って聞いた覚えがあるから、30過ぎているのかしら?』

「そっか…分かりました。ありがとうございます」


お礼を言って切ろうとしたのだが大場の母親が止めた。


『ちょっといいかしら?』

「何ですか?」


思わず怪訝そうな声で聞き返してしまったが大場の母親は気にした様子はなかった。


『今あなたの所空き家になっているでしょう。誰かに貸すとか考えているの?』

「…いや、もう少ししたら引越す予定なんですけど誰か借りたい人がいるんですか?」

『あら!そうなの? じゃあ良かったわ!』


突然の明るい大きな声に携帯を耳から離した陸は思わず切りそうになった。


『いえね、ずっと空き家になってたから物騒でしょう。それじゃなくてもそんな家が増えてきてるし年寄りばかりだからねえ。若い人が入って来てくれたらいいと思っていたのよ。そうなのね、良かったわ。ごめんなさいね、余計な話をしちゃって』

「あ…いえ」


大場の母親との電話を終えて陸は大きく息を吐いた。

どうも大場の母親のような話好きは苦手であった。しかし聞きたい話が聞けたのは運がよかったかもしれない。事実を兼松に聞いてみたかったがあの時の様子からして話してはくれそうにない。


「そもそも自分の事話してんの聞いたことないからなあ」


眉間にシワを寄せながら陸は腕をくんだ。




「だからって私が聞けるわけないよ」


仕事を終えて帰ってきた美鈴は陸が作ってくれたパスタの食べる手を止めた。

向いに座っている陸はすでに食べ終えており椅子の上であぐらをかきながら勝手に話を進める。

話しを聞き出すのは諦めようかと思ったのだが、途中まで知ったからにはどうにも気になり美鈴に頼んでいたのだ。


「午前中は家にいるらしいから、夜理と会った後に送ってもらってその時に聞き出せないかな」


陸はすでに夜理にも連絡を入れて兼松の予定も聞き出していた。

あまり乗り気ではない美鈴はため息をついた。


「夜理ちゃんに会いに行くのはいいけど兼松さんに会えなかったり聞けなくても文句なしだよ」

「オッケー」


陸が嬉しそうに頷くのを見てふたたびため息をついてしまった。




美鈴が高野家に着いたのは10時半頃であった。

入り口から案内されて玄関に入ると着物姿の夜理が出迎えてくれた。髪もまとめて結っておりまるで若女将のようであった。


「夜理ちゃん素敵だね!でももしかしたら出かける用事があったの?」


夜理は美鈴から受け取ったお土産のケーキの箱を持ちながら笑う。


「出かけるのは12時頃だから大丈夫。その時に兼松さんも出かけるから車で送ってもらえるように頼んでおいた。だからその時がチャンスかな」


夜理の言葉に美鈴は申し訳なく思う。すっかり協力体制が出来上がっている。


「ごめんね。義理の弟を甘やかさなくていいからね。駄目な時はしっかり断って」


美鈴の言葉に夜理は笑う。


「大丈夫。私は甘くないから。陸くんもそれは知っているよ」


自分よりよっぽどしっかりしている夜理に思わず苦笑いしてしまった。

そんな夜理に案内された客間に入ると中庭が見えた。紅葉が植えられており苔むした岩もある。


「そう言えば、引っ越しする家からは海が見えるんだって?」


夜理の言葉に美鈴は庭から視線を夜理にと戻した。


「うん。リビングから見える。古い家なんだけど庭には草花がたくさん植わっていて四季を感じて素敵だよ。これからリフォームする予定だからそれが終わったらぜひ遊びに来てね」

「楽しみだな。でも今まで教えてくれなかったのは、2人の秘密の場所だったのかな?」


ちょっとふざけたように夜理は聞いてきた。


「あ…秘密というか、私たちもどういう場所なのか分からなかったの」

「そういえば、相模さんから譲り受けた場所なんだよね」

「うんそう。でも去年あの家の庭をずっと手入れをしてくれていた植木屋さんから話が聞けてどういう場所か何となく分かってきたんだ。あそこの家には森橋さんというおばあちゃんが旦那さんを亡くして1人で住んでいたんだって。朗とは何らかの縁があって親しくなって最後を看取ったのも朗だったみたい。でね、陸が聞いた話では森橋さんのおばあちゃんには高校を卒業して出て行ってしまった娘さんがいるらしいの。ずっと戻って来ていないらしいんだけど、たぶん…森橋のおばあちゃんは、旦那さんが亡くなっても自分が病気になってもその場所を離れなかったのは、娘が帰って来たときあの場所に誰もいなかったら悲しむんじゃないかと思って離れられなかったのかなって…」


