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夢幻
その年の冬は明けることは無かった。
私は縁側から庭を眺めている。
白が全てを覆い隠す。
土も水も木も草も生き物も、
全て全て覆い隠す。
みんなとの思い出。
ここに来ていつも見てくれた春風。
厳しくも鍛えてくれた秋月。
自分を見つめる事を教えてくれた夏鳥。
この庭で話した事、見た事、感じた事。
どれも、消えることは無い。
けれども、何故なのか、
気持ちも感情も
失ってしまったように沸かない。
ずっと、庭を眺めている。
また、私は失ったのだ。
ようやく手に入れた暖かな場所、家族。
ずっと庭を眺めている。
あの時を取り戻せないかと。
もう一度。




