72/138
一人、お役目へ
「準備は出来ましたか。」
「何?」
「そんなに緊張なさらなくても。
普段通りで良いですよ。」
「冬花、僕なんて転んだりして、
何回も何回もやり直させられたからね。」
「貴方の場合は、単純に練習不足です。」
「神具でさえ
支え切れないほどの鍛錬の無さ。」
「何も悪い事が起こらなかったのが
不思議な位です。」
そんな姉弟の会話を聞きながら、
朝食を済ませていた。
余りに夏鳥が騒ぐものだから、
最後には我慢の限度を超えた秋月から
特大の雷を落とされていた。
この頃になって漸く、
心の底から家族のような繋がりを
しっかりと感じ取ることができた。
こんな風に賑やかな雰囲気も
今となっては懐かしい。
そして、この先終わりというものは
突然にやって来る事を知るのだった。
玄関にて。
「冬花、ちょっと。」
春風が私の身なりを整える。
「どうか無事に帰ってこれますように。」
そうやって、お守りを首に掛けてくれた。
「行ってきます。」
とみんなに告げる。
「いってらっしゃい。」
私が見えなくなるまで、
家族みんなが見送っていた。




