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親父への疑念

 この山の中にある家に来てから数日が経った頃。

 傷も癒え、妹のシスタも目を覚ましていたけれど、俺とシスタは未だにこの家で暮らし、おっさんの世話になっていた。

 おっさんは好きに出ていっていいと言っていたけれど、十歳の俺と七歳の妹がこの家を出たとして、そのあと何が出来る……。

 ここまで幼いと働くことも出来ない。

 金が稼げなければ、食べ物を確保するために盗みを働くしかなくなる。

 そうなってしまえば、まともな住居も確保できないだろう。

 盗みを働かずに野垂れ死にするか、盗みを働いてみすぼらしく生き、いずれ捕まるか。

 この家を出てしまえば、俺たちにはその二択しか残されていない。

 けれど、この家にさえいれば少なくとも衣食住は保証される。

 あのおっさんはかなり怪しいけれど、俺たち兄妹がまともに生きるためにはこの家にいるしかない。

 俺たちに選べる選択肢など初めから一つしかないのだ。

 そんな思考を巡らせながら、この数日間おっさんのことをずっと警戒して様子を見ていた。


「おはよう」


 野原に生えている木の木陰に妹と座りながらおっさんのことを遠目から観察していると、俺を()てくれていた年上の女の子が話しかけてきた。

 名前はモナ=ジャンティー。

 いずれ、モナ姉と呼ぶようになる子だ。


「どう?いい加減、二人ともこの家には慣れた?」


「慣れてない。ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」


「なぁに?」


「キミもさ……あのおっさんの子供じゃないでしょ」


「よくわかったね」


「全然似てないから……」


 数日見ていただけでもこの二人が血の繋がった親子じゃないことはすぐにわかった。

 片や掃除好きで、片や面倒臭がり。

 片や気配りで、片や無遠慮。

 片や清楚な可愛いらしい女の子で、片やヤニ臭いむさいおっさん。

 性別から性格まで何もかもが真逆に近い。

 この二人がとても血の繋がりがある親子とは思えなかった……というか、思いたくなかった。

 なので、実の親子じゃないことを聞けて胸を撫で下ろす。


「なんでこの家にいるの?キミも戦争孤児?」


「ううん」と言いながら、目の前で首を横に振る。


「私はね。三歳の時に親に捨てられた捨て子なの。木の下に捨てられて泣いてたところをお父さんに拾われて、それからずっと本当のお父さんみたいに育ててもらってる」


「……あの人、なにがしたいんだ?」


「さぁね。私にもよくわかんない」


 まだ三歳のそんな小さい女の子を独り身の男が拾って十年以上。

 ここまで大きくなるまで育ててきた?

 孤児院にでも預ければ、わざわざ育てる手間もなかっただろうにあのおっさんはそれをしなかった。

 自分にはあの人が何がしたいのかますますよくわからなかった。


「でも、あの人は信用してもいいと思うよ」


「なんで?」


「わたしがなにもされてないから。確かに変わった人だけど、本当にただのいいお父さんだよ」


「まだ何もしてないだけかもしれない。これからなにかされるかも、とは考えないの?」


 人(さら)いや人身売買も現実に確かにある。

 これまで育ててきたのは金にするためという可能性も考えられなくはなかった。


「きっと、あの人はただすごく優しい人なんだよ。困ってる人がいたら放っておけない!みたいな」


「そんないい人はいないよ」


 何もメリットがないのに助けてくれる。

 そんな聖人のような人はおそらくこの世にはいない。

 実際、村が襲われ、母さんが建物の下敷きになった時、どれだけ「助けて」と叫んでも誰も助けてくれなかった。

 あの時、誰かが立ち止まって手を貸してくれていたら、母さんを助けられたかもしれないのにみんな自分のことが大切で、自分の命が一番で見向きもしなかった。

 でも、きっとそれが普通なんだ。

 自分が逆の立場でもきっと立ち止まって助けるなんてせずに逃げていたと思う。

 だから、何の見返りもなく助けてくれるなんて怪しく思えてしかたがない。


「じゃあ、あの人が言ってるように本当に一人でいるのが嫌なだけなんじゃないかな。家が賑やかになる。それがあの人にとってのメリットなんじゃない?」


「……」


「お父さんのこと、信用出来ない?」


 申し訳なさから目を逸らし、「信用は出来ない」と言った。


「まぁ、今はわからなくても、あの人がどんな人なのかはきっとすぐにわかるよ」


 この時はモナ姉が「すぐにわかる」と言った意味がよく分からなかったけれど、この家で暮らし始めて一週間ほど経ったある日。

 親父が俺を呼び出し、俺と親父の二人だけで出かけに行くことになった。

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