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この手をつかみたくて3  作者: えみっち
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「最近陸くん、美鈴さんとの事ちっとも話してくれないけど、どうなんですか?」


突然の夜理の発言に美鈴は飲んでいたアイスティーを少し吐き出してしまった。慌ててハンカチで口元を押さえながら美鈴は夜理を見た。


「どうって…特には変わらないし」


夜理は少し疑わしげに見ていたがため息をついた。ため息の理由は美鈴にも分かっていた。


「夜理ちゃんは、海人さんと会っているの?付き合い出したんでしょう」


夜理はいつもは見せないような少し拗ねた表情をした。


「付き合うっていうか、付き合ってくれているって感じだと思う。海人さん大人だし、あーゆー仕事しているし、女性の扱いは慣れているし」


こんな風に夜理は言うが距離をおきながらも会ってくれるという事は、海人の気持ちも夜理にあると思えた。しかし、やはり銃撃事件の事が障害になっているのだろう。


「陸からは話、聞いた?」

「聞いた。よく考えた方がいいって言われたけど気持ちは変わらない」


そこまでハッキリ言い切られると美鈴もやめろとは言えなかった。

いつも自分を出すことのない夜理がここまで拗ねたり表情を変える姿を見ていると応援したくなってしまう。駄目な先輩である。


「美鈴さん、なんだか目がキラキラしている」


夜理に言われて我に返った。


「いえ、恋する夜理ちゃんが可愛くてきゅんとしてました」


美鈴の言葉に夜理は笑う。


「美鈴さんったら可笑しいの。あ、そういえば海人さんが言ってたよ。陸くんは『変態ドS』だから気をつけた方がいいって」


突然の夜理の言葉に美鈴の動きが止まった。


「はあ?」





「はあ?」


陸は、美鈴の顔を眉間にしわを寄せて見た。


「いや…とある所からの情報でしてつい聞いてしまいました」


あれから神奈川にある平屋建ての家に来るのは3度目であった。水道と電気だけは使えるようになったので掃除もはかどり今回は窓拭きとカーテンの取り付けをした。

季節は秋も終わりの11月末で風も冷たい。窓を閉めて日当たりの良いリビングで一息ついてお茶をしている時であった。


「とある所ってどうせ兄貴だろ。兄貴にあったの?」

「夜理ちゃんからだけど、海人さんのお知らせ注意で聞きました」


陸は嫌な顔をした。


「ったく何だよ、アイツら」


陸は口を尖らしなが板の間に手をつき足を伸ばす。


「でもさ、夜理のヤツ凄いよな。言うこと言うし強いっていうか、絶対海人と体の関係持ってるよな」


美鈴は陸の言葉に反論した。


「私はそんな事ないと思うな。海人さん会ったりはするけど距離を置いているみたいだし、もしかしたら大切に思っているからそういう態度とっているのかなって思うんだけど。これ以上親しくなって危ない目に合わせたら駄目だって…」


膝を抱え込んで座っている美鈴に陸は渋い顔を見せた。


「美鈴は海人の事を色眼鏡で見てんだよ。もう33だぜ。欲しかったら我慢なんてしないと思うね。地位だって金だって持っている男が好きな女を大切に思って手を出さないなんてないね。向こうだって積極的なんだからさ」


美鈴は言い返せないでいると陸はため息をついた。


「たださ、夜理にも言ったんだけど海人は『ヤクザ』の組長なんだよ。そのことで夜理が傷ついたり泣いたりすることがあると思うんだよ。下手すれば命の危険だってある。それに世間からだって違う目で見られる。見たくない所も見なくちゃいけないと思うからさ、本当なら海人にはついていかない方がいいと思う。……でもなぁ……夜理だからなぁ」


最後のぼやきに思わず笑ってしまった。


「何だよ、やけに余裕にかまえているじゃん」


美鈴は抱えていた膝の上に顎を乗せるとうーんとうなる。


「余裕って訳じゃないけど、私達がいた組織は仕事も特殊で警察も関与しない裏の仕事が多かった。夜理ちゃんは未成年だったから汚れた部分は一部しか見てないとは思うんだけど人に言えるような事じゃない。だから陸が言ったことも受け止めていると思う。夜理ちゃんは陸が言うように心が強くて自分が決めたことは曲げない…うん、曲げてくれないんだろうなぁ…」

