妖であり人間。人間であり妖。
多くの妖を見てきた雨月だが、この店主ほどけったいな妖を雨月は知らなかった。
その店主の姿は人間のそれと何ら変わらず、その言動、動作もひどく人間臭い。
なのに、どこかが人間と明らかに違っている・・・。
雨月はその違いをいつも言葉にすることができなかった。
いや、それは雨月だけでなく他の妖たちも同じことだった。
故にこの店の店主は人間であり、人間でない妖。
妖であり、妖でない人間。
と、呼ばれていた。
店主は人間にしては妖気を持ち、妖にしては妖気を持っていない。
それがどういうことなのか妖たちは本能的に解していた。
それはこの店の店主が並の妖でないことを示唆しているのだ。
だから妖たちは店主に無礼を働くことはなかった。
いくら仲の悪い妖同士が店で鉢合ってもお互いに目を合わさず、お互いの存在を黙殺していた。
店主の目の届く範囲で争い事を起こさない・・・。
それがいつの間にか妖たちの間でできた一つの掟だったし、誰もその掟を破ろうとしないのは皆がこの店主に一目を置いているからに他ならなかった。
それは雨月とて例外ではない。
「・・・わかった。しばらくの間、雪をお頼み申す」
雨月の言葉に雪は頬を紅潮させ、嬉しそうに微笑んだ。
それを見て雨月も我知らず微笑んでいた。