そこまで話してから美鈴は廊下の隅に見えた人影に声をかけた。


「兼松さん…?」


美鈴の声にうつむいていた兼松ははっとして顔を上げると廊下に膝をついた。


「すみませんでした。聞くつもりはなかったのですが…」


兼松の表情は何か少し苦しげに見えた。そんな兼松を見て夜理は立ち上がった。


「私、美鈴さんにお茶も出していなかったわ。ごめんなさい。

ちょっと席を外しますから美鈴さんのお相手お願いしていいですか?」


兼松は短く返事をすると頭を下げる。夜理はケーキの入った箱を持って美鈴に笑って見せると出て行った。暫くの沈黙が2人の間を流れていたが美鈴が話し出した。


「陸から昨日聞いたのですが、森橋さんの娘さんとお知り合いだったのですか?」


思いのほか自分でもストレートに聞いてしまった。

案の定兼松は黙ったままだった。


「ごめんなさい。あの…実は昨年、知り合いから譲り受けた家があったんです。でも何も聞いていなくてどんな方が住んでいたのかも分からなくて。でも偶然にその家の庭の手入れをしてくれていた植木屋さんが事情を話してくれて、とても優しいおばあちゃんが住んでいらしたって事を知ったんです。でも病弱な方だったらしくて1人で家にいた時に私の知り合いとご縁ができたみたいでそれがきっかけで森橋さんから譲ってもらったみたいなんです。陸とも何度か行ったんですが、海が見えてお庭も素敵で陸もとても気に入ってるんです」


そこまで言ってから兼松の顔を見ると兼松も美鈴の方を向いていた。


「不思議なものですね。これも何かの縁でしょうか」


そう言うと小さく笑った。


「昨日、陸から聞いてまさかと思いましたが、きっと私の亡くなった家内の母親だと思います」

「…亡くなった奥さん?」

「ええ。もう10年も前に亡くしました。駆け落ちのような形で一緒になったものですから死んだ事も家内の親には言っておりません。美鈴さんが言うようにきっと母親は待っていたんでしょう。娘が帰ってくるのを」

「ごめんなさい。私事情も知らないのに勝手な事言って」

「いいえ。そんな事はありません。それに家内の母親を看取ってくれた方は美鈴さんにとても親しい方だったんですね。ありがとうございます」

「いえっ。私は何もしていませんからっ」


首を振って目を潤ませている美鈴を兼松は穏やかな表情で見た。


「そうですね。でも美鈴さんにもお願いがありますから」


美鈴は顔を上げて兼松を見る。


「出来ることなら家内のお骨を両親と一緒にしてやりたいんです。私には言いませんでしたが両親の事も気にかけていましたから。なのでもしお墓の場所が分かるようでしたら聞いてもらえないでしょうか」


兼松の言葉に今まで我慢していた涙がこぼれ落ちてしまった。


「ごめんなさいっ」


慌ててハンカチを取り出し拭う。

そんな様子を見ていた兼松はふっと小さく笑った。


「陸の話もまんざら嘘ではないようですね」

「陸の話?」

「ええ。あなたがすぐ泣くという話をしていました」


美鈴の顔は赤くなる。


「そんな話、陸がしたんですか?」


兼松は穏やかに言葉を続ける。


「ええ。昨日会った時に少し話をしたのですが先の事も考えているようで安心しました。ただもう少し言葉使いが良くなるといいのですが」


最後のぼやきには思わず笑ってしまった。


「そうですね。使い分けてはいるみたいですけど私も思います。後、お墓のことは聞いてみます。分かったらすぐに連絡しますね」

「すみません。よろしくお願いします」


兼松が頭を下げるのを見ながら美鈴はずっと思っていた事を言った。


「私からのお願いも聞いてもらえますか?」

「何でしょう?」


顔を上げた兼松は不思議そうに美鈴を見た。


「えっと…その兼松さんの言葉使いなんですが…」

「何か気に障るような事を言ってましたか?そうでしたら言ってください」

「いえ、そう言う事じゃなくて兼松さん丁寧過ぎなんです。私は兼松さんより年下ですし偉くも何ともないですし恐縮してしまいます。私にはもっと普通でいいですから」

「そうでしたか。気を使わせてしまったみたいですみません。ですが今まで通りでお願いします」


取り付く島もないとはこの事だろうかと思わず美鈴は笑ってしまった。


「気を悪くしたらごめんなさい。兼松さん、ちょっと頑固そうですよね」


くすくすと笑って言う美鈴に兼松は不快な感情は抱かない。


「陸もそうなんだけど兼松さんに似たのかな。いろいろ話してくれるんですよ。話を聞いていると兼松さんだけには頭が上がらないみたいで2番目のお兄さんって感じでした。すごく頼りにしているみたいです」


美鈴の言葉に兼松は照れ臭そうなでも嬉しそうな表情になる。


「そうですか」


そこへちょうど夜理が紅茶のセットを持って戻ってきた。


「お待たせしてごめんなさい。兼松さんも一緒にどうですか?」


兼松は頭を下げると断る。


「私はこれで失礼致します。11時半ごろお声を掛けに来ます」


そう言うとお辞儀をして行ってしまった。

夜理は机の上に置いた紅茶を入れながら美鈴の方を見た。


「お話聞けた?」


香りのよい紅茶のカップを受け取りながら美鈴は頷いた。


「ありがとう。気を使ってもらっちゃって」

「ううん。兼松さんは本当に自分を出さないし語らない人だけど美鈴さんや陸くんには別なんだよ。笑うことなんてほとんどないんだけど2人の前では穏やかな表情をみせている。でも組の中では若頭だからいつも厳しい顔をしているし信頼されている人なの」