「決めるのは本人だからな」

「うん」


美鈴は小さく息を吐くと空になったマグカップを手に取り立ち上がった。

流しで洗い物をする美鈴を見ていた陸は立ち上がると、美鈴が立っている流しに手を置いた。


「どうしたの?」


美鈴は首だけ後ろに向ける。


「あのさ俺、1月誕生日だろ」

「うん。30日だったね」

「いつもはマスター達と適当にやってたんだけど今回は美鈴と2人で過ごしたいんだ。店とかじゃなくてここで2人で出来たらいいなって思ってさ。駄目かな…」

「……」


美鈴は言葉がすぐに出てこなかった。

何とか言おうと口を開きかけたところで陸が小さく笑って流しから手を離した。


「美鈴、顔真っ赤だぜ。また変なこと考えてたんだろう」


陸の言葉に思わず反論しようと振り返り見ると陸はしおらしい顔でいた。


「別に今日みたいでいんだよ。一緒にいられれば」


陸はこんなに素直に接してくれているのにどうして自分は素直になれないのであろうか。こんなに一緒にいるのに…。


「いいよっ」


唇をちょっと噛んだまま視線は下がっていたが陸に何とか答える。


「…美鈴、無理してんならいんだぜ」


陸の見透かされたような言葉に美鈴は顔を上げた。


「無理なんてしてないし、いいよって言ったらなんでそう言うの」


ついムキになって答えてしまった。


「…ごめん」


驚いた顔で謝る陸に美鈴は自分が恥ずかしくなってしまった。幼い自分が恥ずかしかった。美鈴は再び赤くなってしまった頰をおさえて黙ってしまった。


「…っ」


陸は言いかけた言葉を止めた。きっとこれ以上言っても今の美鈴には届かない気がしたからだ。

2人は気まずいまま片付けを済ませ帰ったのだった。




陸は兄が経営している店でグラスを磨きながらぼそりとマスターに言った。


「女って難しいよな」


マスターは陸のつぶやきに動きを止めて凝視したが笑い出す。

陸はムッとしてグラスを置いた。


「なんだ?ケンカでもしたのか? 別れちまうのかな」


カウンターの棚に酒のボトルを並べながらマスターは冷やかす。


「別れないよ。つーか、付き合っているってとこまで行ってんのか行ってないのかも分かんないのに…」


そこまで言ってから頭をかく。


「じゃなくてさ、なんか怒ったみたいなんだよ。俺の方だってショックだったのに気まずくなって嫌なんだよ」


イマイチ理解に苦しんだがマスターはカウンターに寄りかかり陸の方を見る。


「お前、またポロリと何か言ったんじゃないのか?そう言うパターンが多いんだよな」

「言ってないよ。ただ誕生日に一緒に過ごしたいって言ったら困った感じだったから、無理しないでいいって言ったんだぜ。そしたらなんかムキになって無理してないって言ってきたんだよ。俺謝ったんだぜ。そしたら黙っちまったんだよ」

「ほー。そんな計画をいつのまにか立てていたんだ」

「そうだよ。立ててたけど無理かもな。何だろう。別にそんな構えなくてもいいと思うんだけどな」


マスターは笑う。


「そりゃ、無理だろ」


陸の口が尖る。


「ここまで待ったんだから、とことん待ってあげたらいいだろ。近くに居られるようになったら欲とスケベ心が出ちまったんだろ」

「出るに決まっているだろ。だけどスケベ心は抑えているよ。

あー、くそっ。そいうやあ、その前に兄貴が変なこと言いやがったんだ」


陸はイラついたように言う。


「海人さんが今度は何言ってきたんだ?」

「夜理伝に俺のこと変態のドSだとか適当なこと言いやがってさ」


マスターは吹き出してしまった。


「本当にアイツ、俺の邪魔しかしないで腹立つな。自分ばっかいい思いしやがって」

「なるほど、それで彼女は変な先入観を持ってしまい陸のことを危険人物と認識してしまったんだな」


マスターは笑いながら言ったが陸としては面白くも何ともない。


「まあ別に間違ってはいないもんな」

「当たってもいないよ!」


思わずムキになって怒鳴ってしまった。


「しかし、夜理チャン。積極的で驚くばかりだ。あんなに可愛いんだから海人さんもすぐに手を出すかと思ったが意外だったねぇ」


マスターの言葉に陸は驚いたようであった


「…兄貴、夜理とは関係もってないの?」


陸の意外という表情にマスターは笑う。


「お前もそう思うだろ。あの海人さんだからな…。でも陸、お前と一緒じゃないのか?真剣な子ほど手が出せないってヤツかもな。あ、抑えてんだっけ?」


マスターはにやりと笑うと眉を上げて見せた。



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