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勇者と魔王様の再会

 勇者ユーリアは、走っていた。

栗色の二つの三つ編みに結った髪を

風になびかせ、聖剣を手にしながら

走っていた。

 魔王アンゴルモアは大丈夫

だろうか。

 以前は敵であったけれど、しばらく

仲良くしていたユーリアは完全に情が

移っていた。

 魔王は愛玩動物ペットでもないし、

友達というにも多少無理があるような

関係ではあるけれど、なんだか放って

おけないと言うか心配だった。

 何故かは自分でもよくは分から

ないのだけれど。

「無事で、いてくださいよ魔王!」

 魔力以外はあんまり戦闘能力が高くない

魔王を助けるため、ユーリアは抜いた剣の

重さも、走り続けた疲れも何も感じない

ような速さで走り続けていた――。



「――待ちやがれ、このガキが!」

「待てって言われて、待てる訳ないだろ!」

 反逆者イヴリスに未だ追撃されたままの、

魔王アンゴルモアもまた、ユーリアが走って

いるのと同時刻走っていた。

 ここで捕まる訳にも、殺られる訳にもいか

ないのだ。自分は、魔王として部下達を守る

義務があるのだから。

 本当はイヴリスとも話し合いたいが、彼は

自分の言葉など聞きはしないだろう。

 それが少し魔王には残念だった。

魔王だって魔力ならば、イヴリスには少し

負けるがかなり高い。

 のだが、魔術を使うのなど相手が待って

くれない場合では不利である。

 武力では、イヴリスの方が強い訳だから。

「あっ……!」

 また魔王の足がもつれ、その場に転んで

しまった。あまりの痛みに魔王は顔をしかめ、

立ち上がれない。……怪我をしたのは、自分を

逃がすためにユーリアに放り投げられ、転んで

怪我したばかりの所だったのだ。

 血があふれ、土にしみ込んで消えていく。

魔王は菫のような大きな瞳を潤ませた。

 逃げなければ。そう頭では思うのに、立つ

事が出来ない。

 魔王はしだいに頭が真っ白になって混乱して

しまった。どうしたらいいのだろう、立てない

のに、イヴリスはどんどん近づいて来ているのだ。

 動かない魔王を嘲笑うように、わざとゆっくりと。

 獲物を殺さずにいたぶる狩人のような彼の表情に、

魔王は思わず泣きそうになった。

 ここで、終わるのだろうか。平和だった世界も、

自分の人生も、ユーリアの努力も、全部。

 部下達だけでもイヴリスに生かされればいい

けれど、と魔王は恐怖に震えながら思う。

「終わりだな、魔王アンゴルモア!」

「……!」

 魔王は目を閉じ、自分が感じるであろう痛みに

歯を食いしばった――。



「――そこまでです!」

 ユーリアは、魔王に攻撃しようとしている

イヴリスを見るや、聖剣を構えて突っ込んだ。

そのまま聖剣で斬りつける――。

 と、見せかけ、足払いをくらわせて転ばせる。

「いてぇ!? この、勇者ごときが!」

「行きますよ、魔王!」

「ゆ、勇者!? 何で、こんな所に!?」

「話は後です、今は逃げますよ!」

 今度はユーリアが魔王の手を握り、走り出した。

この前、ウィル=オルドから、魔王がユーリアを

助けたのだが、今回は逆なようだ。

 温かくて柔らかい手に触れ、魔王は少しドキドキと

胸が高鳴る。

 毎日のように畑仕事をしているから多少荒れては

いるものの、ユーリアの手は女の子らしくなめらかで

柔らかかった。

 死んだ母親の手にも似たやすらぎを感じ、魔王は

足が痛い事も忘れて彼女と共に走り出す。

 もう、怖さも痛みも感じなかった。

「よく一人で頑張りましたね、魔王」

「え、えっと俺……」

「これからは、私が一緒です。二人でこれから

どうしようか考えましょう」

「う、うん……」

 こんな状況だけれど、魔王はユーリアを独り占め

出来るのが少し嬉しかった。

 妹のシーナのためでも、友達のためでもなく、

ユーリアが自分のためだけに行動してくれて、二人で

考えようと言ってくれているのだ。

 ユーリアとって、自分はまだ異性として認識されては

いないのだろう。でも、魔王はそれでも一緒にいられて

嬉しいのだ――。



 ユーリアは魔王の腕を引っ張り、とりあえず

二人だけが知っている秘密の場所へと連れて

行った。

 もうウィル=オルドはどこかへ行ってしまった

のか、近くにはいない。

 手当をするために床に座らせて足を出させると、

何故か魔王が赤くなった。

 その理由がユーリアには分からず、彼女は首を

かしげる。

 実は、ユーリアが手当の際に顔を近づけるのが

魔王には気恥ずかしかったのだが。

「これで、いいですね。また痛かったら言って

くださいね」

「あ、ああ……」

 手当を終えてユーリアが身を引くと、魔王は

残念なような、ホッとしたような奇妙な表情を

浮かべている。

 その理由もユーリアには訳が分からないの

だった。

「む、村は、大丈夫なのかよ」

「ああ、女神様が村の時間を止め、今は何者も

入れなくなっています。イヴリスや魔族や魔物達も

ですから、心配はいりません。全てが終わったら、

また一緒に村に戻っていただけますか、魔王? 

 お手数になりますが、魔界に帰る前に村に

来てほしいのです」

「別にいいけど」

 勇者には世話になってるし、とそっぽ向きながら

言うと、ユーリアが「よかったです」と笑顔になった

ので魔王はしばらくユーリアの顔が見られなかった。

 最初は無表情な事が多かったユーリアだが、最近は

よく笑うようになって来た。

 本人は、無表情なのは意識している訳ではない

らしいが。

 いつか、ユーリアは自分の事を男として意識する

日は来るのだろうか。

 そう思いながら、料理の材料を探しに行った

ユーリアの姿を魔王はこっそり後ろから

眺めていたのだった――。

 ようやく魔王と勇者が合流出来ました。

シリアスチックな展開になってしまって

いましたが、ここからはほのぼのギャグに

またなっていくと思います。

 魔王様のほのかな想いは前途多難です(笑)。

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