美鈴は頷いた。


「きっと私は組とは関係ない人間だからだよ。そういう所を兼松さんは大切にする人だと思うんだ。夜理ちゃんなんて組にとって大切な姐さんだしね」

「姐さんなのよね。美鈴さんとこうして話していると何も変わっていない気がするのに不思議」

「そうだね。今度はゆっくりと遊びに来るから」


夜理は時計を見ると残念そうな顔をした。


「あー〜ごめんなさい。そろそろ用意をしないと。せっかく来てくれたのにごめんなさい」

「ううん。私の方こそ無理言ってごめんね。また今度ゆっくり話そうね」


そう言うと立ち上がった。夜理と玄関まで歩いて行くと丁度兼松が外から入ってくる所であった。


「どうぞ。車の用意が丁度出来た所です」


兼松の言葉に美鈴は頭を下げた。


「ありがとうございます。お世話になります。

じゃあ、夜理ちゃんまた。海人さんにもよろしく」


美鈴の言葉に夜理も微笑む。


「うん、陸くんにもよろしくね」


美鈴は手を振ると兼松と一緒に出て行った。

見送っていた夜理は2人が見えなくなると別人のように表情を引き締め中へと戻って行った。





美鈴が高野の家から帰って来ると、仮眠をとっていた陸がのっそりと起きてきた。

朝出かける前に作っておいたクラムチャウダーを温めるとスエット姿の陸に渡した。


「で、どうだった?」


スープの入ったマグカップを持った陸はソファへ移動すると机の上に置き、そうそうに尋ねてきた。


「陸が思っていた通り兼松さんの奥さんの実家だったみたい」

「あーやっぱそうだったか。つーことは兼松結婚してたんだな」

「うんでも一緒になってからすぐに病気で亡くしたって言ってたから、20歳前後くらいだったのかもしれないね」

「そっか」


美鈴の話を聞きながら陸は何度か小さく頷いた。


「それでね、兼松さんから奥さんのお骨をご両親と一緒にしてあげたいからお墓のある場所を聞いて欲しいって頼まれたんだ」

「つーことは、大場のかーちゃんに電話か」

「大場さんに聞いたら私たちもお参りに行ってこよう。住まわせてもらうんだから御挨拶に行かないとね」

「そうだな…」


返事を返してきた陸だがぽつりと言う。


「何か不思議だよな。少しずつ紐解けるように繋がっていってさ…。こういうのってあるんだな」

「兼松さんも同じことを言ってた。何かの縁じゃないかって」


陸は頷いた。


「でもさ、よく兼松が話してくれたね。正直ちょっと無理かなって思ってたんだよ。俺は小さい頃から面倒みてもらってたけど兼松の家族のことなんてまったく知らないもんなぁ。自分から話すってこともないし」

「きっと陸は近すぎる存在だからなんじゃないかな。でも夜理ちゃんが言うには、陸と話すときは兼松さん穏やかな表情をしているって言ってたよ」

「そうか?」


陸は怪訝そうな顔をする。


「そういうことって外からの方がよく見えるのかもしれないね。

でも今回のことは丁度夜理ちゃんと話していた時に兼松さんが通りかかったって事もあったし、夜理ちゃんが気を利かしてくれたからだよ」

「ふーん、そっか」


陸は頷いたのだが何か違うことを考えているようであった。

暫くして美鈴の方を向く。


「俺、あの日新宿の中央公園で美鈴と会わなかったら今一緒にいる事はなかったんだよな。

あの日がなかったら俺どうしてたんだろう」


陸の言葉に美鈴は笑う。


「あの日がなければ別の日があったんじゃないの?違う時、違う場所で会っていたかもしれないよ」


こういう時はやけにポジティブな美鈴である。


「そうだよな。俺、美鈴に会わないと絶対駄目だったと思う」


陸の言葉に美鈴は首を振った。


「駄目なんて事ないよ。陸は皆んなに好かれているし陸自身頑張っているじゃない」

「それは美鈴がいるからだよ。誰でもいいって訳じゃない。それだけは分かってくれる?」

「うん…」


美鈴の返事を聞いて陸は小さく笑ってしまった。

きっと分かってない。

2人の思いはまだ等しくないけれど、やっと掴める場所に来れたのだ。この手を離したくなかった。


「これから買い物にでも行く?」

「あ、そうだね。夕飯の材料買ってこないと」


美鈴は立ち上がると笑う。

自分に向けられた笑顔に陸は頷いた。


「じゃあ用意してくる」


洗面台に向かいながら思う。

一緒にいられる。だからこれから。思いも育んでいけばいい。


すべてがこれから。

想いは等しくない…

まだまだ陸の苦労は続きそうです

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