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「ピンク」

少年「おい…マジか…」

とある見慣れた家の前で、少年は小声で呟いた。


子猫「ここから反応してる!間違いないよ!」

どこから見ても普通の白い子猫が、少年の肩に乗り、こちらも小声で呟いた。


少年「…」

少年は、今から忍び込もうとしている家が、何故にこの家なんだ?とあからさまに顔で表現していた。


少年「マジか…」


少年の名は『緋色チヒロ』

つい2時間前まではの極々普通の高校2年生であった…

この、どこから見ても子猫…『あおい』が家に来るまでは…


チヒロ「…どこにある?」

あおい「2階から反応してる!」

チヒロ「どうやって入る?」

あおい「どこか開いてるドアはないかなぁ?」

チヒロ「人の気配は?」

あおい「2階に1人。その人が持っているようだよ!」

チヒロ「…美紅ちゃんか?」

あおい「…質問ばっかりだな…」

チヒロを横目で睨むと、その質問には触れなかった。


あおいは、何故かチヒロの気持ちを知っていた。


『小川美紅』…チヒロと同じ高校で同じクラス、幼馴染みかつ大好きな女の子であった。


あおい「今のうちにおじゃましちゃおうよ!」

チヒロ「…あぁ…」

あおい「早くっ!!」

チヒロ「…バレたら終わるよな…」


チヒロは半泣きになりながらも、とりあえず玄関のドアノブを回してみると普通に鍵が開いていた。


チヒロ「…すっげぇ無用心…助かるけど…」

あおい「さぁ!早く入るよ!」

複雑な表情で苦笑するチヒロの肩から跳び降りると、開いた扉の隙間から素早く入っていった。

チヒロ「ま、待てよ!お、おじゃましますぅ…」

後ろ手に扉を閉めながら、チヒロは恐る恐る入っていった。


何回か来たことのある家が、まるでホラー映画に出てくる廃屋敷の入口のように感じた。

実際には、綺麗に片付いた明るい玄関なんだが…


こんな時にも関わらず、チヒロの性格なのか綺麗に靴を揃えて脱ぐと、そおっと玄関からの廊下を通り居間に入って行った。


チヒロ「入ったはいいけどどうするんだよ!美紅ちゃんが持ってるんだろ?」

あおい「そこまでは考えてなかったよ。ハハハッ!」

チヒロ「…こいつ…」

あおい「ん?マズイっ!隠れて!降りてくるっ!」

チヒロ「!!」

小声で話しながら、正直意味はないと思いながらも低い姿勢をとりながら急いで横のキッチンに入り、息を殺して聞き耳をたてていると


美紅「玄関、閉め忘れてた…危ない危ない!」

2階から降りてきた女の子は、鼻唄混じりで笑いながら玄関に行き、鍵を閉めたようであった。


チヒロ「!!」

揃えた靴を思いだし、真っ青になったチヒロであったが、綺麗に揃えていたのが項をそうしたのか、美紅は気付かずに戻ってきた。


チヒロ「!!」

キッチンに来たら詰む…と思ったが、美紅はさらに鼻歌を歌いながら居間への入り口を通りすぎ洗面所に入って行った。


チヒロ「ふぅ…」

小さくため息をつきつつ

チヒロ「どうやって取るんだよっ?!」

あおい「う~ん…」

チヒロ「こんな状況が続いたら、オレの心臓が持たないぞ…」

あおい「う~ん…」

少年と子猫が色々考えていると


あおい「ん?チヒロ!チャンスだ!お風呂に入ったようだ!」

チヒロ「え?」

あおい「シャワーの音がする!それに彼女の気配から離れた!たぶん脱衣所に置いてあると思う!」

チヒロ「マジかっ!急げっ!」


冷蔵庫の陰から足音を消しつつ、我ながら忍者みたいだな…と思いながら、空き巣泥棒のように素早く飛び出し、廊下を通って洗面所に入ると、はっきりとシャワーの音が聞こえた。


そこで健康的な高校2年生のチヒロは気が付いた…


大好きな美紅ちゃんが扉一枚を隔てた所で、生まれたまんまの姿でシャワーを浴びている事にっ!


チヒロ「…」

お風呂への曇った扉越しに見える肌色の後ろ姿を、金縛りにあって見続けているチヒロ…


あおい「何をしてるんだよ!ここにあるよっ!」

洗面台の上に跳び乗り、綺麗に畳んだ洋服の上にある真っ赤な宝石を鼻先で指し示しながら言った。


チヒロ「…あ…あぁ…」

名残惜しそうにそちらを見ると、綺麗に畳んだ服の上の、これまた小さく畳まれたピンク色のパンティの上に真っ赤な宝石が置かれていた。


チヒロ「…」

チヒロの目にはピンクのパンティしか映っていない…


あおい「早くっ!」

チヒロの肩に跳び移り、耳元で小声で叫ぶと、チヒロの目にやっと宝石が映った。


チヒロ「これかっ!」

急いで取ろうとした為、忍び足を忘れ、足音をたてて宝石を取ってしまった。


美紅「ん?お母さん?」

物音に気付いたお風呂の中のシルエットが立ち上がり、扉をゆっくり開けた。


あおい「マズイっ!変身だっ!」

チヒロ「…え?」

扉が少しずつ開き、濡れた髪が覗きだしたと同時に、チヒロが腕をクロスし

チヒロ「チェンジっ!」

必死で叫ぶとチヒロの全身が眩いばかりの光に包まれた。


美紅「きゃあっ!」

突然の強烈な光に、目を瞑って悲鳴をあげる美紅。


そして、自分自身は光を感じず、美紅の露になった無防備な胸に見とれている全身黒タイツを着たようなチヒロがいた。


チヒロ「み、美紅ちゃんのおっぱいだ…」

あおい「何してるんだよっ!行くよっ!」

チヒロ「おっぱい…」

あおい「早くっ!!」

チヒロ「あ、あぁ…」

なんとか我に帰り、美紅の視界が戻る前に素早く洗面所を出て、今度は足音も気にせずに廊下を抜けて靴を履くと、玄関を飛び出し美紅の家から離れていった。



あおい「なんとか一つ目が取れたね!」

チヒロの肩でにこやかに笑いながら言った。


チヒロ「…美紅ちゃんのおっぱい…」


真っ赤な宝石と一緒にピンクのパンティを握りしめた全身黒タイツの少年が、少し前屈みで走っていた…。

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