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男
雪の小さな心臓は破裂しそうなほど大きく脈打ち、その細い手足は寒くもないのに僅かに震えていた。
店の出入り口の前に立ち尽くした雪のその視線の先には静かに酒を煽る一人の若い男の姿があった。
その若い男の齢は店主とそう変わりないようだった。
男は雪の射るような視線を認めると雪を無言で手招いた。
雪はそれに従った。
「何か食うか?」
そう訊ねてきた男の声はその鋭い眼光からは想像もつかないほど優しいもので雪は少しばかり驚かされた。
雪のその感情を読み取ってか男はぎこちなく笑い、自分の隣に座るよう《せつ》雪を促した。
「好きなものを頼め。遠慮はいらない」
男のその言葉に雪は小さく頷き、穏やかな笑みを浮かべている店主を見つめ見た。